【第2回】ストックオプションの基本概念

ストックオプションを理解するためには、基本概念を把握することが重要です。今回は、ストックオプションに関連する基本用語やトレードオフとリスクについて説明します。

  1. オプション価格: ストックオプション(権利そのもの)を取得するために支払われる金額です。権利行使時に株式を取得するために払い込む「行使価格」とは異なります。オプション価格は、その時点の株価、行使価格、想定ボラティリティ、権利行使期間などによって変わります。

  2. 行使価格: 従業員がストックオプションを行使して、株式を購入するために支払う金額です。行使価格は任意の価格に設定することができ、行使価格が高くなるほど、オプション価格は低くなります。株価が行使価格より高くないと、権利行使により利益を得ることができないからです。行使価格が1円に設定されているストックオプションの価値は、その時点における株式の時価とほぼ同額となります。

  3. 満期日: ストックオプションが行使できる期間の終了日です。満期日までに従業員がオプションを行使しない場合、オプションは無効となります。なお、オプションは権利なので必ずしも行使する必要はなく、行使しても利益が得られない(行使価格>株価)の場合には、権利行使されません。

  4. 行使期間: ストックオプションが行使できる期間です。ストックオプション付与時から満期日までの任意の期間(例:1年後から満期日まで)または時点(例:毎年の付与日の応答日)に設定することができます。期間が長い方がオプション価値は高くなります。一般的には、付与から一定の間(ベスティング)権利行使が制限され、その後満期日までの間にオプションを行使することができると言う設計が多いようです。

  5. ベスティング(据え置き期間): 従業員がストックオプションを行使できるようになるまでの期間です。通常、ベスティング期間は雇用開始日から数年後に設定され、一定期間ごとにオプションの一部が権利行使可能となります。これは、従業員の長期的なロイヤリティを確保するための仕組みです。なお、ストックオプションはコール・オプション(買う権利)であり、コール・オプションは早期に権利行使をする利益がないため、ベスティング期間の長短はオプション価値には影響しません。

  6. 希薄化(ダイリューション): ストックオプションが行使されることで、既存株主の持ち株比率が相対的に減少する(薄まる)ことです。ダイリューションは、企業の資本構成や株主価値に影響を与えるため、適切な資本資本政策を行うこと重要です。ただし、従業員向けストックオプションの場合は、資金調達目的の新株予約権と異なり、大幅な希薄化は通常想定されません。

ストックオプションには、以下のようなトレードオフとリスクがあります。

  1. モチベーションとリスク: ストックオプションは従業員のモチベーション向上に寄与しますが、株価の変動によるリスクも伴います。株価が下落した場合、従業員のストックオプションは価値を失うことがあります。そのため、企業は従業員にリスクを十分に説明し、適切なリスク管理を行うことが重要です。

  2. 資本コスト: ストックオプションの行使により、企業は新たな資本を調達できますが、ディルューションや株主価値の変動などのコストも発生します。企業はこれらのコストを考慮し、ストックオプションプランの適切な設計を行う必要があります。

  3. 税制上の課題: ストックオプションの行使や売却に伴う税負担が重く、従業員がオプションを活用しにくい状況があります。企業は税制上の制約と対策を理解し、従業員に適切な情報提供とサポートを行うことが求められます。

  4. 法制度の変更: ストックオプション制度は、法制度の変更や政策の影響を受けるため、企業は常に法令の変更に注意を払い、対応策を準備する必要があります。

これらの基本概念やトレードオフ、リスクを理解することで、スタートアップ企業はストックオプションプランを適切に設計・運用することができます。次回の第3回では、「ストックオプションの評価方法」について詳しく解説します。オプション価値を評価するための代表的な手法であるブラック・ショールズ・モデルや 二項ツリーモデルについて学び、スタートアップ企業が従業員に提供するストックオプションの価値を適切に評価する方法を学びましょう。


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