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散文

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2019年3月の記事一覧

謎解きの鍵

謎解きの鍵

 忌引をもらい、五日ぶりに出勤した。職場は女性差別などについて人々が理解をしていけるような講座を行ったり、広報誌を発行したりしていて、活動団体が利用できる施設でもある。

 向かいの席では、相変わらず、自分のやりたい仕事しかやりたがらない女性が奇声を発したが、それには反応せずにノートパソコンを見つめていた。弁当を詰めて来る時間がなかったので、昼は何を食べようかと考えながら、自分らしくない自分の姿で

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ポジターノの夜

昼にナポリを出て、ガイドのマリオが運転する小さなベンツに揺られ辿り着いた時は、すでに日が暮れていた。旅行会社で働いている後輩が手配してくれたホテルへ向かう。

 空色や淡いオレンジ色のタイルで囲まれたホテルは南の町のやわらかい雰囲気を感じさせる。フロントで彫りの深い顔をした青年に尋ねる。「このあたりで、これから夕食を食べるところを教えてほしい。ここは、女性が夜ひとりで歩いても安全?」

 青年は笑

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「わたしは嬉しい時も、悲しい時もカレーを食べたくなる」

「わたしは嬉しい時も、悲しい時もカレーを食べたくなる」



ある夜、旅先で、九十四歳になる田舎のばあちゃんが亡くなったと連絡がくる。年の瀬の出来事だった。小学生のころ、ばあちゃんちの近くの田んぼで見つけた夏の蛍、毎朝、唱えた日蓮宗のお経。じいちゃんの亡くなった日のこと。たくさんのことが笑顔で横たわるばあちゃんの姿から走馬灯のように蘇る。

 納骨の儀で墓地へ続く舗装されていない小道を歩くたびに、パンプスのヒールが土に埋もれてしまう。その道を、追い

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