★マウントをとるものたち
H「あ。またあんた?まだいたんだ」
B「久しぶりだね」
H「確か、あんたのあだ名、髪の毛が尋常じゃなく黒いから、ブラックってあだ名よねえ」
B「だから何?」
H「別に。あたしはあだ名がないから。いいよね~、あんたは、あだ名があって」
B「あのさ、それ何度も聞いたし、そのくだりしかないの?しかも、あだ名の意味は、髪の毛が柔らかくて綺麗って意味よ」
H「そうだったかしら?」
B「物覚え悪いのね」
H「髪質が柔らかくてうらやましいわ。あたしは髪質固いから、あんたみたいにふっくら仕上がらないの。ストレートにしかならなくって」
B「だからそんなまっすぐとがった髪型なんだ」
H「何言ってんのよ。これは最新の美容院で整えてもらったのよ?わからないなんて。よく、自分の髪が綺麗とか言えたものね」
B「固すぎてハサミじゃなくて、カッターとか刃物で切ってそうね」
H「最新の美容院でそんなことするわけないでしょ。あたしはね、最新のカプセルに入ってちゃんとケアして、仕上げてもらってるの。ハサミで切れないのはあんたの方じゃない。やわらかくて髪の毛が逃げて行っちゃう。」
B「別に私がどう髪を切ろうと、どうでもいいでしょ」
H「だって、あんたの髪の毛ボコボコしてるわよ?大丈夫なの?」
B「これは髪の毛をすいてもらってるから。ボコボコなわけないでしょ」
H「そんなにボコボコじゃ、撫でてもらえないわね。あたしの彼は、優しくいつも頭を撫でてくれるのよ」
B「私の彼だって頭ぐらい撫でてくれるわ」
H「ボコボコで撫でにくそうね。それに、見て、あたしの服。オレンジ色で綺麗でしょう?あなたは…何色なのそれ?小豆?」
B「大事なのは色じゃないわ。私はこの服が好きなの。それを彼も受け入れてくれてる。こんなに幸せなことないわ」
H「えー。趣味悪。あたしだったらそんなに地味なの無理」
B「それに私たちは神様に守られているから」
H「は?何それ?」
B「この間一緒に神社にお参りに行ったの。彼、今年受験だから。私も微力ながら応援したいじゃない?」
H「何それ、めんどくさ」
B「彼に頼んだぞって言われたとき、すごく頼られるって感じて、嬉しかった」
H「めんどくさ。でも、髪型は悲惨よね」
B「初心者の彼が一生懸命切ってくれてるんだもん。多少ばらつきあっても、仕方ないわ」
H「あぁ、将来美容師になりたいんだってね。よく言えるわ」
B「私たちの大事な夢よ。美容院で簡単に切られてるあなたより、二人の思い出が増えて幸せよ」
H「なんか、無理して幸せを演じてて大変そうね」
B「そうかしら?」
H「本当の幸せって、自分から言わないと思うけど。あたしたちは心で通じ合ってるから、「幸せだねー」って言葉にしないわ」
B「そうでしょうね。だって、あなた本命じゃないもんね」
H「は?」
B「あなたの彼を見ていると、あなた以外の子の髪の毛を撫でてるもん」
H「そんなのあんただって同じでしょうが」
B「私の彼は、私だけよ」
H「はっ。知らぬが仏ってやつね。どうぞ、そう思っていてくださいな。てか、あなたの彼、ちゃんとした抱きしめ方知らないの?」
B「どういうこと?」
H「きつ過ぎんのよ。ギュってしすぎ。あたしの彼は、ふわってあたしの全身を抱きしめてくれるわ」
B「そんなところまで見てんの?気持ち悪いわ」
H「あんただって同じでしょうが」
B「きつくていいのよ。彼が私を求めている証だもん」
H「…ちょっと、あんたのこと、だんだん怖いんだけど。メンヘラやめてよね」
B「メンヘラなんかじゃないわ」
H「当人はそういうのよ。あぁ、あんた見ていると、自分がまともに思えるわ。ありがとうね」
B「浮気されてるあなたに言われたくない」
H「ね、さっきは言わなかったけど、浮気のことを言いだしたらあなたの負けよ?」
B「負け?何か戦ってたっけ?勝手に挑まれても困るわ」
H「ま、別にいいんだけど。てか、もう一つ言わなかったことがあるんだけど、あんた、醜さ増したよね?」
B「どういう事?」
H「顔も服も汚れてきたってこと。ちゃんと洗ってんの?」
B「シミそばかすは仕方ないことじゃない。そんなとこで優越感に浸るわけ?」
H「これは心配よ。し・ん・ぱ・い」
B「余計なお世話よ。ありがたいけども」
H「…でも、こうしてあんたを見てると、あんたと話せるのもあと少しか…」
B「急にどうしたのよ。まぁ、二つの意味でそうね」
H「…浮気されるのもいいもんよ。ある意味」
B「そうね。彼と、それだけずっといられるもんね」
H「まあね。でも、それもいいんだか結局はわからないわよ。いつか捨てられるかもしれないしさ」
B「それは私だって同じよ」
H「本当に少し見ない間に、小さくなったわね」
B「あなたはあまり変わらないね」
H「ブラック」
B「何よ急に」
H「なんだか懐かしくってさ。初めて会った時のこと」
B「今よりもマウント取り合ってたわね」
H「結局は、同じ一つの個体なんだけどね」
B「そう?私は個性を信じてるよ」
H「個性か…」
B「…今までありがとう」
H「やだ、今度はブラックから何!?やめてよ」
B「ほら、お互いの彼も卒業式近いし」
H「そ、そうね。あんたと会えないの寂しくなるわね」
B「違う子とバトルしちゃだめよ?」
H「あんた以外のやつなんか興味無いわ」
B「今は機械化されてるしね」
H「そうそう。便利な世の中になっちゃって」
B「――あ、もう時間だ」
H「え、本当?」
「はい、試験はじめ」
教員の声と一斉に、生徒全員試験用紙をめくる。かかかか、と、鉛筆やシャーペンで答案用紙に文字を書き込む音が教室内に響く。
そう、静かな教室には、さらさらと優しく書く人もいれば、筆圧が強い人もいたりと、様々な筆記音が聞こえるのであった。
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