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上段回し蹴り

⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)

僕は
他の人より少しだけ
ガタイがいいからか

「なんかスポーツしてた?」

とよく質問される。


その時、僕は大抵

「水泳とかしてましたね。」

と答えるようにしている。

僕は1歳半から18歳まで
水泳をしていた。

こう答えた時、
水泳に関して少しだけ知識がある人は

「あぁ〜確かに肩幅広いもんな」

とか言ってくれるが

ほとんどの人は

野球とか
もっとわかりやすい
スポーツやと
思ってたのに
予想外で何とも言われへんなぁ〜

と言う感情になり

「んんん〜そうか」

と言う返事になってしまう。

授業内容などに組み込まれているため
水泳を全くしたことがない人は
おそらく世の中に1%もいないだろう

しかし
話題を展開させられるような
知識はないのだ。

僕は正直
水泳を本格的にやっていた
人たちの中では
肩幅が狭い方だ。

なので
他にやっていたスポーツを紹介したいが
僕は野球を1年半
バスケを3年間
空手を8年

以外に紹介できるような
スポーツ歴がない。

野球とバスケは
薄すぎるので
今回は空手について
書いていきたいと思う。



幼稚園の年中の頃

僕は家の近くの
道場に行き
入会をする事になった。

そこから8年間
ほぼ空手に熱中する事はなかった。

週1回
日曜日に道場に行き、
2時間練習するだけ。

何らかの理由をつけ
サボる事さえあった。

僕が通っていた流派は
大阪府堺市を中心に
40店舗ほど展開する
いわゆるチェーン店だった。
(空手の道場を
チェーン店というのかどうかは不明)

そして
その中でも僕が
実際に通っていたのは
本部道場であり

同世代を含む様々な年齢層、階級の
全国大会1位、2位レベルの
猛者が集う場所だった。

そんな中に放り込まれ
僕はかなり
周りの人間に揉まれていた。

中でも嫌だった練習が
組み手だ。

組み手とは
ボクシングで言う
スパーリングのようなもので

一旦
皆が正座させられ
実戦形式で
順番交代に名前が読み上げられて
数人が立ち上がり
色んな人と戦っていく。

練習序盤の
拳立て(腕立て伏せの手がグーバージョン)
スクワット
腹筋

などは体の基礎を作る筋トレであり、
僕は
元々の筋肉量が少し多いこともあって
何とかこなしていたが
 

組み手だけは
本当にしんどかった。

何で僕のような
空手雑魚が
同世代のチャンピオンと
戦わなければならないのだ

そう思いながら
いつも戦っていた。

ある日
僕が小5くらいの頃だったと思う。

僕の同級生の
全国2位と組み手をする事になった。

この流派では
柔道で言う
一本のような技が
2回決まれば
試合では勝ちになる。

一本の中でも最も頻度が高いのが
上段回し蹴りだ。

上段回し蹴りとは
片足を軸にして
もう片方の足を
相手の頭の位置まで上げ
体を回転するように
頭を蹴る技である。

これを2回決めると
大会などでは試合終了。
勝ちになる。

これは決まり手の中で最も簡単で
強者は
とにかくこれを使いまくる。

この時も
相手は上段回し蹴りを頻発してくるだろう。
僕はそう思っていた。

しかし
相手は上段前蹴りを頻発してきた。

上段前蹴りとは
上段回し蹴りの
真正面から蹴るバージョンで
自分の顔面と相手の足の裏が
直接ぶつかる。

これも2回決めれば
勝ちになる。

ちなみに
これはマジで痛い。

組み手がはじまる。



すぐに試合終了

結局
僕は相手に
上段前蹴りを
3回決められた。

信じられない思いと
鼻の痛みを抱えながら
押忍
とだけ言い
僕はしりぞいた。


嘘だろ?

試合では
上段前蹴りは
2回決まると
試合終了となる。

それを練習で
3回も決めさせてしまった。

情けなさを抱えながら
次に組み手をする人たちを見つめる。

僕は何をしているんだろう。

少しそう思ったが
M君に話しかけられ
我に帰った。

M君は
本道場屈指の雑魚キャラであり
僕の悪友である。

この道場で
真剣に練習に取り組んでいないのは
僕とM君だけであった。

練習終わり
先ほど僕に上段前蹴りを3発決めた
同級生が僕に駆け寄ってきて言った。

「さっきごめんな。痛かったやろ?」

その時の彼の表情は
組み手の時とは打って変わって
柔らかく
純粋な少年といった感じだった。

「ええよええよ!大丈夫!」

僕は返事した。


通常、どれだけ
相手をボコボコにしたとしても
謝ることはない。

ボコボコにしたりされたりすることは
お互いに承知の上で
空手をしているからである。

それなのに僕は今日
相手に謝らせてしまった。

それほどボコボコだったのだろう。

なんて情けないんだ。



しばらく経って
また僕は
日曜の朝練習に向かった。

もちろんやる気はない。

8年間も空手をやっていた僕は
そのある程度長い
キャリアのせいか
なぜか黒帯になっていた。

黒帯とは
武道の最上級である。

この流派は
白から黒まで
全部で5種類の帯がある。

白帯から茶色帯が
10級から1級であり

黒帯は
初段から十段まである。

つまり黒帯になってすぐの段階では
長い空手人生で考えれば
まだ半分なのだ。

ただ黒帯といえば
世間の中ではかなり強いイメージである。

その日も
組み手の時間が始まった。

師範がその日の
対戦相手の名前を告げる。

「よし、じゃあ壱歩とS!」

僕は驚愕した。

Sちゃんは黒帯の1つ手前の茶帯で
僕の2個下の可愛らしい女の子だ。

だがしかし
その学年の全国1位だった。


僕は

確かに2個下やし
女の子やけど
チャンピオンやで?
負けたらどうすんの?
怖いねんけど?

という表情で
立ち上がった。



それが師範にバレた。


「おい!!!!!!」

元気を売りにする漫才師の
2分ネタの1分30秒らへんにする
ツッコミくらいの声量

「お前な、空手暦何年や!」

僕は答えた。

「7年目です」

「7年もやってる奴が!
年下の女の子と対戦決まって
そんな態度恥ずかしくないんか!
やる気ない感じで出てきやがって!」

皆の貴重な練習が僕への説教によって
どんどんと削られていく。

「しっかりせえよ!」

これはもうやるしかない。

僕は帯を締め直し
ボコボコにするつもりで
挑むことにした。


対戦開始

意外にも僕が優勢であった。

強者であるSちゃんは
もちろん積極的に
上段回し蹴りを狙ってくる。

僕の方が10センチほど背は高いが
普通に頭の位置まで足を上げてくるのだ。

しかし
僕はパンチをうちまくり
これがかなり効いている様子だった。


元々パンチ力は強いのだ。

「やめ!」

膠着状態になり
師範が一声かけた。

「じゅうぶん!」

出た。
試合中たまに
審判が試合を止め
じゅうぶん!
とか
ふじゅうぶん!

とか言ったりする。

意味はいまだによくわからない。

おそらく

じゅうぶん!

は戦いの内容が良いという意味で

ふじゅうぶん!

は積極性が無く良い試合になっていないという意味だろう


試合再開。

僕は闇雲にパンチを
繰り出しまくった。



Sちゃんが
涙目になっている。

え?

泣いてる?



泣いていた。

師範は
僕が少し頑張ったからか
満足げな顔をしている。

おそらく
Sちゃんは
僕の攻撃が痛かったから
泣いているというよりは
終始、劣勢だった自分自身が
悔しくて泣いていたのだと思う



完全に強者の考え方



それに対して
弱者僕

耐えたーーー!
危ない危ない

ここで負けてたら相当ダサかったで
危ないとこやホンマに
いやぁせやけど
泣かんでええやん!

泣いてる顔も結構可愛いな

そんなんどうでもええわ。
終わり終わりー



圧倒的弱者の思考僕
定位置にもどり正座



そこからまたしばらく経って
僕の引退まで残り2ヶ月ほどになっていた。

最後の試合もどうせ
2回戦負けとかやろうし

まあゆっくり残りの
空手人生を楽しもう


その日も気楽に僕は練習に向かった。

組み手の時間になり
皆が正座する。

「よし、
今日はちょっと変わった練習しよか」

変わった練習?

師範が内容を説明する。

それはなんと
黒帯の人間
vs
色帯の人間2人

というものだった。
(黒帯以外を色帯と呼ぶ。
いやいや、黒も色やろ)


嘘だろ?

ということは黒帯の僕は
1人で2人を相手に戦わないといけない。

この流派では
帯や体重、学年によって階級が変わるため
あえて昇級試験を受けずに
下の階級のチャンピオンを目指すズル賢い人も
多いのだ。

2対1は流石にやばいやろ。



僕は内心ビビっていた。

なぜ最後の方なのに
こんな練習をしないといけないのか。



どんどん試合がはじまっていく。

そしていよいよ
僕の番がきた。

相手は
茶色2人だった。

2人とも帯の色が剥げて
薄くなっている。

いやいや、
この2人階級落としてる
パターンのやつらやん!

あえて黒帯取ってない奴やん!

色剥げてもうてるやん、、、

何年その帯でやっとんねん!



はじめ!

色んな考えが頭を支配している間に
スタートの合図がかかった。

2人の人間が迫ってくる。

僕は
右手で右の敵をパンチ
左手で左の敵をパンチした。



攻撃が確実に
効いている気がする。

「おぉ〜壱歩なんか
カッコいい事なってるやんけ!」

師範が言った。

どうやら僕のパンチは
左右同時に繰り出しても
力がかなり伝わるらしく
強豪であるはずの2人も
弱っているのがわかった。



え?
ここで活躍できんの俺



2対1が僕の主戦場だとやっと気がついた。

なんや

苦手やと思っていた空手の中にも
俺が活躍できる場所あったんか



だけど
こんな特技、披露する機会などなかった。

自分の新たな才能を発掘すると同時に
僕の長かった空手人生は幕を閉じた。

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