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「モデル化とシミュレーション」分野の問題を解いてみよう!

高木正則(電気通信大学)

 今回の連載「教科『情報』の入学試験問題って?」では,「情報」試作問題(検討用イメージ)の第4問「交通渋滞シミュレーション」を取り上げます.

 前回までの入試問題解説に関してはこちら(https://note.com/ipsj/m/m1ca81b5d1e66)を確認してください.

「モデル化とシミュレーション」の位置づけ

 「モデル化とシミュレーション」は情報Ⅰの「3. コンピュータとプログラミング」で学ぶことになっています.大学入試センターから2021年3月に公開された大学入学共通テスト「情報」サンプル問題$${^{1)}}$$には,「モデル化とシミュレーション」分野の問題が含まれていませんでしたので,ここでは,2020年11月に公開された「情報」試作問題(検討用イメージ)$${^{2)}}$$の第4問「交通渋滞シミュレーション」の問題を見てみたいと思います.

試作問題4の解説

 この問題では,朝の通勤時間帯に発生する交通渋滞を緩和するための方法を検討するために,交通量や信号の時間を設定して,交通渋滞の発生状況をシミュレーションしています.「モデル化とシミュレーション」については,研修用教材$${^{3)}}$$でも述べられているように,「数学A」の(2)「場合の数と確率」との関連が深く,この問題でも,車の到着台数の決定方法に一様乱数が用いられています.ただし,現実的なモデルはポアソン分布となりますので,この問題のシミュレーション結果のように,整然としたグラフになるわけではありません.これは,この問題が離散数学ではなく情報Ⅰの問題として出題されていますので,モデル簡略化のために一様乱数を使用していると考えられます.これにより,情報Ⅰとして注目すべきポイントにフォーカスをあてることができ,情報Ⅰとして妥当な設問になっていると思います.

 また,問題の冒頭部分では,シミュレーションの対象が交通渋滞であることが説明されたあと,現状の交通量,信号の時間などの調査の結果,分かったことなどが記述されています.これらの記述から,シミュレーションの条件を読み取ることが重要となります.

 続いて,10秒間に到着する車の台数は乱数で決まること,8:00時点の信号待ちの車は0台と仮定することが説明され,シミュレーションで想定する交差点の到着台数が図2に示されています.図2は横軸が8:00から8:30までの経過時間(0秒から1,800秒),縦軸が車の到着台数を示しており,国道と県道の到着台数が10秒間隔で示されています.図2から,到着する車の台数が問題の冒頭にあった条件(国道は8~12台,県道は3~4台)を満たしていることが確認できます.

 図3には現状の条件でシミュレーションした結果が示されており,横軸は8:00から8:30までの経過時間(秒),縦軸は渋滞台数を表しています.たとえば,国道は0秒から60秒まで渋滞台数が0の位置に点が打たれていますが,これは青信号で車が通過している(渋滞していない)ことを表しています.60秒から90秒までは渋滞台数が増加していますが,これは赤信号で車が交差点に止まっている状態を表しています.90秒からは渋滞台数が減少しており,信号が赤から青に変わって車が交差点を通過し始めたことが分かります.

 一方,県道の信号は国道の逆になりますので,0秒から60秒までは赤信号で渋滞台数が増加し,60秒から90秒までは青信号で渋滞台数が減少しています.図3の270秒以降では,県道の渋滞台数が徐々に増加していることが分かります.これは,赤信号から青信号に変わったとき,赤信号で渋滞していた車のすべてが交差点を通過できなかったことを表しています.逆に,国道は青信号になると赤信号で渋滞していた車がすべて通過し,交差点に到着した車が止まらずに通過できる時間帯があることを表わしています.つまり,国道の青信号の時間を短くし,県道の青信号の時間を長くすれば,渋滞を緩和できることが推測できます.

 図4は到着台数を変えずに国道の青信号の時間と赤信号の時間を変更したシミュレーション結果が示されています. 【ア】では図3のシミュレーションから変更した図4の条件を読み取れるかどうかが問われています.図3,図4から一つ一つの点は,10秒間隔での到着台数を表していることが分かりますので,県道の渋滞台数が増加している期間の点の数が5であることから,県道の赤信号が50秒,つまり国道の青信号が50秒であることが分かります.また,国道の渋滞台数が増加している期間の点の数が4つであることから,国道の赤信号が40秒であることが分かります.よって, 【ア】は③が正解となります.

 【イ】,【ウ】では,図3(現状)と図4(条件変更後)の比較から分かったことを,解答群の中から選択する問題となっています.

⓪:県道を通過した車の台数は,図3では,8:30時点で渋滞台数が40台より少なめであり,交差点を通過できない車が残っていますが,図4では,8:30時点で渋滞台数が0台であり,すべての車が交差点を通過したことが読み取れます.したがって,⓪は不正解となります.

①:国道を通過した車の台数は,図3,図4ともに,青信号になると赤信号で停車していたすべての車が交差点を通過しています.1,800秒時点の渋滞台数は図3が30台より少し多め,図4が45台より少し少なめと異なり,8:00~8:30の30分間に交差点を通過した車の台数には多少差がありますが,次の青信号でいずれも交差点を通過することが推測できますので,交差点を通過する車の台数に変化はないと考えられます.したがって,①は不正解となります.

②:信号の切り替わりの時点,つまり,図3,図4の折れ線グラフの山の部分において,国道と県道合わせた最大の渋滞台数は,図3が1,800秒時点の60台以上(国道30台より多め,県道40台より少なめ),図4が630秒時点の45台(国道45台,県道0台)であることから,②は不正解となります.

③:②で説明した通り,渋滞している車の最大台数は図3より図4のほうが少なくなっているので,③は正解となります.

④:国道は図3も図4も青信号に変われば交差点に停車しているすべての車が交差点を通過できているため,混み具合はそれほど変化しておらず,むしろ,図4のほうが渋滞の台数が増加しているため,④は不正解となります.

⑤:図4では,国道・県道ともに青信号になれば交差点に到着している車はすべて通過しているため,⑤は正解となります.

モデル化とシミュレーションの利点と難しさ

 今回は交通渋滞を対象としたシミュレーションに関する問題を取り上げました.この問題からも分かるように,シミュレーションは問題を解決するための手段の1つです.現実社会で試すことが困難な場合に,対象としている問題(現象)をモデル化し,コンピュータ上でシミュレーションすることで問題解決のヒントが得られたり,問題を解決するための深い議論を可能にしたりします.実際にコンピュータ上でシミュレーションする際には,現実の複雑な問題をよく観察し,シミュレーションする上で必要な条件を整理することが重要になります.今回紹介した問題等を解いていく中で,モデル化とシミュレーションの利点や難しさなど,シミュレーションの本質についても考えていくと,より深い理解につながり,今後の生活にも役立つように思います.

 なお,このシミュレーション問題を題材にした「モデル化とシミュレーション」の授業実践$${^{4)}}$$についても報告されています.Excelで作成した交通渋滞シミュレーションを生徒が実行し,最も適切な信号の時間を検討した様子が紹介されていますので,こちらも併せてお読みください.

参考文献
1)大学入試センター,共通テスト『情報』サンプル問題,https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html
2)情報試作問題(検討用イメージ),https://www.ipsj.or.jp/education/9faeag0000012a50-att/sanko2.pdf
3)高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材第3章コンピュータとプログラミング,https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_005.pdf
4)井手広康:情報の授業をしよう!:大学入学共通テスト「情報」試作問題を活用したシミュレーション演習,情報処理,Vol.63, No.6, pp.298-302 (2022), http://id.nii.ac.jp/1001/00217813/

(2022年9月11日受付)
(2022年10月20日note公開)

■高木正則(正会員)
2007年創価大学大学院工学研究科博士後期課程修了,博士(工学).創価大学工学部助教,岩手県立大学ソフトウェア情報学部講師,准教授を経て,2022年4月より電気通信大学eラーニングセンター准教授.教育・学習支援システムに関する研究に従事.

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