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ソフト開発現場の小噺 「祈りの温調」

ソフトウェアエンジニアの開発現場がどんなもんなのか、印象に残っているエピソードを紹介したいと思います。

これは私がエンジニア3~4年目の頃の話なんですが、当時あるメーカーの装置を開発していました。私の勤めていた会社はメーカーの下請けです。その装置は細胞を検査する装置で、ハードウェアとして温調ユニットが搭載されていました。温調と言うのは文字通り温度を調整することで、温調ユニットで検査対象の細胞を温めるのです。

私はその温調ユニットのソフトウェア制御を担当していて、ハードウェア担当はメーカー社員のM田さんでした。彼もキャリアは4年目で、まあ同期みたいなもんです。

私はソフトウェアをM田さんはハードウェアの準備をし、いざ動作確認を開始したところ案の定、全く動きません。ええ、温まりゃしませんでしたよ。「あれ?あきませんねぇ~」「これで行けるはずなんすけどねぇ」とお互い自信も無く頭をポリポリかいている状態。

その後、二人でああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返したのですが、なかなか温調は掛かかりません。「アカン、俺らの実力では無理かもしれん。これで無理なら万策尽きましたね・・」と私が発言したら、


M田さんは隣で


祈り

こんな感じになって、「た、頼むう~掛かってくれぇ~、掛かってくれぇ~!」と祈りを捧げ始めました。


こんなもん一人でやらすわけにはいかん!「じゃ、オレも!」と私も一緒に

祈り2

「ちゃ、ちゃのむぅ~温調掛かってくれぇ~、掛かってくれぇ~」と祈りを捧げました。


すると


「おい!お前ら何やってんねん!?」と後ろから声が。薄目を開けて振り返るとM田さんの上司のT島さんが立っていました。


我々:「は!T島さん!お疲れ様です、いま温調を掛けております。」


T島さん:「あ、そうなん?  いや、その合掌よ、その合掌は何よ?」

我々:「あの、なかなか掛からなくて、ちょっと、あの、はい。」


T島さん:「え?温調って祈りで掛かるん?あははは!wwwお前ら技術屋やとは思われへんな!まぁ祈りでも何でもええわ、頼んだで!」


我々:「はい、頑張ります。」


T島さんが立ち去った後、恐る恐る温度計のモニターを見ると、

「あれ?M田さん!これ若干上がって来てないっすか?」

「え?ホンマか?ホンマにか?」

「間違いないっしょ?上がってますやん!」


「よっしゃあ!!!」


画像3

もう気分はこれもんで(勿論こんなカッコええことはありませんが)、二人でハイタッチとガッツポーズをしたことを覚えています。


万策尽きる前の最後の一手が功を奏し、なんとか温調ユニットの制御に成功したのです。結局、ソフトウェア制御の1ビットの有り無しが原因だったように思います。たった1ビットで動かんのですよ。ホンマに。

M田さんとはその後プロジェクトが変わり別々になるのですが、数年後にお互いがチームリーダーのポジションに上がった状態で再会します。新たな開発でも温調ユニットがあり、その動作確認の時に

「また、一発祈っときます?」

と冗談を言い合えた時には、お互いの成長を感じましたね。若手時代に苦労を共にした人とは、その後も結構いい関係が続くもんです。


話のまとめとしては、温調は祈りで掛か・・らない。正しい制御で掛かる。である。

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