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高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)に関する情報処理学会の意見表明について


高岡詠子(上智大学)
中野由章(工学院大学附属中学校・高等学校)

 2024年1月30日に本会より,「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)に関する本会の意見表明(https://www.ipsj.or.jp/release/iken20240130.html)を発出した.本稿では,DXハイスクールとは何か,また,DXハイスクールと関連があると考えられる動向を踏まえ,本会はどう貢献できるのかについて解説する.

情報処理学会の提言

2022年度から,高等学校で「情報Ⅰ」が共通必履修化されました.2023年度には,文部科学省が「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」により,高等学校段階におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の抜本的強化を図ろうとしています.

AI戦略2022の実現のため,大学における数理・データサイエンス・AI教育プログラムへの接続も意識し,より多くの高等学校で「情報Ⅰ」に加えて発展的科目の「情報Ⅱ」を開講することが必要不可欠です.

本会は,情報学を専門とする我が国最大の学会として,各地の大学と連携しながら大学院学生を中心としてDXハイスクールの実施を人的に支援したり,従来から実施している「高等学校情報科教員研修」を一層充実させたりすることで,高等学校で「情報Ⅱ」を開講するために必要な学術的コンサルティングや指導者教育・人材育成などを全面的に支援してまいります.

高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)に関する本会の意見表明
https://www.ipsj.or.jp/release/iken20240130.html

 本会のこの意見表明について,以下の通り,朝日新聞でも取り上げられた.

 また,DXハイスクールに関する本会の意見表明等を受けて,DXハイスクール採択校との連携にあたっては,学会員である教員と連携を図ることを検討するとともに,関係教員等による採択校への支援活動に関して配慮するよう,文部科学省が大学および高専機能強化支援事業選定大学に対して求めている$${^{1)}}$$ .

「情報I」と「情報Ⅱ」

 2003年度実施の学習指導要領から高等学校に教科「情報」が新設され,すべての高校生は,情報活用の実践力に重点を置く「情報A」,情報の科学的な理解に重点を置く「情報B」,情報社会に参画する態度に重点を置く「情報C」から1科目2単位を必ず履修することになった.しかし蓋をあけてみると,教科新設のため最後に追加された入門的な科目である「情報A」の開設が4分の3を占め,多くの高校でアプリの操作実習に時間を費している状況がうかがえた$${^{2)}}$$.
 教科「情報」が新設されて10年が経過し,情報活用の実践力に重きを置く科目を廃止し,情報社会に参画する態度に重点を置いた「社会と情報」と,情報の科学的な理解に重点を置いた「情報の科学」の2科目構成となった.それぞれ,標準単位数は2単位で,いずれかを選択履修することが求められた.「社会と情報」が約80%,「情報の科学」が約20%という実施状況だった$${^{3)}}$$.

 2022年度から実施された現行の学習指導要領では,すべての高校生が「情報I」という共通必履修科目を学ぶことになった.「情報I」は,問題の発見・解決に向けて,事象を情報とその結び付きの視点から捉え,情報技術を適切かつ効果的に活用する力を養う科目であり,「情報Ⅱ」は,「情報I」において培った基礎の上に,問題の発見・解決に向けて,情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用する,あるいはコンテンツを創造する力を養う科目である$${^{4)}}$$.

「情報Ⅱ」の概要は以下の通りである.

  1. 情報社会の進展と情報技術
    情報技術の発展の歴史を踏まえて,情報セキュリティおよび情報に関する法規・制度の変化を含めた情報社会の進展,情報技術の発展や情報社会の進展によるコミュニケーションの多様化や人の知的活動に与える影響を理解するようにし,コンテンツの創造と活用,情報システムの創造やデータ活用の意義について考える力を養う.

  2. コミュニケーションとコンテンツ
    コミュニケーションを適切に行うために,目的や状況に応じてコンテンツを制作し,発信する学習活動を通じて,情報の科学的な見方・考え方を働かせ,多様なメディアを組み合わせてコンテンツを制作する方法やコンテンツを発信する方法を理解し,必要な技能を身に付けるとともに,情報デザインに配慮してコンテンツを制作し評価し改善する力を養う.

  3. 情報とデータサイエンス
    情報の科学的な見方・考え方を働かせて,問題を明確にし,分析方針を立て,社会の様々なデータ,情報システムや情報通信ネットワークに接続された情報機器により生成されているデータについて,整理,整形,分析などを行う.また,その結果を考察する学習活動を通して,社会や身近な生活の中でデータサイエンスに関する多様な知識や技術を用いて,人工知能による画像認識,翻訳など,機械学習を活用した様々な製品やサービスが開発されたり,新たな知見が生み出されたりしていることを理解するようにする.さらに,不確実な事象を予測するなどの問題発見・解決を行うために,データの収集,整理,整形,モデル化,可視化,分析,評価,実行,効果検証などの各過程における方法を理解し,必要な技能を身に付け,データに基づいて科学的に考えることにより問題解決に取り組む力を養う.こうした活動を通して,データを適切に扱うことによって情報社会に主体的に参画しその発展に寄与しようとする態度を養う.

  4. 情報システムとプログラミング
    実際に稼働している情報システムを調査する活動や情報システムを設計し制作する活動を通して,情報の科学的な見方・考え方を働かせて,情報システムの仕組み,情報セキュリティを確保する方法,情報システムを設計しプログラミングする方法を理解し,必要な技能を身に付けるようにするとともに,情報システムの制作によって課題を解決したり新たな価値を創造したりする力を養う.

  5. 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究
    教科の目標に沿って,地域や学校の実態及び生徒の状況に応じて情報と情報技術を活用して問題発見・解決の探究を通して,情報の科学的な見方・考え方を働かせて,情報と情報技術を適切かつ効果的に活用するための知識及び技能の深化・総合化,思考力,判断力,表現力等の向上を図る.また,このような活動を通して情報社会における問題の発見・解決に情報と情報技術を適切かつ効果的に活用しようとする態度,新たな価値を創造しようとする態度,情報社会に参画しその発展に寄与しようとする態度を養う.

参考:文部科学省, 高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材,
https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_001.pdf

 「情報Ⅱ」の本質は,より実践的,より探究的である.「数学Ⅰ」「数学Ⅱ」の分類とは異なり,「情報Ⅱ」では,「情報I」の内容をさらに深め,探究的に行うものである.

DXハイスクールとは何か?

 大学教育段階で,デジタル・理数分野への学部転換の取り組みが進む中,その政策効果を最大限発揮するためにも,高等学校段階におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の抜本的強化が必要であるという現状の課題が存在する.その課題解決のため,文部科学省が,「情報,数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに,ICTを活用した文理横断的な探究的な学びを強化する公立・私立の高等学校等1,000校程度に対し,そのために必要な環境整備の経費1校あたり上限1,000万円を支援する」事業である.

(文部科学省:高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール),令和5年度文部科学省補正予算事業別資料集,p.54
https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420672_00008.htm

 本事業に関し,各都道府県教育委員会学校教育主管課担当者,各都道府県私立学校主管課担当者,高等学校を置く公立大学法人担当者宛に令和6年1月16日付で「令和5年度高等学校等デジタル人材育成支援事業費補助金(高等学校DX加速化推進事業)の事業計画検討依頼について(依頼)」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_02621.html)の事務連絡が発出された.この事務連絡に基づき,各教育委員会,各高等学校ではDXハイスクールの事業計画の検討がされてきた.

 本事業の実施にあたっては,以下の2点を満たす必要がある.
(文部科学省, 高等学校等デジタル人材育成支援事業費補助金(高等学校DX加速化推進事業)採択基準, https://www.mext.go.jp/content/20240131_mxt_koukou01_000033692_004.pdf

  1. 評価項目1-1「情報Ⅱ等を令和6年度においてすでに開設していること.また,遅くとも令和8年度までに受講生徒数の割合を全体の2割以上とすることを目指すこと」
    もしくは,
    評価項目1-2「情報Ⅱ等の開設に向けた具体的な検討を遅くとも令和6年度中に開始し,必要な準備を進めること.その際,遅くとも令和8年度までに新規開設するとともに,早期に受講生徒数の割合を全体の2割以上とすることを目指すこと」
    のいずれか.

  2. 評価項目2「デジタルを活用した課外活動又は授業を実施するための設備を配備したスペースを整備し,情報,数学,理科,理数,専門教科(情報・理数系の要素を含むもの)等の教育内容の充実,文理横断的・探究的な学びの機会の確保,対話的・協働的な学びの充実を図ること」

大学における数理・データサイエンス・AI教育プログラムへの接続

 AI戦略2022(統合イノベーション戦略推進会議: AI戦略2022, pp.31-32
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/kaigi.html)によれば,「数理・データサイエンス・AI」を,デジタル社会の基礎知識(いわゆる「読み・書き・そろばん」的な素養)と位置付け,2025年には,全ての国民が持続可能な社会の創り手として必要な力を全ての国民が育み,社会のあらゆる分野で人材が活躍することの実現を目標としている.そのために,高等学校の具体目標を次のように設定している.

全ての高等学校卒業生(約100万人卒/年)が,データサイエンス・AIの基礎となる理数素養や基本的情報知識を習得.また,人文学・社会科学系の知識,新たな社会の在り方や製品・サービスのデザイン等に向けた問題発見・解決学習を体験.

統合イノベーション戦略推進会議: AI戦略2022, pp.31-32
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/kaigi.html

 ここに記載されている「新たな社会の在り方や製品・サービスのデザイン等に向けた問題発見・解決学習を体験」は,「情報Ⅱ (5) 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究」が効果的に実施されることで培うことができる.
 さらに大学での具体目標としては,文理を問わず,全ての大学・高専生が初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得することが掲げられており,一定の要件を満たした優れた教育プログラムを文部科学大臣が認定/選定することによって,大学等が数理・データサイエンス・AI教育に取組むことを後押しする制度である「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」が制定された.2021年度には「リテラシーレベル」の認定がスタートし,2年間で全大学の約20%が認定を受けている.2022年度からは「応用基礎レベル」の認定もスタートした.
 上記のような,大学における数理・データサイエンス・AI教育プログラムへの接続を意識し,高等学校における具体目標を実現するためには,「情報Ⅰ」を基礎とした「情報Ⅱ」の開講が欠かせない.

「情報Ⅱ」の意義

「情報Ⅱ」の設置がもたらすもの

 「情報Ⅰ」の内容は次のようになっている.

(1)情報社会の問題解決
(2)コミュニケーションと情報デザイン
(3)コンピュータとプログラミング
(4)情報通信ネットワークとデータの活用

 一方,「情報Ⅱ」の内容は,次のようになっている.

(1)情報社会の進展と情報技術
(2)コミュニケーションとコンテンツ
(3)情報とデータサイエンス
(4)情報システムとプログラミング
(5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究

 これらを比較すると,「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」で,それぞれ,Ⅰの(1)とⅡの(1)および(5),Ⅰの(2)とⅡの(2),Ⅰの(3)とⅡの(4),Ⅰの(4)とⅡの(3)が,きれいに対応していることがよく分かる.
 「数学」の場合,科目名が違えばその内容は大きく異なるのと,様相が異なる.

数学A (1)図形の性質 (2)場合の数と確率 (3)数学と人間の活動
数学B (1)数列 (2)統計的な推測 (3)数学と社会生活
数学C (1)ベクトル (2)平面上の曲線と複素数平面 (3)数学的な表現の工夫

 「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の内容に,数学のような明確な違いはなく,レベル感が異なっているだけと言っても過言ではない.

 さらに,「情報Ⅰ」の科目目標は次のようになっている.

情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ,情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し,情報社会に主体的に参画するための資質・能力を育成することを目指す.

 一方,「情報Ⅱ」の科目目標は,次のようになっている.

情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ,情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的,創造的に活用し,情報社会に主体的に参画し,その発展に寄与するための資質・能力を育成することを目指す.

(太字が「情報Ⅰ」との差異)

 「情報Ⅱ」の科目目標は「情報Ⅰ」とほぼ同一であり,違いは「創造的」と「発展に寄与」という点だけである.違いはこの2カ所しかないが,そのゴールは明確に異なる.つまり,「情報Ⅰ」はデジタル社会における善き市民=消費者として必要な教養であるのに対し,「情報Ⅱ」はデジタル社会を先導する者=創造する側として必要な資質・能力の育成を目指している.
 理科の授業は科学者育成のためだけでなく,芸術の授業が芸術家育成のためだけでなく,人として豊かに生きるための教養として必要であると同時に,科学者や芸術家を育てる環境でもあるのと同様に,教養としての「情報Ⅰ」にとどまらず,創造する側にとって必要な資質・能力を育成する「情報Ⅱ」も必要だと考える.

「情報Ⅱ」開設の促進

 今までも,文部科学省や本会は「情報Ⅱ」の重要性や開設を積極的に呼びかけてきた.しかし,残念ながらそれに呼応したのはごく一部の教育委員会に過ぎず,一向に動き出す気配のない閉塞した状態に陥りつつあった.
 このような中,文部科学省は,「⾼等学校DX加速化推進事業」通称,DXハイスクールを予算化した.これは,情報や数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともにICTを活⽤した⽂理横断的・探究的な学びを強化する学校などに対して,そのために必要な環境整備の経費を1,000校にそれぞれ1,000万円支援するという大規模なもので,文部科学省の本気度が表れている.
 この申請をするにあたっては,評価項目と配点が設定されていて,それは次のようになっている(得点は最大の場合).

  1. 情報Ⅱ等の教科・科目の開設等
    既設 50点+10点(必修)
    検討 50点

  2. デジタル環境の整備と教育内容の充実 35点

  3. 理数系科目の充実 30点

  4. 情報・理数系学科コースの充実
    既設 10点
    検討 15点

  5. 文理横断的な新しい普通科の設置
    既設 15点
    検討 20点

  6. 特別支援学校の学びの充実 15点

  7. 多面的な入試の実施 10点

DXハイスクール

 本会の「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)に関する意見表明」でも述べているとおり,高等学校段階におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の抜本的強化を図ることが,AI戦略2022の実現のためには必要である.そのためには,大学における数理・データサイエンス・AI教育プログラムへの接続も意識し,より多くの高等学校で「情報Ⅰ」に加えて発展的科目の「情報Ⅱ」を開講することで,生徒が情報分野で発展的な学習のできる環境を整える必要がある.DXハイスクールはそのための強い追い風であるが,この風をしっかり受け止めて前進する推進力に変換するためには,それに対応できる能力や環境が必要である.本会は,それを支援していくことで,情報学を専門とする我が国最大の学会としての責務を果たしていく覚悟である.

「情報Ⅱ」開設の状況

 「情報Ⅰ」は,共通必履修科目なので,一部の特例†を除き,すべての高校生が履修している.しかし,「情報Ⅱ」はわずかな数の生徒しか履修していない.
(† 工業や商業などの専門学科や,SSH指定校などで,代替科目を履修している場合がある)

地域による取り組みの差

 2024年度の教科書需要数を見てみると,「情報Ⅰ」が1,019,599冊であるのに対し,「情報Ⅱ」は52,757冊と,「情報Ⅰ」のたった5%程度に過ぎない$${^{5)}}$$.
 しかし,これは全国一律この傾向にあるわけではなく,地域による差が非常に大きい.以下は,教科書需要数ではなく,学校数で示す$${^{6)}}$$.

「情報Ⅱ」開設学校数

  開設されている学校の割合の大きい順に,東京都43.2%(192校中83校),神奈川県40.1%(152校中61校),埼玉県38.5%(143校中55校),千葉県33.3%(129校中43校)と続く.
 
逆に,開設されている学校が1つもないのは,群馬県(66校),徳島県(34校),香川県(30校),佐賀県(35校),さらに,1校だけというのが,鹿児島県(68校),青森県(46校),石川県(45校),富山県(39校),山梨県(29校)である.
 これは,都市部だからできるという話ではなく,今まで,高等学校情報科の教員採用を積極的に行ってきたり,「情報Ⅱ」の開設を教育行政として学校に対して強く促したり,「情報Ⅱ」を開設するためのカリキュラム・マネジメントを教育行政と学校が真剣に取り組んだりして,「情報Ⅱ」を履修したいと希望する生徒がわずかだったとしても,教育を受ける機会を確保するために努力を積み重ねてきた結果の表出であり,つまるところ,教育行政や学校の持つ問題意識の差が生み出したことではないかと推認できる.

「情報Ⅱ」学習権の保証

 「情報Ⅱ」を開設しても実際に履修する生徒が少ないという学校もあるだろう.しかし,「履修したければできるけれど,履修しない」というのと,「履修したいのに,履修できない」というのでは,まったく意味が違ってくる
 たとえば,東京都立大学は,総合型選抜に「情報Ⅰ・Ⅱ利用入試」というのがある.出願条件に,「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の評定がいずれも4以上と指定されている.つまり,「情報Ⅱ」を開設していない学校の生徒は,東京都立大学の「情報Ⅰ・Ⅱ利用入試」を絶対に受験することができないということである.東京都立大学の他に,慶應義塾大学や東京都市大学でも,「情報Ⅱ」までが出題範囲となっている試験がある.情報が得意で,その力を伸ばしたいと希望しても,その願いに学校が応えない=生徒の学習権を学校が保証しないということを意味する.

2025年度 情報Ⅰ・Ⅱ利用入試(情報科学科)
出願資格
次の要件を全て満たす者
(1) 高等学校(中等教育学校,特別支援学校の高等部を含む.)を2025年3月卒業見込みの者又は2024年4月以降に卒業した者
(2) 高等学校等入学時から出願時までの情報Ⅰ,情報Ⅱの評定がいずれも4以上である者
(3) 合格した場合,本学への入学を確約できる者
選抜方法
第一次選抜(調査書及び志望理由書による書類選考)と第二次選抜(面接(口頭試問を含む.)及び大学入学共通テスト成績)に分けて選抜する.
大学入学共通テストの受験科目は,『数学』(「数学Ⅰ・数学A」,「数学Ⅱ・数学B・数学C」),『理科』(物理),『外国語』(英語)及び『情報』(情報Ⅰ)とする.

東京都立大学 2025年度入試 多様な選抜 出願資格・推薦基準・選抜方法等(予告)
総合型選抜 情報Ⅰ・Ⅱ利用入試
https://www.tmu.ac.jp/entrance/revision/y2025/35171.html

高等学校情報科の教員確保

 優れた教育を行うためには,優れた教員を確保することが肝要である.そのため,本会では,現職教員の資質向上や免許を所有する人が教育現場へ就くための支援策として,教員研修を行っている(後述).
 その他,文部科学省の政策やそれに対する本会の対応について以下に述べる.

臨時免許状や免許外教科担任の解消

 高等学校情報科の臨時免許状および免許外教科担任数の多さが指摘され,その是正を文部科学省が各教育委員会へ促したら,その状況が大きく改善されつつある$${^{7)}}$$.
 このことは,教育行政が高等学校情報科の重要性をどう考えているかということと,本気でやる気があるかどうかということを示していると考えられる.

臨時免許状および免許外教科担任数の変化

教員養成課程の充実

 高等学校情報科に限らず,校種教科を問わず,教員の情報活用能力向上が学校教育の充実には不可欠である.そのため,大学における教員養成課程の充実が求められている.このことについては,本会も提言や意見を多数発出している.

「教育職員免許法施行規則の一部を改正する省令案」に関する意見:2023年9月8日

情報科教員養成課程の充実を求める提言:2022年12月7日

教育職員免許法施行規則及び免許状更新講習規則の一部を改正する省令案への意見:2021年7月14日

「教育職員免許法施行規則及び免許状更新講習規則の一部を改正する省令」への意見:2017年8月25日

「教職課程コアカリキュラム案」に関する意見:2017年6月23日

高等学校情報科の教員資格認定試験

 教員資格認定試験は,広く一般社会に人材を求め,教員の確保を図るため,大学等における通常の教員養成のコースを歩んできたか否かを問わず,教員として必要な資質,能力を有すると認められた者に教員への道を開くために文部科学省が開催している試験である.2024年度実施試験より,実に21年ぶりに高等学校情報科の教員資格認定試験が再開されると,2024年2月29日に発表された.受験資格として,「応用情報技術者試験合格者又はそれと同等以上の能力を有すると認められる者」と定められる予定となっている.
 以前の試験では「基本情報技術者試験合格者又はそれと同等以上の能力を有すると認められる者」とされていたが,今回はその上位資格が求められている.これは,発展的科目である「情報Ⅱ」の充実を意図してのことだと考えられる.

本会にできること

 ここまでで述べた通り,DXハイスクールにおいて鍵となるのは「情報Ⅱ」の開講,特に「情報Ⅱ (5) 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究」の実施である.探究活動は,テーマの設定,予備調査の実施,仮説を立てる,情報の収集,情報の整理・分析,さらには,テーマによっては仮説検証の繰り返し,問題解決のためのプログラミング,評価と改善などを行っていく.活動全体を通して,技術だけでなく,倫理的側面,社会的側面,心理学的側面にまで発展することが考えられる.

 「情報Ⅱ」を担当する高等学校の教員の多くが,より実践的で,より探究的である「情報Ⅱ」の授業を行うことに不安や心理的負担を感じているという声がある.そのような高等学校教員を本会として何らかの形で支援することを考えた.
 具体的には,各地域の学会員を経由して,高等学校と大学院生のマッチングを行うことを考えている.この大学院生には,以下のような「情報Ⅱ」の探究的な活動の支援を行ってもらうことを想定している.

  • 教員が「情報Ⅱ」の授業の準備をするとき,教材を作るとき,授業を実施するときの支援

  • 3DプリンタやハイスペックなPCなどの機材のより効果的な使い方等の助言

  • 探究テーマを考える,フィールド調査,センサーやガジェットに慣れる,webデザイン,データ分析等に関する助言

 また,本会として,DXハイスクール採択高等学校対象の授業計画に関する研修会なども計画している.これは,DXハイスクール採択高等学校の教員に参加してもらい,授業計画についてお互いに意見交換をしたりする場であり,学会員がコーディネータを務め,アドバイスを行っていくような研修会を想定している.

 これまでも本会では,各都道府県教育委員会や高等学校からの要望に応じ,教員研修に適切な専門家を派遣している.

 また,本会は,文部科学大臣から免許状更新講習規則(平成20年文部科学省令第10号)第1条第4号の規定に基づき教員免許状更新講習の開設者として指定を受け,2014年度より教員免許状更新講習を実施してきた.教員免許更新制は2022年7月1日に廃止されたが,本会は高等学校情報科研修の必要性を鑑み,文部科学省等と連携しながら,今までの教員免許状更新講習の内容をより充実させた教員研修を実施している.特に,教員免許状を保有しているが教職には就いていない,または教員免許を保有しない外部人材が新たに教職に就く際においては知識・技能の刷新は重要であり,このためのコンテンツも新たに追加している.2023年度は次のような教員研修を行った.

 また,2018年度より,情報学分野に関しすぐれた探究活動を行っている中学生と高校生(中等教育学校の生徒,高等専門学校の1~3年生を含む)に,全国的な研究発表の場を提供するとともに,優れた研究を行った中高生に賞を与える「中高生情報学研究コンテスト」を実施している.

 これらの実績を踏まえ,本会は,「情報Ⅱ」の探究活動を支える活動を充実させていく予定である.

参考文献

1)文部科学省 初等中等教育局参事官(高等学校担当)付,初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチーム,高等教育局専門教育課:令和6年度高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)の採択校について,事務連絡,2024年4月16日(2024).
2)久野 靖:高校教科「情報」のこれまでとこれから(後),情報処理, Vol.52,  No.6, pp.740-744 (2011).
3)中野由章:高校教科「情報」 の現在と将来,知能と情報,日本知能情報ファジィ学会誌,Vol.34, No.3, pp.102-109 (2022).
4)田﨑丈晴:教科「情報」の魅力を引き出す探究的な学びの推進を,情報処理,Vol.63, No.8, p.411 (2022).
5)渡辺敦司:外国語は9.5%の大幅増 24年度高校教科書採択状況─文科省まとめ(下),内外教育 2024年2月20日号,pp.6-15 (2024).
6)文部科学省 初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチーム:高等学校情報科の科目開設状況及び指導の充実に関する調査結果等について,事務連絡,2024年3月26日(2024).
7)文部科学省 初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチームリーダー 武藤久慶:高等学校情報科に係る指導体制の一層の充実について(通知),5初修教第16号,2023年12月27日(2023).

(2024年2月29日受付)
(2024年3月11日note公開)
(2024年4月26日一部修正)

■高岡詠子(正会員)
慶應義塾大学大学院計算機科学,博士(工学).上智大学理工学部教授,日本学術会議連携会員,本会シニア会員,情報科教員・研修委員会委員長,2016-18/2021-23理事(教育),教育とコンピュータ,医療看護介護用Web/スマフォアプリ等開発と運用に従事.

■中野由章(正会員)
技術士(総合技術監理・情報工学).本会シニア会員,本会初等中等教育委員会委員長.情報オリンピック日本委員会理事.日本IBM大和研究所,三重県立高校,千里金蘭大学,大阪電気通信大学,神戸市立高校を経て,工学院大学附属中学校・高等学校校長兼工学院大学教育開発センター特任教授.


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