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砂の器(ある意味)《iquotlog》

「明日のお弁当に、春巻きと砂入れるから」
 妻が言った。
「砂?」
ぼくはツナの言い間違いかと思って聞き返した。
「いや、そうじゃなくて、スナ、じゃない、あれ何やっけ、ナス!」
まさかの逆さ言葉にぼくは口を開けたまま何も言えない。
「ナスや! すごくない? ほら、ナスって反対から読んだら砂! 知ってた?」
「いや、知らなくていいから!」
「なんで? すごくない?」
「だって反対から読んでみたら、知らなくてもいつでもわかるから!」
 砂の入った弁当は、せっかく春巻きが入っていても台無しだ。砂を入れた弁当箱もある意味砂の器だな。
 ぼくの反論に納得いかなかっただろう妻は、娘に、
「ナスって反対から読んだら砂やで。知ってた?」
と尋ねる。
「知らなかった!」
と素直な娘。
 とっくに寝室に引き上げて、そんな会話を離れたところから聞いているぼく。
 でも少し頭を冷やせば、自分だって「新聞紙」を下から読んでも「紙聞新」であることを、いや、「しんぶんし」であることを、誰かから聞かなかったら知らなかっただろうし、「反対から読んでみればわかる」と強がっても、反対から読んでみるということすらしなかっただろう。
 茄子を反対から読むなんて、考えたこともなかった。やっぱりぼくは茄子を逆さから読めば砂だということを知らなかったんだ。このわずかな知識の差が、将来この家庭でどちらがイノベーションを起こせるかの差になる。
 ぼくが思いもしない逆さ読みの言い間違いから、茄子が砂になる知識にジャンプする。その妻のテクニックにはやはりびっくりするしかない。

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