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都心 靖国の森

車が行き交う大通りの塀の内側は、まるで空気が違う。
通り沿いの南門を入り、左手に向かう遊歩道に点々と並ぶベンチ。

茶室のある神池に出る道筋が、おそらく、境内の中で一番静かに過ごせる場所だろう。
昼食時は、ここでお弁当タイムを過ごすサラリーマンや参拝の人を見かけるけれど、昼前の午前中はほとんどひと気がない。

ベンチで独り、腰を落ち着けると気分は森の中。
湿気を帯びた土の匂いと、木々が発する青渋い香り。
空気は鎮まっているが、あたりは絶えず何かが動いている。

森の呼吸に馴染むまでは、リラックスするというより、むしろ体は緊張を隠せない。
カサッ コソッ パシッ
風の音、葉が落ちる音、木の実が転げる音に、いちいち反応してビクつきあたりを見回す始末。

誰もいない、何もいない。
雀が数羽、柔らかい土の上を身軽に飛び回っている。
頭上に茂る緑の中で何かの鳥が鳴く声に、しばらく耳を澄ます。
と、ようやく空気に馴染めたかの深呼吸に肺が開け、体ごとほぐれ始める。


≪🐟10*06*25📒230625≫

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