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試作問題の「データ分析」の問題の解説と「情報Ⅰ」の授業による対策の提案

稲垣俊介(東京都立神代高等学校)

 今回は,2022年11月に大学入試センターより公開された「令和7年度問題作成の方向性,試作問題等」$${^{1) }}$$ に示された「情報Ⅰ」の試作問題の第4問を解説します.

 第4問は「4. 情報通信ネットワークとデータ活用」における「データの活用」分野です.

 最後に本試作問題を用いた「情報Ⅰ」の授業による,大学入学共通テストの対策を提案します.

問題の内容と解説

 問題文を読んでみましょう。

 この第4問は,1日のスマートフォン・パソコンなどの使用時間の1時間未満の人と3時間以上6時間未満の人を比較し,その分析の過程を問題としたものです.

 小問をそれぞれ解説します.

問1の解説

 問1は表1-Aと表1-Bから分析できない仮説を選ぶ問題です.表と問題文の文章を読み込むことができるかを問われています.

選択肢⓪の仮説は,使用時間が長いグループと使用時間が短いグループの食事の時間を比較することにより分析ができる仮説です.
選択肢①の仮説は,使用時間が長いグループに注目をしても,朝と夜に分けていると分かる項目がありません.よって,分析ができない仮説であり,【ア】は選択肢①が正解です.
選択肢②の仮説は,使用時間の長いグループの学業の時間が長い都道府県が,短い都道府県と比べて,趣味・娯楽の時間が短い傾向であるかを調べることにより,分析ができる仮説です.
選択肢③の仮説は,使用時間の長いグループと使用時間の短いグループの通学時間を比べることにより分析ができる仮説です.

問2の解説

 問2は表1-Aと表1-Bと,それに対応した箱ひげ図を読み取ることができるかを問われています.箱ひげ図の説明を簡単にします.

 ひげの両端は,特異点を除いた最小値と最大値を表しています.箱の左側の線の位置が第1四分位といい,全体のデータを小さい値から数えた25%に当たります.箱内の線の位置が第2四分位といい,全体のデータの中央値です.また,箱の右側の線の位置が第3四分位といい,全体のデータを小さい値から数えた75%に当たります.

選択肢⓪は箱ひげ図の420分に注目します.420分は1-Aの箱の中にあり,箱ひげ図の1-Bの箱は420分を超えています.つまり,420分以上である都道府県は1-Aの方が少ないと考えられ,誤りです.
選択肢①は箱ひげ図の550分に注目します.1-Aは第2四分位数が550分以上ではないため,半分以上とは言えないために誤りです.1-Bは最大値が550分未満であるため,1-Bの解説は正しいです.しかし,1-Aの記述が正しくないので誤りです.
選択肢②は箱ひげ図の450分に注目します.1-Aは第2四分位数が450分未満であるため正しいです.1-Bは第3四分位数が450未満であるため正しいです.よって,【イ】は選択肢②が正解です.
選択肢③は1-Aと1-Bの中央値の差を図1と図2で比較します.図2の方が差の絶対値が大きいために誤りです.

問3の解説

 問3は示された箱ひげ図や選択肢の文章を読み取ることができるかを問われています.

 問題文に「表1-Aから表1-Bの値を引いた差」の箱ひげ図であると書かれています.選択肢を一つ一つ確認します.

Aは「学業の時間の差が正になっている」とは,利用時間が長いグループよりも短いグループの方が学業の時間が長い傾向を示しているので,正しい記述です.
Bは「睡眠の時間の差が正になっている」とは,利用時間が長いグループよりも短いグループの方が睡眠の時間が長い傾向を示しているので,誤りの記述です.
Cは「睡眠の時間よりも学業の時間の方に顕著に(差が)表れている」とは,箱ひげ図の高さの差が顕著であるということです.よって,箱ひげ図から正しい記述と分かります.
Dは「学業の時間よりも睡眠の時間の方に顕著に(差が)表れている」とCと逆の記述です.よって,誤りの記述です.
Eは「学業の時間と睡眠の時間の両方に同程度」とありますが,Cにあるように顕著な差があらわれています.よって,誤りの記述です.
よって,AとCが正しい記述であり,【ウ】は選択肢⓪が正解です.

問4の解説

 問4は散布図での「学業の時間と睡眠の時間の間の負の相関の解釈」について問う問題となっています.選択肢を確認します.

⓪と①は散らばりの度合いについての記述であり,負の相関に関する記述ではないので誤りです.
②は学業の時間が長いと睡眠時間が短くなるとの記述があり,負の相関に関する解釈の記述です.よって,【エ】は選択肢②が正解です.
③は②の記述はとは逆のことを解説しており,正の相関に関する記述です.よって,誤りです.

問5の解説

 問5は図5と図6とその説明文を読み取ることができるかを問われる問題となっています.

空欄オ
空欄オは「外れ値」となる都道府県の数が問われています.外れ値とは「平均値から標準偏差の2倍以上離れた値」と示されています.また,図6の説明として「標準値0,標準偏差1に変化した値(変換値)を縦軸」とあります.つまり,-2より小さいものと,+2より大きいものを外れ値とします.図6より標準値0から2以上離れている点は2個あることが分かります.
よって,【オ】は「2」が正解です.

空欄カ
空欄カは図5中のP県が,図6の⓪~③のどれかを問われています.Q県の説明を踏まえてP県の点の位置を検討します.図5より,Q県は回帰直線より睡眠時間を406.8分と示されています.同じく図5より,P県はおよそ430分を示しています.また,図5よりQ県は残差がプラスであり,P県はマイナスとなっています.それらを踏まえるとP県は図6の①であると分かります.
よって,【カ】は図中の①が正解です.

空欄キ
空欄キはP県が外れ値であるかを問われています.空欄オやカの解説で述べたように,P県は図6の①であり,外れ値は残差の変換値の絶対値が2以上です.それらを踏まえ,P県は「外れ値となっていない」と分かります.
よって,【キ】は選択肢①が正解です.


「情報Ⅰ」の授業での対策の検討と提案

 現在(2022年度)において情報Ⅰを学ぶ高校1年生は,2025年度の大学共通テストの「情報Ⅰ」を初めて受験する高校生です.そのため,情報Ⅰの授業においても,その共通テストに向けた対策をすることが求められると考えられます.過去問題がない現在において,最も出題傾向に則した問題は,この試作問題といえます.よって,授業でこの問題を利用することを考えました.この試作問題を生徒が解き,教師が解説をするという授業が望ましいとは考えません.実習が伴う授業が望ましいと考えます.しかし,実習での学びのみで,生徒たちがこの問題を解けるようになるとも限りません.よって,授業では試作問題を踏まえて実習を行うことを提案します.

 今回,解説をしたデータ分析の問題である「第4問」を踏まえて実習を検討します.実習に用いるデータは,問題とは別のデータを用意します.なぜなら,授業を受ける生徒たちに関するデータであることが望ましいと考えるためです.生徒に関するデータの分析であれば,生徒が分析する理由,さらに「データ分析」の単元を学ぶ理由へと繋げやすいと考えられます.本年度(2022年度)は,生徒のスマートフォンの利用時間や利用しているアプリのそれぞれの使用時間や頻度などをアンケートで回収し,そのデータを使って実習を行う予定です.

 アンケートで集めた学年全体のデータを個人情報等は省いた形で生徒に配布し,そのデータから仮説を考えさせます.実際に生徒が今後分析することになる仮説であるため,実際に分析をして確かめてみたい,と思える仮説となるように生徒には呼びかけます.この実習は問1に該当します.問1では,分析できない仮説を選ぶ問題ですが,授業では配られたデータから仮説を考えさせる実習とします.

 生徒たちが各々立てた仮説に関連するデータから,箱ひげ図を表計算ソフトで作成させます.そして,この箱ひげ図から読み取れることを記述させます.この実習は問2や問3に該当します.

 散布図をつくらせ,相関を検討したり回帰直線を求めたりします.そしてそこから読み取れることを記述します.これは問4や問5に該当します.さらにこれまで実習してきた,グラフの作成や読み取った記述からレポートを書かせたり,プレゼンをさせたりする実習が考えられます.

 「情報Ⅰ」が入試科目となり,対策が求められるようになりました.ただ,私たち情報科の教員は試験問題を解ける生徒を育成するために授業をしているのではありません.しかし,「情報Ⅰ」の共通テストが生徒の進路選択に大きくかかわるとなるならば,その対策をすることも教員の役割と言えます.これまでどおりの実習により情報活用能力を育むとともに,入試対策も実施することが求められると考えます.よって,試作問題を活かした「情報Ⅰ」の授業の検討していくことを提案いたします.

参考文献
1)令和7年度試験の問題作成の方向性,試作問題等,
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou/r7mondai.html
2)水野修治:令和7年度大学入学共通テスト『情報I』の実施に向けて 〜問題作成方針に関する検討の方向性と試作問題〜,情報処理,Vol.64,No.2,pp.74-77 (2023).
http://id.nii.ac.jp/1001/00223448/

(2023年1月9日受付)
(2023年1月24日note公開)

稲垣俊介(正会員)
博士(情報科学).東北大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了.学校現場で15年以上にわたり情報教育を実践し,大学でも情報教育の講師を務める.東京都高等学校情報教育研究会にて情報Ⅰ大学入試検討専門委員会の委員長を務める.主な著書は,教科書『情報Ⅰ 図解と実習』(日本文教出版)等がある.

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