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SNS活動休止アカウント対応の難しさ─Twitter活動休止アカウント停止をめぐる議論─


湯淺墾道(明治大学)

SNSと活動休止アカウント


 世界中で多くのユーザを有するSNSであるTwitterを買収したイーロン・マスク(Elon Musk)氏が,2023年5月,数年間にわたってアクセスのないアカウントの削除を進めているとツイート$${^{☆1 }}$$したため,Twitter上の活動休止アカウントの削除をめぐる問題が表面化している.

 アカウントに数年以上アクセスがなくなる原因には,ユーザ自身の自主的な活動休止,アカウントの乗り換えなどのほか,ユーザの死去もあるとみられる.これらの活動休止アカウントの数は明らかではないが,Facebookの場合,仮に2018年以降に新規ユーザが増えないと仮定しても2100年までに2億7,900万人のユーザが死を迎えるという推計もあり$${^{1) }}$$,相当な数になるであろう.

活動休止アカウントの問題点


 長期間にわたってアクセスがないまま放置されているSNSのアカウントには,問題点が少なくない.

 アカウントがIDやパスワードの窃取など何らかの方法によって乗っ取られた場合,詐欺行為など各種のサイバー犯罪への利用や,ほかのユーザへのSPAMメッセージ送信,悪質な誹謗中傷や名誉毀損を行うための利用など,犯罪や不法な行為の温床となる恐れがある.またアカウントの管理が行われないため,不適切な内容のリツイートやコメント等があったとしても放置されることになり,「炎上」が放任されるという事態も生じかねない. 

アカウントの法的位置づけ


 アカウントそれ自体について,現行の法制では,ユーザと事業者との間の契約(約款)によって利用する権利が生じるので,原則として契約の内容による規律にゆだねられる.他方でアカウント情報は個人を特定する情報や個人に関連する情報という側面もあるので,事業者は個人情報保護法の規制も受けることになる.また2023年6月施行の電気通信事業法改正では,検索情報電気通信役務,媒介相当電気通信役務が新設されるので,サービス提供態様によっては電気通信事業法の規制を受ける場合もある.

 アカウントは,日本の場合はSNS,オンラインゲーム,電子メール,クラウドストレージ等の種類を問わず,多くのサービスがユーザとの契約(約款)において,ユーザとしての権利を一身専属のものと規定し,譲渡や相続はできないとしている.したがって,ユーザ本人が明確に所有権を有している機器類の中に記録されるデータは機器類自体を相続することで承継が可能となるが,アカウントそれ自体とアカウントを介して利用していたサービスおよびそれに付随するデータの承継は容易ではないのが現状である.

活動休止アカウント停止の問題点


 このような活動休止アカウントについて,SNS事業者側が一定の基準を設けてアカウントを停止しようとする場合,停止の是非と,停止後のデータの取扱いという問題がある.

 停止の是非については,個人情報やプライバシー等の人格権的な利益とアカウントが創出・内包する経済的な利益を区別するとともに,一般ユーザ,芸能人等,政治家等の公的な活動にかかわるものというアカウントの種類ごとの検討が必要となろう.

 特に公的なアカウントは,公共性を有する場合があり,停止によって過去の公的な活動や言動を検証できなくなる等の問題が生じる.また「公文書」に該当するのかという問題もあり,適切な保存と情報公開の方法が確保されなければならない.この点で参考となるのはアメリカ大統領の公的アカウントの保存方法であり,オバマ(Barack Obama)大統領以降は,公的SNSのアカウントの多くは後任者に管理権が移され,退任者の分は保存用のアカウントに移動されて公開されている.

 アカウント停止後の当該アカウントに関連して保存されているデータの取扱いについて,データそれ自体には所有権が発生しないため,事業者は原則として自由に利用できることになる.個人情報に該当するものについては,生存する遺族の個人情報の一部である場合や生存する遺族のプライバシーを侵害する場合には,事業者は自由に利用することができない.なおスマホによる決済(「○○ペイ」類)のうちサービス内に残高をチャージしてそこから支払う態様のものは,約款では他のアカウント類と同じようにユーザの一身専属性を規定している場合があり,約款上はユーザが死亡したときにその残高を遺族が承継することができない.

死後の管理の方法


 SNSのアカウントは,生前に本人が取扱いを指定することができたり親族が閉鎖を求めたりすることができる場合がある$${^{2) }}$$.他方,本人と親族の意向が異なる場合,どちらが優先されるかという問題が残っている.この点でフランスのデジタル共和国法(デジタル国家のための法律第2016-1321号)では,生存する本人に対してその死後の個人データの取扱いや管理についての決定権を与えている.またアメリカ各州では,アカウントやデータを「デジタル資産」として一体的に法的に保護しようとしたり,パブリシティの権利として人格権的に保護するのではなく財産権的に保護しようとしたりする動きがある$${^{3) }}$$.

 しかし,アカウント類の遺族への承継は難しい場合が多い.遺族への承継という観点から,本人が所有権を有する機器類や媒体にバックアップを作成すること,少なくともどのサービスを利用しているかを親族へ伝えておくことが必要となろう.また,人気ユーチューバーのアカウントなど,サービスを利用するアカウント自体が経済的価値を生む場合,現状では約款によってそのような経済的利益の継承は認められない場合が多いが,スマホによる決済(「○○ペイ」類)のチャージ残高の場合は事業者が払い戻しに応じる場面も増えており,親族への利用状況の伝達が必要であろう.

脚注
☆1 
https://twitter.com/elonmusk/status/1655608985058267139

参考文献

1)Öhman, C. J. and Watson, D. : Are the Dead Taking Over Facebook? A Big Data Approach to the Future of Death Online, Big Data & Society, January-June 2019: 1-13.
2)折田明子,湯淺墾道:死後のデータを残すか消すか?:追悼とプライバシに関する─考察,情報処理学会論文誌,61巻,4号,pp.1023-1029 (Apr. 2020).
3)湯淺墾道:死者の個人情報の保護,ガバナンス研究18号,pp.18-43(2022年3月).

■湯淺墾道(正会員)
1970年生まれ.2021年より明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授.


(2023年6月14日受付)
(2023年6月22日note公開)


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