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紙芝居いっぷく座の「ハコ」
紙芝居の「ハコ」
・・・紙芝居の界隈では「舞台」と言うのだそうですが。
ホールやステージのある建物を「ハコ」と言ったりするし、何となく「ハコ」という呼び方が気に入ってるので、ここでもそのまま紙芝居の「ハコ」と呼ぶことにします。
見ていないようでも目に入っている、このハコ。
裸の紙芝居でも成り立たないことは無いのでしょうが、やっぱりハコがあるだけで「これからこの中でお話が始まるよ」という雰囲気になって、紙芝居への期待も高まるというもの。
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いっぷく座の紙芝居は日本の昔話・落語・講談から題材を頂いている。絵は素朴でユルくていい加減なほのぼの系。そんないっぷく座の世界の入口みたいなハコが欲しい。
そんなハコさえあれば・・・
そんな思いで5年前、お願いにあがったのはご近所に住む木工作が趣味のおじいさんのところ。
地域の子供達にノコギリの使い方や釘の打ち方を教えながら、本棚や椅子を作らせてくれちゃうご近所の人気者。
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おじいさん「最近、漆塗りも満足の行く程度に仕上げられるようになりましてね。」
私「漆! かぶれませんか?」
おじいさん「かぶれますよ、手袋してても。だから病院行きながら、ネ。」
と、少し照れながら話すおじいさんは、紙芝居に情熱捧げるワタシと同じくらいの情熱で趣味の木工に夢中。
お仲間と開く作品展のときに「他の人とはちょっぴり違う物を作りたい」と。
「でも、自分ではなかなか思い付かなくて。」
そんなおじいさんの言葉が私の頭の片隅でジッとこの時を待っていたのでした。
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意を決してお宅を訪ね、縁側で紙芝居のハコのイメージをさらさらっと紙に描きながら、
「ここが観音開きに開いて、ここに絵を入れて、右からも左からも引き出せるように出来ます? あ、上からも出し入れできるように、ここにも穴を作って・・・」
要望が多くなれば多くなるほど、前のめりになるおじいさん。
定規やら鉛筆やら持ち出して、ざっくり描かれた絵に比率やら長さやらを書き入れて行く。
イメージが膨らんで、おじいさんの目にどんどん力がみなぎってくる。
近所のおじいさんじゃなく、これはもう「匠」の眼光。
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「とりあえず、作ってみますよ。気に入ってたものができるかわかりませんけど。」
親子ほどに歳の離れた私に、これから秘密基地を作りに行く少年のような顔を向けてこう言うと、匠は自転車に乗って意気揚々と材料集めに出掛けて行ったのでございました。
かくして頭の中に漠然と描かれていた紙芝居のハコは、匠の手によって鮮烈にこの世に送り出され、以来ずっと紙芝居いっぷく座の真ん中に居るのでございます。
紙芝居いっぷく座のハコは、いっぷく座の翼。
このハコを持って、これからもお話の旅に出かけて行くのです。
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紙芝居いっぷく座
直ヶ谷 春泥
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