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【同時通訳演習 第10回 振り返り】通訳者 N&Y

同時通訳演習の回数もいよいよ2桁にのりました。今回は節目の第10回、テーマはMさんによる Fundamentals of Software Engineering(ソフトウェアエンジニアリングの基礎)です。今回の英日同通でペアを組んだNとYで、良かった点と悪かった点、パートナーとの比較、そして次回に向けた目標を中心に振り返りをしていきます。

1.良かった点

N:今回は今までの中で一番、間をあけないスムーズなパフォーマンスができました。後で音声を聞いたところ、間が空いてたのはスライドの切り替えのところくらいで、そこは話者もしゃべってないところで間があってしかるべきだったので心の中で大きくガッツポーズをしました。苦しい時でも何かしら話してごまかすというテクニックが身に付いたのだと思います。(もちろん通訳スキルがあがったのもあると思います。そうあってほしいです。)

前回の演習では難関箇所であきらめの気持ちが出てきて間をあけてしまい、大変反省しました。今回は、たとえ分からなくても何かしら言おうという意気込みで臨んだのがよかったと思います。根性論みたいになってしまいますが、たとえ意気込み一つでも、これに意識がついてくることによりパフォーマンスに大きく影響するので、結構変わるものです。

1回目の通訳ターンで、話者がフロントエンド開発とバックエンド開発の違いを説明する場面があり、予想していなかったレストランの比喩が急に登場しました。しかし、「レストランの話なら分かりやすいはず、なんならエンジニアリングより全然いい、恐れるものはない」と自分に言い聞かせて訳しました。とりあえず聞こえてきたものをチャンキングして、上手い具合に処理することができました。メンタル的にも成長できたような気がします。


Y:まず今回一番の気づきは、自分の訳出にこれまでの2か月間の練習成果が安定して見え始めてきたことです。ですから、見渡す限りの改善点を道標に、これからも少しずつ前進していきます。

1つ目は「話者と伴走する力が身についてきたこと」です。「スライドは正義」と関根先生から何度もご指導いただきましたが、スライドの活用の実践を出来たのはとても嬉しかったです。表示されているスライドの情報を訳に組み込んだり、少し先行して訳出したりすることは、話者の話すスピードに合わせて訳出するには大事な技術であると実感しています。また、時には短かったりちょっとハマらない格好悪い訳文でも大丈夫!というメンタリティも養われてきました。発表に遅れないためには、短足でもいい、プランBでもいいという割り切りと勇気が養われてきたように思います。

聞く・話すの意識の向け方が分かってきたこと」もポジティブな発見かもしれません。2月初めの第1回演習では、自分の声ばかり聞こえてしまい、訳そうにも迷子になってしまい訳す作業がお留守になっていました。きっとあまり参考になりませんとお断りしつつ、誤解を避けるべく具体的に説明します。発表(聞く)と訳(話す)に向けている意識レベルを細かく調整するようにしています。ホテルや高級なお部屋によくある、あのギザギザのゲージです(幼少期は上下に動かして良く遊んでいました)。スピードや内容により理解に自信がない時は聞く方に、少し遅れている時は話す方に、また聞き逃してしまった時は聞く方に、印象付けたいメッセージなら話す方に、といった具合にです。聞く・話すの2つのランプの発光具合を調整するようなイメージです。(もちろん分析や対応といった、一般的な通訳のプロセスと矛盾する意見の表明ではありません)。また、少なくとも自分の担当時間の訳全体は俯瞰したい、という余裕も生まれてきました。

2.悪かった点

N:発表の冒頭でMさんが「自分は開発者等ではないので、専門的なことは話さない」と述べる場面がありました。なぜかここを「私は開発者ではないので〜」と言いたかったのに「僕は〜」と言ってしまい、一気に稚拙な訳文が出来上がってしまいました。録音を聞くと、このあと気が動転してしまったのか「えっとおー」という言葉を発していて、苦笑いするしかありませんでした。

ここは発表開始直後の情報量が少ない部分だったため、少し気が緩んで普段友達としゃべるようなテンションになってしまったのが反省点です。また、Mさんの使った「エキスパート」と「デベロッパー」という言葉をそのまま言うか、「開発者」とかに直すか、ということを考えるのに脳のリソースを割いてしまい集中力が鈍りました。このようなもったいないミスは避けたいのでもっと集中力を高める必要があります。

原文の情報量が多くなってくると自分の集中力がさらに鈍り、訳のなめらかさが落ち、フィラーも増えたのが分かりました。この点が大変残念でした。前述の話と関連していますが、難しい箇所でも集中力を切らさないようにするための練習が必要だと感じました。

また、訳文の無駄がまだまだ多いように感じました。同じことをくり返したり、いらないことを言ってたりする場面が目立ちました。たとえばMさんがエンジニアの種類について説明する場面では「スライドにいくつかのせていますが、何種類かあります。」というように意味が重複した訳文を出していました。「ご覧のように何種類かあります」あるいは「スライドにいくつか例を載せています」というようにどちらかだけでよかったと反省しました。

「バックエンド開発は、たとえるならばレストランのキッチンです」という発言についても「….レストランのキッチン、つまり厨房ですね」という訳し方をしていました。なぜ誰でも分かるキッチンという単語にわざわざ厨房という説明をつけたのか、無駄でしかないと思いました。何個か前のスライドで「AIとはアーテフィシャルインテリジェンス、つまり人工知能のことです」といった形式の訳し方を度々してたのでそれに引きずられたのかもしれません。しかしよくよく考えたら、AIももはや常識なのでこの訳もいらなかったと思います。本日の講義では「なるべく無駄を削ぎ落とす」ということを学習したので、ここをもっと意識していく必要があると思いました。

今後の成長に期待して、悪かった点を多めに書こうと思います。演習で気になったのは、語尾が上がっている部分が多いということと、スピーカーが「you」などと言った時についつい「あなたは〜」と訳出してしまうことです。話者が英語で「You might have seen this.」と言ってもいたって普通なのですが、発表で「あなたはこれを見たことがあるかもしれません。」などという話し方をする日本人はいないと思います。次回からは「皆様は」というようにしっかりその言語のトーンに合わせたいです。語尾についても、普段の練習から下げる意識をもって取り組みたいです。


Y:いくつもの誤訳、散見されるフィラーともごもご、気弱な訳出開始・終了など、挙げ始めればキリがありません…。今回は、上述の「良かった点」に商品価値を生むには何が必要かを考えていきます。

良かった点①:話者と伴走する力が身についてきたこと
改善点:スライドも活用して訳全体の精度を上げること、チャンキングの長さのコントロール
スライドのキーワードや文章を頼りに、より多く・正しく訳せるようにしたいと思います。また、とても短いチャンキングから、少し短いチャンキングへと、長さのコントロールを行えるようになりたいと考えています。逐次通訳訓練でのリテンションを活かします。

良かった点②:聞くと話すの意識の向け方が分かってきたこと
改善点:メッセージに応じた正確な間、抑揚、スピードのコントロール
関根先生や今回のパートナーのNさんにもご助言いただいていますが、あまり大事でない部分を大袈裟に発生してしまうフシがあったので、一番に取り組みます。話者の説明の「山場」を押さえて再現できるようになるかが、今後の課題です。また、小さな技術を一つひとつ自動化(automation)していく方法を考えています。訳出プロセスの中で考えずに行えることが増えるほど、より意識を集中させるべきエリアに取り組めるからです。筆者の自主練習を例にとれば、知っている言葉を正しく発話するのは自動化できていますから、頭で話者のストーリーが絵(イメージ)として描けている場合には、発音や文法にはあまり意識は向いていません(とはいえ、英語の冠詞は苦手意識があります。絶賛勉強中です!)。こういった時はむしろ、声を効果的に使いスピーチ全体の印象の向上に意識を集中させて取り組めています。このような自動化の考え方は、ノートテイキングから転用させていただきました。ベルジュロ伊藤氏の『よくわかる逐次通訳』や、先日お招きした白倉先生から沢山学ばせて頂きました。


3.パートナーとの比較

N:Yさんは声のトーンのアップダウンが非常に豊かで、ずっと聞いてても飽きない訳だと思いました。講評でもあったように、大事な部分とそうでない部分にこのアップダウンがしっくりとはまれば、訳としての価値がさらに高まると思います。私自身も、常にアップ調で訳をつくっている節があるので、情報価値によって上手くアップの部分と押さえる部分を使い分けていきたいと思いました。

もう一つYさんの訳で見習いたいのは、文章の臨機応変な組み立て方です。Yさんの訳を聞いていると「〜という点です」「〜という状況があります」「〜が生じてしまいます」「〜ということにつながります」というように、自分のチャンクした文章に上手くくっつけられるような文末を使っているという印象を受けました。これと関連してなのですが、日本語もとても綺麗で、私の訳のようにら抜き言葉が度々登場することもありませんでした。

Yさんのような表現を使いこなせれば、チャンキングもより楽になり、訳の幅が広がる気がします。私はまだ「です」で終わらせてしまうので、Yさんを見習ってグレードアップしていきたいです。プログラミング言語について説明がなされる難解な箇所も(しかも事前打ち合わせ情報になかった内容も登場)持ち前の臨機応変な文の組み立てで対応されていて流石でした。


Y:この英語通訳塾の講座を通して、Nさんはエネルギーに満ちてて素晴らしいです。そういった姿勢はもちろん、訳にも表れていると感じています。例えば、もしかするとベストと思えない訳文であっても、できるだけ声の調子を保ちながらプランBやプランCで対応されています。今回も新しい内容に柔軟に対応されていて、特にソフトウェア開発をレストランを例に説明していた場面は聞いていてとても分かりやすかったです。

もう1つ学ばせていただいたところは、話者に合わせた訳出速度と訳の密度です。10秒以上におよぶ長文も、3~4文に小分けにして訳出されています。英日通訳においては、短く出せる日本語を意識しているのかな、とお見受けしました。過分な英語の主語や目的語、浸透しているカタカナ語の和語、特にフィラーなどは全く出てきません。今回もそうですが、筆者は「えー…」が多いので、モデルにさせていただきたいです。

4.次回の目標

N:次回は苦手とする日英通訳です。文法の間違いを減らしていきたいです。したがって、「ミスをするかもしれない」というリスクをそもそも減らすために、短く簡潔で平易な表現のセンテンスで通訳したいと思います

これに加え、通訳できる時間を伸ばしてスタミナをつけていきたいです。自分の持ち時間の最後まで集中力を切らさないように、脳のリソースを上手く節約しながら取り組んでいきます。訳文の無駄を減らすということがキーポイントになってくると思うので、ここを特に意識して臨みたいです。情報の取捨選択をした後は声を上手く使って、大切な部分を際立たせる訳というのを目指していければと思います。

Y:次回の英日通訳が最後の演習となります。これまでの目標に加えて、次回演習に向けての取り組みを考えました。①リテンション・頭に絵を描く練習をする②通訳プロセス内で自動化できることを考えて取り組む③日々の自分の色々な録音を分析し改善していく、の3点です。シンプルながらも、じっくり腰を据えて取り組んでいきます。

本日も私たちのnoteに足をお運び頂きありがとうございました。
残る2回の同時通訳演習の振り返りも、ぜひご覧ください。


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