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湘南工科大学「情報」のサンプル問題の解説と分析


加藤和幸(金城学院大学)


湘南工科大学では2023年度入試科目より「情報」が開設

 神奈川県藤沢市にある「湘南工科大学」では,今年度(2023年度入試)の一般選抜独自試験より「物理・化学・情報」の中からの選択科目として「情報」が出題されている.多くの大学の2025年からの大学入学共通テストでの「情報」の扱いに注目が集まる中,2年早く入試教科で「情報」を取り入れている「湘南工科大学」の取り組みに注目したい.

 2024年度の入試はまだ旧課程での科目編成のため「情報Ⅰ」での出題は難しい.
そこで本大学では,出題の基本方針として下記のような発表がされている.

出題の基本方針

 出題される科目は「情報の科学」です.出題範囲は「ディジタル表現」,「コンピュータの仕組み」,「ネットワーク」,「情報セキュリティ」,「アルゴリズム」,「データベース」,「情報技術と社会」です.
 出題形式は,大問4つ,大問は複数の小問からなります.小問は,それぞれの小問が関連している場合も,それぞれが独立している場合もあります.大問4つのうち,2つは情報関連技術に関する基礎的な問題が,残り2つはプログラミングを通じた論理的思考力を問う問題が出題される予定です.教科書の練習問題として出てくるような基本的な問題が主体ですが,一部実社会での応用を想定した問題もあります.
 出題・解答形式は大学入学共通テストにおける「情報関係基礎」に準拠しています.回答はマークシート方式で,計算結果の数値をマークするものと問題に与えられた選択肢から適切なものを選んでマークするものがあります.プログラミング言語は「Python」や「C言語」と言った特定の言語は使用せず,「センター試験用手順記述標準言語」を使用します.

 また,同時にサンプル問題も公開されている.

サンプル問題

 大問の1つ(プログラミングを通じた論理的思考力を問う問題)を想定したサンプル問題を以下に掲載する.

2023年度 湘南工科大学 一般選抜 独自試験「情報」サンプル問題・解答 (PDF ファイル 0.23MB)

 今回は,このサンプル問題の解説と分析を紹介したい.

 第1問の問1は,試験の得点の平均値と分散を求める問題である.

 数学Ⅰの「データの分析」の章で既習事項であり,分散の求め方も示されているため,忘れてしまったという人もそのまま代入して計算をすれば,平易に答えを求められる.

【 1 2 】の答は7,0

【 3 4 5 】の答は2,8,0

 「データの活用」の内容は数学Ⅰと重複する部分が多いので,数学での学習内容をしっかりと復習し,情報の学習に活用させることが重要である.

 問2は,問1の平均と分散の計算の手続きを「センター試験用手順記述標準言語(DNCL)」で記述する問題である(図1).

 ここでのポイントは,Tokuten[i]という配列表記の理解とiを1ずつ増やしながら繰り返す処理にある.

 図1のプログラムを順に解説する.

(1)のsについては問題文では特に説明がされていないが順に計算し,それらの和をとりあえずとどめていく変数(箱)と考えればよい.最初は何も足されていないのでsに0を代入している(分散のs$${^{2}}$$のsとはまったく関係がない).

(2)での注意はiが0からカウントすることである.プログラムでは配列を利用する場合に1番からではなく0番から始める場合が多いため,生徒の人数は0からninzu-1までの処理となる.

(2)~(4)ではiを1ずつ増やしながら,sにその得点Tokuten[i〕を加えていく処理である.すなわち,繰り返しが終了したときには,
s=Tokuten[0]+Tokuten[1]+・・・・+Tokuten[ninzu-1]となる.

(3)でsに順に加えていく手順としては,s←s+Tokuten[i]となる. 

6】の答は④

(5)では平均heikinを求めるため,sを人数ninzuで割ればよい.

7】の答は②

 同様に分散を求める処理だが,改めて(7)でsを0に初期化し,(Tokuten[i]-heikin)$${^{2}}$$の値を順にsに加えていくことになる.(9)では,
s+(Tokuten[I]-heikin)×(Tokuten[i]-heikin)が答えとなる.

【8】の答は⑨

 (9)では同様に,sを人数ninzuで割ればよい.  

【9】の答は②

 次に問2のプログラムを解説する.

 問1での計算方法を3教科に対応させるため,heikinとTokutenに識別番号0, 1, 2を与えheikin[i]とbunsan[i]の配列としている.すなわち,数学の平均はheikin[0]であり,英語の分散はbunsan[1]となる.

 ここで注意すべき点は,得点は教科ごとの値が必要なためTokuten[i, j]と2次元の配列となることである.すなわち,最初の生徒の国語の得点はTokuten[2, 0]という変数で与えられることになる.

 また,問2では図2の(4)~(8)のように,繰り返し処理が2重になる場合もあるので注意が必要である.(4)ではi=0(数学)でj=0からninzu-1まで生徒の数学の点数をs[0]に加えていき,同様な処理をi=1(英語),i=2(国語)で実行しs[1] s[2]を求めている.

 (6)では,問1の(3)と同様で,iという教科のj番の生徒の点数を加えていけばよいので
 s[I]←s[i]+Tokuten[I, j]となる.

10】の答は⑤

 (10)では,問1の(6)と同様で,s[i]を人数ninzuで割ればよい. 

【11】の答は③

 (18)(22)も問1での(9)(11)と同様で,【12】【13】の答えは⑧,③となる.

 このサンプル問題のポイントは,やはり2次元の配列と2重の繰り返し処理にある.

 配列や繰り返し処理ついては,身近なデータを自分で用意し,自分自身で最初からプログラミングを体験してみることが近道だろう.プログラミングの学習は「百聞は一見にしかず」ではなく「百見は一考にしかず」さらに「百考は一行(だけでもプログラムを書くこと)にしかず」です.見るだけでなく考える,考えるだけでなくやってみなければ身につかない.実行あるのみ.頑張りましょう.

(2023年10月11日受付)
(2023年12月5日note公開)

■加藤和幸(正会員)
名古屋工業大学工学部計測工学科卒業,2023年3月金城学院高校数学科・情報科教諭を定年退職し,2023年4月より金城学院大学国際情報学部非常勤講師.

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