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高等教育現場におけるクラウドサービスの活用

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関谷貴之(東京大学情報基盤センター)

 非常勤講師として,大学1,2 年生向けの情報リテラシーと初等プログラミングの科目を担当している.「授業で不明な点があれば電子メールで質問するように」と学生に伝えてきたが,彼らにとっての連絡手段は99%がLINE で,メールを用いる学生は年々減っている.一教員として,学生にとって使いやすい連絡手段を用意したいものの,余計な手間はかけたくない.学期が終われば連絡をとらないのだから,学生とLINE の交換などしたくない.私よりもむしろ学生の方が嫌だろう.

 そこで 2018 年度からは,Slack ☆1 で授業用のワークスペースを作成して,学期が終わったら削除することにした.プログラムのソースコードやエラー発生時のスクリーンショットを,一般的なメーラよりも簡単に送ることができ,電子メールよりも便利である.お蔭で学生とのやりとりは密になったように感じる.

 一方本務校では,メール,Web,端末などのサービスを学内に提供する情報基盤センターに勤務している.電子メールについていえば,十分な容量のストレージ,迷惑メールへの対策,学内組織が独自メールドメインで運用可能な管理機能等々を提供するために,オンプレミス☆2 でのメールサービスの維持にかかるコストは増大している.SNS の普及などで,以前よりは電子メールの重要性は減っているものの,大学がメールアドレスを提供するのをやめることはできそうもない.そこで 2020 年3 月よりG Suite for Education ☆3 の G-Mail をカスタマイズして,オンプレミスと同程度のメールサービスを提供している.Google のサービス関連技術に明るい教職員(私ではない)のお蔭である.

 さて,このように高等教育現場における情報サービスの利用者としても提供者としてもクラウドサービスに依存している.今後は,目的に合わせて適切なクラウドサービスを選択して,上手に活用する能力が更に求められるのだろう.加えて新型コロナウイルス感染症対策である.本務校では,大学全体としてオンライン授業を実施することになったが,Zoom ☆4 などの遠隔会議・講義のためのクラウドサービスがなければ実施は不可能である.もちろん,そのサービスを活用する教職員・学生の多大な努力も不可欠である.このコラムが掲載される頃には,一体どのような状況になっているのか,不安でもあり楽しみでもある.

☆1 https://slack.com
☆2 情報システムを構成する機器を自組織(ここでは大学内)に置く方式.外部のデータセンタに置く「クラウド」に対する用語.
☆3 https://edu.google.com/intl/ja/products/productivity-tools/
☆4 https://zoom.us

(「情報処理」2020年8月号掲載)