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2024年度情報関係基礎追試験第1問


安田 豊 (京都産業大学 情報理工学部)

 今回は令和6年共通テストの情報関係基礎追試験問題¹⁾の第1問をとりあげます.

 第1問は問1,2,3の3つの小問からなり,知識と技能を問う小問および中問の集合,という構成です.これ以降,本稿ではまず問1,2,3それぞれについてコメントし,その後で全体をまとめます.


 はじめに「情報関係基礎」のこと

 ここで題材にした「情報関係基礎」は大学入試センター試験(現在の共通テストの前身)に1997年に追加された試験科目であり,内容としては工業や商業などいくつかの専門学科に設けられている情報に関する基礎的科目に対応したものです.詳細な目標や内容については論文²⁾などを見ていただくとして,同論文にもあるように専門学科の情報の基礎的科目は,共通教科「情報」を代替し得るほどの共通性があります.つまり「情報関係基礎」の問題は,情報の問題パターンをつかみ,2025年1月の共通テスト「情報」に備えるための,良い練習問題となる可能性があります.そこで本連載でも多く「情報関係基礎」の問題解説が行われています.

 もちろん共通性はあるとしても違いはあるので注意が必要です.たとえば情報関係基礎の第4問で出てくる表計算ソフトなどは,大学入試センターから出されている試作問題³⁾では出題されていません.なお2025年1月の共通テストからは(新課程で学んだ)生徒は皆「情報I」に対応した「情報」で受験するため,「情報関係基礎」は同年の(旧課程学習者への経過措置としての)実施を最後になくなります.

 さて,問題解説に進みましょう.

 問1:従来的な問い方の知識問題

 問1はa~cの小問3つから構成されています.いずれも初歩的な知識と技能の確認問題と言えるもので,小問はそれぞれ独立しています.

 aは文字コードに関する知識をストレートに確認する問題です.図-1に小問 a の問題と解答選択肢を示します.

図-1 問1. 小問aの問題と解答群

 【ア】の正解は「文字コード」ですね.この問題は情報の符号化に関する問題ですが「エンコード」「デコード」も符号化の文脈で登場する用語です.【イ】の正解は「Unicode」です.なお「ASCII」は英字や数字・記号だけを対象とした文字コード,「EUC-JP」「シフトJIS」はともに日本語の文字(かなや漢字)を扱えるように作られた文字コードですが,そのほかの多くの言語の文字(中国漢字など)は対象ではありません.「Unicode」はまさに問いの言う「世界中の様々な言語の文字を統一的に」表現することを目指した文字コードです.

 ところでこのaは,教科書に登場する文字の符号化に関する説明をコンパクトにまとめたような問いですが,【ア】・【イ】の選択肢のほとんどすべてが情報の専門用語であることがポイントです.「2次元コード」も本来は情報系専門用語なのでしょうが,今は日常的な場面でよく目にします.しかしそれ以外は情報分野でなければほとんど触れない用語のように思います.受験者が最初に目にする問題にこれがあることは,筆者には「教科書をちゃんと学んで専門用語を把握してくださいね」というメッセージとも思えます.

 bは知的財産,特に著作権ではなく産業財産権に関する理解を,cは生体認証の特徴を,これもまた(というかこれ以上ないほどに)ストレートに聞いています.

 【ウ】は知的財産権で,これは(広い意味の)著作権と産業財産権を総称する用語です.【エ】,【オ】は解答群の中から選ぶと意匠権と特許権です.なおほかには実用新案権と商標権があります.【カ】は,⓪①②は生体認証の説明としてはいずれもあてはまらず,③が正解です.

 いずれも「情報」分野の基本的な知識・考え方について基本的な部分を押さえておれば,ほぼ即答に近い状態で解答できるものと思います.これは情報関係基礎の問題ですが,共通テストや各大学の個別入試でもこうした基礎的な部分に関するストレートな問題が冒頭に置かれることが多いと思います.作題者も最初の問題はスラスラと短時間で解答して,気分良く後続の問題に取りかかれるように,と思っているのでしょう.

問2:現実的な状況を背景に問題を検討する

 問2もa~cの小問3問構成であり,すべてスマートフォンを題材にとって二進法,解像度,順列の理解を確認する問題です.

 aは「101段階の輝度を表現するために必要なビット数」という,非常にシンプルで典型的な問題です.6ビットでは2の6乗すなわち64種類しか表わせないので足らず,7ビットならその2倍すなわち128種類で足りますから,【キ】は7となります.

 b,cは小さな問題でも工夫して,単なる知識問題ではなく読解力・思考力を問える問題とする工夫がされています.少し詳しく見ていきましょう.

 図-2にbの問題を示します.

図-2 問2. 小問bの問題

 つまり,ある縦横のドット数の画像を,指定されたDPIで印刷したときの結果,つまり現実の距離(長さ)を求めています.もちろんDPIが dots per inch(1インチあたりのドット数)であることを理解しておれば,単純な計算と単位変換で解が出せます.思考過程としては「縦4800ドットは1000DPIなら4.8インチになり,4.8インチは12cmにあたる(つまり解答欄【クケ】は1と2)」というだけのことですが,画素と解像度の2つが結びついておらず,具体的な数字をつけて組み合わせることができないような「覚え方」をしてしまった人はつまずく可能性があります.

 cの工夫も見てみましょう.図-3にcの問題を示します. 

図-3 問2. 小問cの問題

 受験者は皆「4桁の数字では1万の組合せが作れるため,偶然にパスコードを当てることは困難だ」ということを理解していると思います.またその4桁を「すべて異なる数字でなければ受け入れない」動作も,「1111のような番号は多くの人が設定しがち」で危険であるためだと意識できるものと思います.明示的ではありませんが,多くの受験者はこの問題の背景にはセキュリティ的な要素があることを感じ取っているでしょう.

 その上で制約条件である「すべて異なる数字」による組合せが何通りになるか,とまず問うています.モデルとしては「順列」そのものですから,公式そのままに 10×9×8×7 = 5040 通り(解答欄【コサシス】は5,0,4,0)と解ける,ある意味では短絡的な問題です.しかしパスコードという状況設定から,提示された「同じ数を繰り返して使わない」という制約条件を把握し,これを順列だと判断させる,あるいは順列について公式を覚えていなくてもその場で導出手順を考えさせる方向にうまく工夫していると思えます.

 具体的に書いてみます.まず4桁のうち最初の桁に設定できる数は0~9の10種類です.2番目の桁には最初の桁と同じ数は設定できないので最初の桁に設定した数を除いた9種類が設定できます.ここまでで10×9すなわち90種類の組合せがあり,では3番目の桁は……と考えることで,自分で式を導くことができます.

 次に破損して不自由があってもまだ使い続けるといったリアリティのある状況設定を経て,使える数が1つ減ることで場合の数がどう変化するかを問うています.この流れも「自然な,あるいは必然的な状況設定から問題の解法を考えさせる」良い工夫と思えます.今度は 9×8×7×6 通りですから,つまり場合の数が(9×8×7の)10倍から6倍に減った=40%になった(解答欄【セソ】は4と0)と簡単な計算で解を得られます.なおここで「~%に減った」ではなく「損失」と表現しているのもセキュリティ的な側面との結びつきが強調されています.

 もちろん,この問題を単純な順列の問題だと早期に認識した受験者は,こうしたセキュリティ的な背景や具体的な状況の説明が解を求める作業に直接関係ないため,ある種の煩わしさを感じるかもしれません.確かに入試では情報に限らず,公式あるいは定石(じょうせき)のようなものを覚えることがよく行われますが,情報の場合は問題に解き方を導出できるような説明が含まれている場合が多いです.問題が扱っている対象の性質を正しく読み解く能力を求めているのですね.

 なお1点だけ,この問題には気になるところがあります.つまりセキュリティ的な背景から「1111」など同じ数を繰り返すことを禁止したと思えるのに,問題ない例として「0123」という代表的な「危険なパスコード」を挙げたのは少し残念でした.続く「9876」もできれば避けて,規則性が見えず,ネット検索しても特異な数などでヒットしない数を出すのがよかったと思います.

 問3:状況説明を読み,組み立てる

 問3はaからdの小問4つで構成された「読む」問題です.

 まずaは「調査紙を作成する上での留意事項」はどれか,という問題です.アンケート調査に関する基礎的な問いなのですが,ちょっと筆者は悩んでしまいました.図-4に問題と解答選択肢を示します.

図-4 問3. 小問aの問題と解答選択肢

 一般的には正解は①だろう,とすぐ選べそうです(実際に正解は①).ただ,誤答であるはずの③については個人の主観を問わない方が適切な場合と,逆に主観を軸に問うしかない場合と両方があり得ます.いずれにしても①の「データの取り扱い」を明記することはどうしても必要ですから「最も適当」なのが①であることには違いないのですが,この先に「グルメ」や「ファッション」といった主観に基づいた評価を問いそうな題材が並んでいるだけにちょっと悩みました.

 bもいくらかとまどうところがあります.図-5に問題と解答選択肢を示します.

図-5 問3. 小問bの問題と解答選択肢

 正解は選択肢②,つまり「圧縮される度合いを下げる」とありますが「度合いを下げる」という表現はあまり一般的ではないように思えます.筆者は一瞬,逆の意味(圧縮された結果をより小さくする)ではないよね?と何度も読み返しました.

 この問題に限らず「圧縮率」という語が問題の中で使われているとき,受験者が気をつけるべきことがあります.つまり「圧縮率」といったとき「データを100MBから10MBに圧縮」した場合に,圧縮後のデータ量が10%になったから10%すなわち0.1と考えるか,圧縮して減らせたデータ量が90%になったから90%すなわち0.9と考えるか,その両方があり得るのです.一般には「高い圧縮率」というと圧縮後のデータ量がより小さくなる方向を「高い」と指すのですが,数値の大小関係から一瞬その「高低」の向きが「意味的に逆転している?」などと混乱しがちです.その辺りを意識して「圧縮率」の高低ではなく「圧縮される度合いを下げる」といった表現にしたものと想像します.今後圧縮に関する問題を見たときはこのことを意識して読むのがよいでしょう.

 c,dはグラフから情報を読み取る問題で,この種の問題としては典型的な形のものです.図-6にcの問題と解答選択肢を示します.

図-6 問3. 小問cの問題と解答選択肢

 cは4つの選択肢それぞれの条件設定を読んでグラフと照合し,その正誤を判断する問題です.正解は①です.公開動画数が最も少ないジャンルは図2から「グルメ」であると判断でき,図3の「グルメ」を見ると1,2,3月で再生数が確かに直線的に伸びている(1〜2月と2〜3月の再生回数の差が同程度である)ことが確認できますね.それに対して⓪②③はいずれも図2と図3を見るとあてはまりません.なお図3は,縦軸の途中が省略されている(波線)なのでうっかりすると誤読してしまいます.縦軸の0と450の間は本当はずっと離れているのだ,ということを踏まえて図3を見なければいけません.

 図-7にdの問題と解答選択肢を示します.材料となるグラフはcと共用ですので図-6を見てください.

図-7 問3. 小問dの問題と解答選択肢

 dは複数のグラフが示す情報を統合して判断するものです.正解は⓪の「グルメ」です.比較すべき「1動画あたりの平均再生回数」とはつまり図3のジャンル別再生回数を図2の公開動画数で割った値です.正解の「グルメ」は最も公開動画数が少ないものですから,もし1動画あたりの平均再生回数でこれを上回るためには再生数が相当に多くなければなりません.「グルメの再生回数は580回程度,それより多い観光が610回程度だから」などと計算しなくても,「グルメ」の平均再生数が最も大きいと判断できますね.

 今回の問題,つまり情報関係基礎は共通テスト(および以前のセンター試験)の一部として長く実施されてきたため,毎年の問題構成がおおよそ決まっています.第1問が基礎的な知識を問うもの,第2問が論理的思考力を問うもの,第3問がプログラミング,第4問が表計算ソフトを用いたデータ処理といった方向でしょうか.この種のグラフからの情報読み取り・分析は,第4問の一部として出題されたこともありましたが,第4問は第3問との選択であり,必答問題として出すには第1問に入れざるを得ません.データ分析能力をすべての受験者に求めたい,という姿勢が表れているように思えます.

 ところでこの問3ですが,根気というか,時間を要する問題となっています.分量としては問1,2 と同じ2ページなのですが,びっしりと文字で埋まっています.つまり元々グラフ読み取り問題はまず扱っているデータの内容,状況説明の分量が多めです.受験者はまずこれを精密に読むことが求められ,解答にはどうしても時間がかかってしまいます.

 しかしすでに述べたように第1問はスラスラと短時間で解答してほしい面があります.そこで問3はグラフ読み取り問題でありながら,なんとか頑張って問題規模をこの程度までコンパクトにしたのだと想像します.

各問の位置づけ

 問1,問2は,ある意味「従来的」とも言えるストレートな知識・技能の確認問題ですね.こうした問題を「簡単すぎる」と感じられる人もいるでしょうが,筆者は教科書の中身をちゃんと理解してくださいね,というメッセージとしても意味があると考えています.問2は数理的な色が少し入りますが,「現実社会にある問題と重ね合わせて解法を突き止めさせる」問題の好例と思います.

 問3はグラフから情報を読み取る問題ですが,大学入試センターの試作問題における同種の問題である第4問は8ページもあります.つまり共通テストではこの種の問題が多くの時間をかける,大きめの問題として出されそうに思えます.「情報」の問題の蓄積がまだ薄い現時点では,冒頭で説明したように,長い歴史を持つ情報関係基礎の過去問⁴⁾は優れた問題集のひとつと思えますが,グラフ読み取り問題は情報関係基礎ではほぼ出されなかったため,過去問的な練習問題として使えるものがまだ多くないように思えます.その意味で問3は取り組む価値が高そうに思えました.

参考文献
1)大学入試センター:令和6年度 追・再試験の問題,
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/r6/r6_tuisaishiken_mondai.html
2)中野由章,中山泰一:高等学校専門教科の情報関係基礎科目の目標と内容, 情報教育シンポジウム論文集 2017 (2017/8),
http://id.nii.ac.jp/1001/00182841/
3)大学入試センター:令和7年度試験の問題作成の方向性,試作問題等,
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7/r7_kentoujoukyou/r7mondai.html
4)情報処理学会 情報入試委員会:情報関係基礎 アーカイブ,
https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/ipsjjn/resources/JHK

(2024年7月7日受付)
(2024年8月9日note公開)

安田 豊(正会員)
 京都産業大学情報理工学部准教授.IPSJMooc(https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/mooc/)第4章作成に携わった.SDN などに興味を持つ.

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