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4. Less is Moreー軽井沢のリトリート、サステナブルな「ししいわハウス」

(承前)
心身を整えることを切実に必要とした時に、自然・建築・現代アートの融合と木のやさしさに魅かれて訪れた、緑の中のリトリート、軽井沢の「ししいわハウス」
坂茂さん設計、2019年2月開業。

わずか10室、ブティックホテルとか隠れ家的リゾートホテルなどと紹介されているけれど、ホテルというより別荘のような。 たったひとりのゲストという幸運に恵まれ「貸し切り」だったから、なおのことその印象が強い。

部屋番号もない木のドアだけの10の客室は、3・3・4と3つのクラスターになっていて、その3室ないしは4室で共有するミニキッチン付きのリビングルームにつながり、3つのリビングルームは、さらにダイニングルームにもなる全員で共有する「グランドルーム」につながっている。 全体の中心にある大きな半円形の「グランドルーム」は、正面が一面のガラス扉で、その向こうは「ライブラリー」へとつながるウッドデッキが広がる。ガラス一面が開口部となって開け放つこともできる。このグランドルーム、ウッドデッキ、ライブラリーがパブリックエリアとなる。
通常のホテルは2~3割のパブリックエリアが、ここでは、5割だという。人と人との社交を大切にする「ソーシャル・ホスピタリティ」という概念に基づき、空間をパブリック・セミプライベート・プライベートという3つのエリアに分けた、独特の作りになっている。

ししいわハウス―何も知らなくても、好きにならずにいられない空間だけれど、知れば知るほど、語りたくなる。ということで、今回は、ししいわハウスについて語ろう。。。

ここのコンセプトが、プライベートを大切にしつつ人とのつながり、交流も大切にするというものにせよ、その時は、特に、見知らぬ人と空間を共有せず、一人で静かな時間を過ごせたことは大きかった。
部屋も美しく、居心地がよかったにもかかわらず、結局、滞在時間の大半を、開放的なグランドルームやウッドデッキで過ごすことになった。誰かがいたら、それほど長時間いることはなかっただろうけれど。

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「ししいわハウス」では、緑と木の香りに包まれ、そして、ミニマルなのに全体が美しく整えられていて、ただいるだけで癒される。
インテリアもすべて坂さんのセレクトで、坂さんのシグネチャー素材である紙管が、ベッド(ヘッドボードやリーディングライト)、アメニティカート、グランドルームやリヴィングルームの椅子、テーブル(脚部分)、フランク・ロイド・ライトへのオマージュである「紙のタリアセン」ランプなど、随所に使われていて、部屋に置いてある木のメモパッドまで坂さんデザインだった。建物本体に採用された”木造パネル工法“のパネルにも”紙“が組み込まれているという。

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紙管―再生紙の管は、世界中のどこでも手に入り、構造的にもしっかりした安価でサスティナブルで再生可能な材料で、一番先に思い浮かべるのは、トイレットペーパーの芯。
坂茂さんは、環境問題、エコロジー、サステナビリティ(持続可能)といった言葉が注目される前から、低コストで再生可能な建築材として紙、紙管を開発、使用してきた。
特に、紙管を使った緊急時用のシェルターでその名が知られ、1995年には阪神・淡路大震災の被災者のための仮設住宅、1999年にはルワンダの虐殺で難民となった人々のシェルターを建てた。シェルターは解体されても再利用される。

家具も、ほとんどがご自身のデザインなのだけれど、それ以外に唯一取り入れたのがアアルト。坂さんは、アアルトの「モダンななかに地域性を生かし、自然な素材と有機的な曲線を駆使した建築」が好きで、フィンランド中のアアルトの建築を見て回ったそう。
坂さんが初めて紙管を使用し、「紙の建築」の始まりとなった仕事も、1986年の「アルヴァ・アアルト展」の会場設計だった。

ししいわハウスに貫かれているのは、極力、環境に負荷をかけず、Sustainable 持続可能であること、そして、“Less is More”という、このホテルのオーナーであるシンガポールの投資会社の最高経営責任者 フェイ・ホアン氏の理念。フェイさんは、大学で化学工学を学び、卒業後に、廃棄物を扱う会社で働いていたことがあり、その経験が原体験となっているという。
“Less is More” は、 もともとは、ドイツの建築家 ミース・ファン・デル・ローエ Mies van der Rohe が、建築家としての信念を著した言葉で、建築やデザインの世界の、いわば「引き算の美学」だけど、最近は、ミニマルなライフスタイルであったり、さらには、エコロジーとも結びついている。
坂さんにとっても、ミース・ファン・デル・ローエは影響を受けた建築家の一人で、例えば、ミース・ファン・デル・ローエの作品をテーマにしてコンセプトを練り上げたという家(山梨県「無垢杉の家」2015年)があったりする。

ししいわハウスの中は、細部までこのポリシーで、しかも美しく整えられていて、本当に心地よい。客室内に置かれたミネラルウォーターは、ペットボトルではなく美しいガラスのカラフェとグラス、ソープ類は、環境先進国ドイツ生まれの100%天然由来で生分解性、節水を呼び掛けるエコロジーコスメの「STOP THE WATER WHILE USING ME!」。

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そして、室内には、フェイさん所有の現代アートがさりげなく飾られているのも、ここに来たかった理由のひとつ。
ギュンター・フォルグ Günther Förg、杉本博司、今井俊満、吉原治良、元永定正、鷲見康夫、山田正亮、、キム・チャンギョルー KIM TCHANG-YEUL、ザオ・ウーキー Zao Wu Ki、イ・ソンジャ Seundja Rhee、ベルナール・ベネ Bernar Venet。。。全体の共有スペースであるライブラリーのギュンター・フォルグ、グランドルームの杉本博司さんの2作品のほかは、各クラスターのリビングルームに飾られているので、すべて観られたわけではないのだけど、観たかった今井俊満さんの作品は、私のリヴィングルームに。

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山田亜紀さんのディナー(事前予約)、冷水希三子さん監修の朝食は、グランドルームのダイニングテーブルで、杉本さんのエンパイアステートビルをみながら。まるで、自分の別荘で専属シェフにサーブされているような。

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木の香りと緑とアートに囲まれた至福の週末。

「Perfection is achieved, not when there is nothing more to add, but when there is nothing left to take away」 サン=テグジュペリ

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