【雑記】それはもうたくさんの
「その歩き方、癖なんですか?」
唐突な一言に困惑する私。平日夜、担当氏と街路を歩いていた時のことである。咄嗟に自分の足元を確認してみるが、特におかしなところはない。
「……何か変でした?」
「よく見てください」
「右手が全然動いてないんですよ」
ほんまや。
意識したこともなかったが、確かに私は歩いている時、右手がまったく動いていない。
理由としては一応、自分の右手側にカバンをかけていることが多いのでそれを手で抑えているだけなのだが、傍から見るとやや不自然に思えるらしい。思い返してみるとカバンを持っていない時も大体こんな歩き方なので、身体に染み付いているのだろう。
初めて指摘されたことなので、新鮮な感じがした。
人間誰しも大なり小なり癖を持っているのだろうが、意識している癖と意識していない癖の間には大きな隔たりがあるように思える。
下手すると、誰にも指摘されないまま死ぬまで気付かない癖などもあるのかもしれない。それはなんだか自分を構成するパーツの一部に気付かないまま死んでいくようで、少し寂しいような気もする。
そんなことを考えながら後日、駅のホームでぼーっとしているうちに、電車がやって来た。
なんだこの立ち方。
はたと気付いた。自分は無意識のうちに、ホームに対して垂直に立っていたのだ。これも癖だ。
私の実家の最寄駅はかつて人身事故が多く、電車のホーム=危険というイメージが身体に染み付いた結果このような姿勢になったのだと思う。こうすれば何かのはずみでホームへ落ちそうになっても踏ん張れる可能性が高いからだ。
なるほど、こういうのもあるのか。
もしかしたら、こうした微妙な癖が集まって私という人間ができているのかもしれない。それはもうたくさんの、意識され得ない癖たち。私はさながら癖の集合体なのだ。
一人関心しつつ見上げた空は、今日も青かった。冬が近い。
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