★宇宙食べた。お腹が空いたから。

 お腹が空いた。だから食べ物を探した。そして、それを僕は食べてみた。これって、別に変なことじゃないよね?当然のことだし、普通だよね。

 色々とのどに突っかかったり、大きく口を開けないと食べれなかったりと、食べるのに大変だったけど、なんとか食べきった(少し残しちゃったけど、また今度食べればいいよね)。
 お腹はいっぱい!大満足!むしろ、しばらく食べなくてもいいぐらい満たされた。あぁ、幸せ。しばらくすると食べた後は眠くなる。これも当然だよね。じゃあ、おやすみなさい。

 ――!!?痛い!痛いぞ!それに熱いし、お腹の中が苦しい!中からどんどん膨らんできて、今にもお腹がはち切れそうだ!何が起きてるのかわからないよ!腐ってたのかな?どうしよう。どうしよう。とにかく食べたものをどんどんお腹の外に出していくしかない。食べたものは、大きかったり、ごつごつしていたり、びよーんと伸びたりと出すのに難しいけど、頑張るしかない。
 ――結構出せたんじゃないかな?お腹が膨らむのは少し弱くなったし、このままなら、もういいかもしれない。いや、まだだ。せっかく食べたものを吸い込んでるやつがいる。これじゃまたすぐお腹がすいちゃうよ!
 吐き出したそれは、直ぐに僕も吸い込もうとする。すごい力だ!引っ張られる!だから、急いで僕はすごい力に負けないようにそれを遠くへ飛ばした。
 今度こそもういいかな?だめだ。お腹が膨らんだり、食べたものが吸い込まれたりしなくなったけど、熱いのが無くならない!熱い!体が溶けちゃいそうだ!これじゃ、何も食べられなくなるよ!
 熱いものの正体は聞いたことがあった。確か名前は「太陽」だ。近づくと、ものすごく熱くて危ないって誰かから聞いたような気がする。あれ、誰だったかな?近づくだけで熱いのに、それを食べたらそりゃあ熱いよね。気を付けないと…。
 あーあ、せっかくいっぱい食べたけど、まだまだ出さないといけないみたいだ。まだ体が苦しい。もったいないなー。
 体の中で暴れ回ってるもの、爆発してるもの、異様に喉が渇くもの、ゴロゴロしたのが沢山周りにあるもの、何の栄養にもならないもの、ぶつぶつ話しかけてくるもの、色んなものを出した。――結局最後に残ったのはこれだけか。最初は沢山あって、ワクワクしてたのに。食べるのが難しくても一生懸命食べたのに。これじゃ、すぐお腹が空くよ。

 だと思ってたけど、それがそうでもなかった。なんでだろう。不思議な気持ちになる。そうか、今まで、色んなものが体の中にあったから気がつかなかったんだ。じっと、お腹の中から体中に染み渡るものを意識してみた。
 ――なんだか楽しい!ワクワクする!なんだこの気持ちは!色んな味がして美味しい!おまけに、色んなアイデアが浮かんで頭がよくなった気分(笑)。こんなに栄養豊富で、心にまで栄養がくるなんて初めてだ!宇宙は食べてみるもんだね♪喉も乾かないし、お腹も全然空かないし、熱さも丁度いい。これだけを食べれば十分じゃん!やっぱり、食べすぎてたんだなー。僕は食いしん坊だから。

 ――長い長い時間が流れた。僕は長く感じなかったけど。お腹の中のものは、日々変化してくれた。味も変わるし、明るかったり、楽しかったりと気持ちも変えてくれた。そして、手のひらや体のあちこちに「可愛いもの」が浮き出てきて、体もオシャレにしてくれた。当然お腹も空かなかった。

 ――だけど、【それ】はもう既に始まっていて、もう手遅れだった。


 あれ?急に涙が出てきた。それが始まりだった。楽しい気持ちとかは相変わらずあっても、何でだろう、悲しい気持ちが強く胸に込み上げてきた。
 ――これは初めてじゃない。直感で感じた。他にも「後悔・憎しみ・苦痛」とか、色々あって、気づいたら僕は自分の体を思い切り引っ搔いていた。何度も何度も引っ掻いた傷跡が沢山。どうして気づかなかったんだろう。しかも、全然治らないし、治っていく様子もない。でも、まだまだ新しい楽しいがあるし、少し痛いのを我慢すれば大丈夫。まだまだ十分美味しいんだから。

 ――だめだ!なんだこの気持ちは!この感覚は!美味しくない!不味い!僕が最後にお腹の中に残したそれは、どんどん臭くなり、新しい楽しさも無くなった。また、気づくと今度は体中に穴が開いていた。綺麗だった「花」はどこにもない。どうなっているんだ!?急いで吐き出そうにも吐き出せなかった。なぜなら、僕のお腹の中にはもう、食べたそれは無いけど、食べたそれは体中に染み渡っていたからだ。一気に不安と恐怖が込みあがる。この不安と恐怖は、僕自身の気持ちなのか、食べたそれからの栄養?なのかさえわからない。僕は僕なのか、食べたそれが僕になったのか、うまく言えないけど、そんな感覚なんだ。

 僕は僕自身を壊していった。指先がぽろぽろと崩れ落ちていく。これは僕の意思なんかじゃない。本当は、内側からじわりじわりと壊れていたんだ。壊されていたのか?だけど、楽しさが上回っていて……――ううん。本当はわかっていたんだと思う。でも、楽しさを優先してた。お腹も満たされるし。
 僕が忘れていたこと、僕が最後に残したそれは一つの「大きな命」であるということ。僕は命を食べたんだ。僕も一つの命で、だからこそ意思がある。だけど、僕の体にいる間…いや、その前から既に、その大きな命はあまりにも膨大で、命そのものが命を維持できなくなっていたんだろう。僕に助けを求めていたのかもしれない。いや、それとも僕になろうとしていたのか。逆に僕を食べていたのか。
 もう、考えられなくなってきた。視界も悪い。あぁ、食べた命とともに消えていくのか。それとも、食べた命だけは残るのか。結局言えることは一つ。

 宇宙は食べるもんじゃない。
 そして、僕は消えた。もうお腹が空くことはない。当然だよね。
 

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