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「データの分析」分野の入試問題の分類と解法の一考察 入試センターのサンプル問題解説~第3問データの分析~

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阿部百合(早稲田大学高等学院)

 連載「教科「情報」の入学試験問題って?」第4弾です.前回までの入試問題解説に関してはこちら(https://note.com/ipsj/n/n81737ef872ec)をご覧ください.

 大学入試センターによる共通テスト『情報』のサンプル問題[1] の大問3を見てみましょう.

(以下,サンプル問題中の記号や文字を太字で表現しています)

問題設定

 実際の状況や,生徒に身近なデータが使われています.今回の問題では実際のサッカーワールドカップのデータ [2]を使って決勝進出チームと予選敗退チームの違いを分析します.問に入る前に2つの分析資料(表1図1)が提示されています.データの分析問題で重要,かつ見落としがちな点に生データの数値変換や補完があります.図表にまず目がいきがちですが,資料の前後にある説明文をしっかりと読み「図表中の数値(図示されている場合は点やグラフ)の意味を理解する」ことが肝要です.数値の意味について書かれている部分を赤線で示しました.グラフの場合は軸やラベルに注目し,単位も必ず見ます.入試問題演習では,数値の意味の部分を自身でチェックするとよいでしょう.

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▲問の前の資料表1(赤線は筆者追加)

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▲問の前の資料図1(赤線は筆者追加)

問1

 資料図1を読めるか問う問題です.ここでは散布図行列がプログラムで作れるかは問題ではありません.重要なのは「図を読めること」です.2次元行列の形に面食らった方もいるでしょう.図の下に以下の説明がありますが,かえって読みづらいかもしれません.むしろ一度でも図1のような行列(総当たり戦の対戦表など)や散布図行列を扱った経験があれば,図1は読めます.この機会に演習しておくと安心です.

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▲問の前の資料図1の下にある説明文

a問題
 a問題では文章中に問いが隠れています.赤い線の部分が問いです.

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 アの組合せは,図1の予選敗退と決勝進出の数値を比較すれば⓪得点③反則回数であるとすぐに解けます.「相関」の資料がⅠ(ヒストグラム)・A(散布図)・あ(相関係数)のどの形式か分かっているかを,問われています.(図-1.1)

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▲図-1.1 問の前の資料図1からの読み取り1(赤線部分)

の答え(順序問わず)
⓪得点
③反則回数

 ウは,問題文に釣られて散布図を見ても解けません.まずはの相関係数を見て,対応する散布図が答えとなります.総当たり戦の対戦表同様,左上から右下への対角線が対称軸となって,データの組合せが同じです.(図-1.2)

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▲図-1.2  問の前の資料図1からの読み取り2(赤線部分)

の答え
③ D

 b問題
 b問題では,選択肢から誤っているものを選びます.

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 定石では資料図1をもとに各選択肢の正誤を判定しますが,選択肢すべてに先に目を通すと疑わしい選択肢「全体の相関が正だが,個別の相関が2つとも負」があるため,まずは選択肢を確認します.資料図1の相関係数の符号だけ取り出してみます.

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 全チームが正で予選敗退と決勝進出両方が負のものはなく,他の選択肢を確認せずとも答えはです。

の答え

問2

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 問2では回帰直線の理解,計算力を確認しています.資料図2にある回帰直線の式に値を代入し計算します.このあたりは情報Ⅰの授業で扱われるので点が取れる問題となるはずです.問1のa問題同様,問2も問題文の中に問いが含まれる形式です.

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▲サンプル問題の問2の資料図2

オカ:資料図2の決勝進出チーム(左)と予選敗退チーム(右)のショートパス100本につき,1試合あたりの得点増加数の差を聞いています.
 単純にxに100を代入して計算しますが「増加数」を聞かれているので,直線の傾き(つまりxの前の数)を100倍して比較すれば十分です.
 よって,0.8-0.64=0.16,答えは0.16です. 

オカの答え
16

:問題文の誘導通り,1試合あたりのショートパスが320本のときを計算します.
x=320を代入して計算すると,決勝進出チーム1.1293,予選敗退チーム1.0913よって差は0.0380で小数第3位を四捨五入し答えは0.04です.

の答え
4

クケ:決勝進出チームの実際の得点と回帰直線による予測得点の誤差の確認です.図中の式のyが予測得点であることを理解していれば,計算は単純です.図2の左の式y=0.0080x-1.4307にx=384.2を代入した値と,実際の得点2.20の差を求め,小数第3位を四捨五入すると答えは0.56点です.

クケの答え
56

問3

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▲サンプル問題の問3の表2

 表2の考察問題です.2つ選ぶ必要があるため定石通り選択肢を1つずつ吟味します。中高の数学で学んだ統計を理解していれば難しくないでしょう.

問3の答え

問4

 複数の資料,情報から必要な情報を見つけ,答えを導く問題です.クロス集計表が読めることが大前提です.クロス集計表は数学でも条件付き確率で同様の表を使っており,見たことがあるでしょう.

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 選択肢の吟味は先頭からする必要はありません.確認しやすい選択肢から見ます.選択肢は,どの資料を見るか書いてあり,しかも読み取るものはヒストグラムと視覚的です.今回はちょうど見やすい選択肢が正解でした.

の答え

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▲サンプル問題の問4の表3

 スの値は表3の中の数字から求められないので,続く問題文を見ます.

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 「決勝進出チームのうち1試合当たりの反則回数が全参加チームにおける第3四分位数を超えるチームの割合は19%」とあります.決勝進出チームの内訳は表の1段目です.決勝進出チームの全数は1段目右端の16,「決勝進出チームの第3四分位数を超えるチーム数」は表の1段目右から2列目スの上のです.つまり(の上のの数字)÷16×100=19ということです.この方程式を解くとの上のの数は3と分かります.よって表のQ3を超える列に注目して7-3=4です.

の答え
4

セソ:「第1四分位数より小さいチームの中で」と問題文にあるので左端の「Q1未満」の列を見ます.左端の列は上から28です.よっては8-2で6と分かるので,その割合は6÷8×100=75,75%です.

セソの答え
75

まとめ

 ここまで「設定に沿って解くタイプの問題」を見てきましたが,慶應義塾大学や明治大学では「設定や分析の不適切な点を考えさせる問題」「調査・分析の修正を記述させる問題」も出されています[3].
 「設定に沿って解くタイプの問題」は,分析データや問題設定にやや不自然さを感じることがあっても割り切って筋書きに乗って解きましょう.ただし,ただ誘導に乗っていればいいのではありません.情報分野を目指す場合や,より難易度の高い大学を目指す場合,「設定や分析の不適切な点を考えさせる問題」,「調査・分析の修正を記述させる問題」に対応できる必要があります.今回の問題でも,予選敗退チームは当然ながら決勝進出チームより試合数が少ない(つまりチームによって試合数が大きく異なる)可能性がある,データサイズが十分でない可能性がある,といったことがあります.常に問題の設定や,「扱われているデータに不適切な点はないか」「どのようにしたら適切か」などの視点から注意して眺める癖も付けたいものです.問題を見るポイントは,
①大問全体の流れ
②データ,図表の軸,単位,ラベル,前後の問題文といった細かいところ
を見ることです.
情報の入試問題演習では,
①長い問題文や複数の資料を読むことに慣れること
②試験時間に焦らずじっくりと問題と向き合うこと
が必要です.
 今回扱った問題は試験時間を考慮していない[4]とのことですが,もともとセンター試験『数学Ⅰ』『情報関係基礎』でのデータの活用分野は問題文や図表が多いです.文章中に問いを含む形式もあり,問題文を読んで聞かれていることを理解する速さも必要であり,ある程度解けるようになってきたら
③制限時間を決めて解く練習
をするとよいでしょう.
 また,問題を見て知らない形式の図表で見方が分からない場合や分からない単語が出てきたときは,いったん問題から離れて分からない部分を調べ理解することが基本となります.

参考文献 
1)大学入試センター,共通テスト『情報』サンプル問題,https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html
2)科学の道具箱,FIFAワールドカップ2006データの集計,https://rika-net.com/contents/cp0530/contents/04-14-01.html
3)情報入試研究会 資料,2018年度明治大学情報コミュニケーション学部問Ⅳ他,http://jnsg.jp/?page_id=108
4)全国高等学校情報教育研究会第14回大会(大阪オンライン)基調講演「大学入学共通テスト 新科目「情報」~サンプル問題等とそのねらい~」(2021-8-11),https://www.zenkojoken.jp/14osaka/2021053913/ ,FIT2021公開シンポジウム大学共通テスト「情報」が目指すもの(2021-8-26),https://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2021/FIT2021_program/data/html/event/pdf/eventB2_347.pdf

(2021年10月11日受付)
(2021年10月20日note公開)

■阿部百合(正会員)
都内私立高校の情報の授業を担当している.本会CE研委員.IPSJMooc(https://sites.google.com/view/ipsjmooc/)第4章作成に携わった.

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