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竹の輪っか

⭐️⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)

僕が小学校低学年の頃、

『ムシキング』

が全盛期を迎えた。

『ムシキング』
とはトレーディングカードを使った
アーケードゲームで
ジャンケンを利用した
非常に単純明快なルールで
人気を博した。

当時
小学2年生だった僕は
狂ったように
このゲームにハマっていた。

休みの日になれば
ラウンドワンや
近所のゲームセンターに繰り出し

朝から晩までこのゲームに
お小遣いの100円玉を
入れてはプレイし

プレイ時間が終われば
また列に並ぶ
という行為を繰り返していた。

今思えば
何故こんなに
ハマっていたのかわからないが

その当時は
楽しくて面白くて
しょうがなかったのだろう。

誕生日プレゼントにも
カードを収納するための
専用ケースを親にねだり

完全に
『ムシキング』の虜になっていた僕は
ゲームで利用するカードだけではなく
本物のカブトムシを
手に入れたくなってしまった。

すぐに親にペットショップに
連れて行ってもらった。

ブームの最中だからだろうか

店内に沢山の
カブトムシやクワガタムシが並んでいる。

僕は気に入ったカブトムシを
選び持ち帰った。

数日後

この時まだ僕が小さかったからだろうか

カブトムシを見て
餌をやり
また見る

この単純作業に
完全に飽きてしまった。

何をしてるんだこいつは

とカブトムシに怒りさえ覚えてしまった。


あかん

戦わせたい


ゲームの中で散々
対戦するカブトムシを見ていた僕は

何の闘争心もなくただただ生活する
カブトムシに嫌気が差していた。


そんなある日

僕の父親の弟であり
実家から
車で15分ほどの場所に住んでいる
僕の叔父が
カブトムシを持って訪ねてきた。


神なのか


僕にはその叔父が
もはや神様に見えていた。

2匹目のカブトムシを手に入れた僕は
叔父が帰ると
早速2匹を対戦させることにした。

(神にすら感じた叔父の存在は
この時点ではもうどうでもいい)

皆が食事をしていたテーブルに
カブトムシ2匹を置く
(衛生面めちゃくちゃ)


………。



どうなってるんだ

カブトムシ二匹がびくともしない。



………。

ブルルルルルル!!!!!



!?


1匹が羽を目にも止まらぬ速さで動かして
空中を飛び出した。

皆がご飯を食べるための部屋の中を
1匹が飛び回る

最悪だ

戦わないばかりか
逃げ出す

日本男児として恥ずかしくないのか君たちは

僕の願望は叶わなかった。

今考えれば
動物に対しての愛がなさすぎるし
本当に申し訳ない行動だったなと感じる。

しかしその頃の僕は
ただただ無邪気に
虫と向き合っていただけである。

その後しばらくは
アーケードゲームの
『ムシキング』をやりまくる日々が
再び訪れた。



そこからまたしばらく経って
僕はあるカブトムシと出会う。

アトラスオオカブトだ

アトラスオオカブトは
クワガタムシのように
アルファベットのCの形のツノが
2本生えており、
その下に上向きに沿った角を
1本持つ種類で

計3本のツノが生えており
非常にカッコいいフォルムをしている。

僕はこのカブトムシに
一目惚れしてしまった

一番のレアキャラとして
人気を確立していた
ヘラクレスオオカブトよりも
僕は
アトラスオオカブトの
漆黒に輝くボディーの方が好きだった。

これほしいなー

子供の頃の願望なんてこんなもんだ。

父親にもう一度ねだるのは
相当気が引ける

僕は
父方の祖父に頼むことにした。

カブトムシが欲しい

そう伝えると祖父はすぐに承諾してくれた。

一緒にペットショップに行く。

店内のかなり目立つところに
憧れのアトラスオオカブトがいた。


値段を見る。

8000円


マジか!

この間買ったカブトムシは
800円だった

軽く10倍

すぐに承諾してくれた祖父も
驚愕していた。

今の時代には相当やばい発言だが
カブトムシが?
みたいなことも言っていた。


アトラスオオカブトを
家に持ち帰り

早速対戦してみる

僕が2体所持していたうちの
強そうな方のカブトムシと

アトラスオオカブトを対峙させる。

全く動きがない

しばらく様子を見てみる

ノーマルカブトムシの方がうろうろし出した。

アトラスの方は堂々としていて
全く動かない。

なるほど

これだけ強そうな相手が来ると
落ち着かなくなり
動き回るのか。

アトラスの方は余裕がある。

もはや戦わなくてもよかった

こんなもん
一つも接触してなくても
アトラスの勝ちやろ

僕はかなり満足した。



数日後

3匹のカブトムシにそれぞれ
餌をあげる

ダメだ

飽きてきた

言い方はかなり悪いが
正直この3匹を育てているよりも
大人が真剣に会議を繰り返して考えた
アーケードゲームの方が面白い。

どうしたら
このマンネリ化を抜け出せるのだろうか

そんな時
また叔父が家にやってきた。

色々と話をする

そういえば
叔父はこの間持ってきた
カブトムシを
どのようにして確保したのだろうか

聞いてみる。

「あー俺が採った」

俺が採っただと?

なるほど
自分自身で虫を獲得することも可能なのか。

もし僕が
自らの手を使って
カブトムシを採集できたとしたら
そのカブトムシに対しては
めちゃくちゃ愛情が湧くのではないか

僕は叔父に
カブトムシを採集しに行く
約束をとりつけた。


数日後

早朝、
実家に車で乗り付けた叔父は
僕を乗せるとすぐに走り出した

ワクワクが止まらない。

僕が自らの手で
カブトムシを採ることができる。

目的地に着くと
虫取り網とカゴを持ち
色んなポイントを回る。

まず1つ目のポイントだ。
木が生茂り
相当虫がいそうだ。

蚊や
蜘蛛の巣を振り払いながら進む。

カブトムシ
カブトムシ
カブトムシ

はよこい!

ただただそれしか考えていなかった。

木を見る

カブトムシなど一匹もいなかった。

まあまあ
これはまだ1つ目のポイントだ。

すぐに見つかっても面白くない
こんなもんだ。

2つ目のポイントに行く。

そこはかなり崖のようになっており
降りるには難しい場所だった。

叔父が僕にいう

「ここからは俺1人で行くわ」

なるほど
甥っ子に危険を冒させないための
配慮だろう。

自分の手で掴みたいという
気持ちもあったが

小学校低学年の僕にはまだ早すぎる

僕は叔父に全てを託した。

「もしかしたら遭難するかも知らんから
これ預けとくわ!
全然帰ってこんかったら誰かに連絡して」

叔父は僕に携帯電話を渡した。

すぐに僕はそれを左ポケットに入れた。

はじめて持つ携帯電話に
少し興奮したが
それほど危険ということだろう。

僕は車に寄り添いながら
叔父の帰りを待った。

30分後

早朝に
このわけもわからない山で
小学校低学年の男の子が
ただ1人

怖くなる条件が全て揃っている。

叔父は大丈夫だろうか。

カブトムシは採れただろうか。

携帯電話の準備をする。

そもそも
カブトムシを採れたとして
片手で持ちながらこの崖を登ることなど
可能なのだろうか。

不安になり、色々と考えていると
木が揺れるような音がした。

ガサガサガサガサ



映画のワンシーンのように
叔父が崖を登ってくる

「いやぁ〜おらんかったなぁ」




おらんかったんかい!!!
ほなはよ帰って来いよ!!!
何粘っとんねん!!!
何で甥っ子の喜ぶ顔と
甥っ子の危険を天秤にかけて
喜ぶ顔ちょっと勝ったんや!!!


怒りも少しあったが
帰ってきたので良しとしよう。


僕たちはまた
ポイントを移動することにした。

叔父が言う

次がおそらく最後のポイントだと

マジか!

次おらんかったら収穫ゼロやん。

ポイントに着くと
僕は微かな不安を覚えながら
車から降りた

だんだん空が明るくなってきている。

周りを見る

カブトムシらしきものが無い

このポイントでも
カブトムシはいないのだろうか

叔父のあの
俺が採った発言は一体何だったんだ?

僕は少し拗ねながら
草にまみれた道を歩く

あ!!!

叔父が大きな声をあげた

なんやなんや!
カブトムシ見つけたんかいや!

叔父があるものを天にかかげる

まだ空にではじめたばかりの
日光に照らされたその物体をよく観察する。



竹の輪っかだ。



その物体がカブトムシではないことは
すぐに分かった。

それは竹を綺麗に輪切りしたような
筒状の物体だった

なんであんな声出したんや?


僕の疑問をよそに叔父は

「これは俺とお前の友情の証やな」

とドヤ顔で言い
僕にそれを渡した。


友情の証???

僕はそれを受け取ると
右ポケットに入れた。


車に乗り
来た道を戻る。



カブトムシは結局採れなかった



僕は微かな虚無感を覚えながら
膨らんだズボンのポケットを見つめる

なんの時間だったんだ?

僕の不満をよそに
車は僕の実家につけられ

僕は両親が起きたばかりの
家に帰る。

ポケットをまさぐる

携帯電話と竹の輪っかが出てきた。

いま
僕に残された物は
この2つしかなかった

なんやねんこれ

友情の証?

今考えれば
叔父はせっかく
甥っ子と一緒に出かけたのにもかかわらず
カブトムシが1匹も採れず
焦っていたのだろう。

なんとかしなければならない

そんな中で
綺麗で立派な形の竹の輪っかを見つけ
友情の証というそれっぽい理由をつけて
苦し紛れの言い訳のような形で
僕に渡してきた。


なんじゃこりゃ

全然誤魔化せてないやん

しかも焦りすぎて
携帯電話返してもらうの忘れてるやん

僕は
文明にまみれた物体と
文明からかけ離れた物体を
ポケットに戻すと

飼っていた3匹のカブトムシの前に立った。


ごめんな


僕は3匹に謝った。

そして、その日
いつもよりも愛情を込めて
昆虫ゼリーを配っていく。


今までごめんな
ごめんな


何度も謝る

僕は
携帯電話と竹の輪っかとともに
動物への愛情を取り戻した。

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