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スタートアップの人事労務④-事業場外みなし労働時間制と在宅勤務制度

 未払い賃金問題と関連して、最近話題になっている在宅勤務制度にも言及しつつ、今回は事業場外みなし労働時間制について検討する。

(1)事業場外みなし労働時間制とは 

 従業員が労働時間の全部または一部を事業場外で勤務し、その労働時間の算定が難しいときは、所定労働時間労働したものとみなすことが認められている(事業場外みなし労働時間制、労働基準法38条の2第1頃)。事業場外みなし労働時間制の適用要件を充足した場合には、原則として、「所定労働時間」労働したものとみなされることとなり、この場合には、時間外労働が発生しないため、割増貸金の支払も不要となる(所定労働時間みなし(労基法38条の2第1項本文))。

 また、事業場外みなし労働時間制の適用要件を満たす場合において、当該業務を遂行するためには、通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に「通常必要とされる時間」 労働したものとみなす制度もある(通常必要時間みなし(労基法38条の2第1項但書)) 。この「通常必要とされる時間」について、使用者と過半数代表が労使協定を締結した場合には、その協定時間をみなし時間とすることされている(協定みなし時間(労基法38条の2第2項))。この労使協定は、そのみなし時間が法定労働時間を超える場合には、届出の必要がある(労基法38条の2第3項、労基則24条の2第3項)。

 事業場外みなし労働時間制が認められた趣旨は、労働者が事業場外で労働をする場合、例えば、保険の外交員等の販売活動、新聞記者の取材活動、出張等.監督者の具体的な指揮監督が及ばない場合があり、その結果事実上、労働時間の把握が困難な場合があり、かかる場合に対応する点にある。そのため、事業場外で就労する場合においても、グループで行動しその中に労働時間管理者がいる場合、無線等で随時使用者の指示を受けながら労働している場合等、労働時間を算定し難いとはいえないと評価される場合には、みなし時間制の適用はない 。

 事業場外労働について、その導入には、事業場ごとに過半数を超える労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)と書面にて労使協定を締結する必要がある(労働基準法38条の2第2項)。また、事業場外でのみなし労働時間が法定労働時間を超える場合(例:1日9時間を労働時間とする場合)には、割増賃金分を支給する必要がある 。

(2)在宅勤務と事業場外みなし労働時間制

 スタートアップで導入が考えられる在宅勤務制度についても、事業外みなし労働時間制の適用の余地がある。すなわち、在宅勤務者が自宅で仕事をしているということは、在宅勤務者の本来所属している事業場の外で仕事をしているということになる(厚生労働省労働基準局労働条件政策課「在宅勤務での適正な労働時間管理の手引き」平成24年3月)。同手引きによれば、以下の条件を満たす在宅勤務については、事業場外労働によるみなし労働時間制の適用ができるものとされている。

①その業務が、起居寝食など私生活を営む自宅で行われること
②その業務に用いる情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
③その業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

 そして、事業外みなし労働時間制で最も重要な問題は、「労働時間を算定し難いとき」といえるか否かである。この点について、最判平成26年1月24日労判1088号5頁【阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第二)事件】は、「労働時間を算定し難いとき」に該当するかについて、一般的な判断基準は示さなかったものの、①「業務の性質、内容やその遂行の態様等」、②「旅行会社と乗務員間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等」を踏まえつつ、「勤務の状況等を具体的に(使用者が)把握することが困難であったか」否かを判断した(結論:否定)。

 そして、上記①業務の性質・内容等について、添乗員が、ツアー旅行日程に従い、ツアー参加者に対してサービスを提供するものであり、当該ツアー日程は、会社と参加者間で契約の内容として日時や目的地等を明らかにして定められており、その旅行日程に従って行動することになっていたこと等から、添乗員が決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られていたと評価した。

 他方、上記②業務に関する指示・報告の方法等に関しては、あらかじめ具体的な指示があり、途中で変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別に指示をするものとされ 、業務終了後に添乗日報によって、詳細な報告を受けること等を指摘して、「勤務の状況を具体的に(使用者が)把握することが困難であった」とは認めがたいとされた。

 なお、近年スマートフォンなしでの生活は考え難い状況となっているが、スマートフォン等の端末の携行は、「勤務の状況等を具体的に(使用者が)把握することが困難であったか」否かの「考慮要素」に過ぎず、運用によっては、「勤務の状況等を具体的に(使用者が)把握することが困難であった」と判断される場合もあるということには留意されたい。

※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。

弁護士 山本飛翔

Twitter:@TsubasaYamamot3

拙著「スタートアップの知財戦略」

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