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宇宙について最近学んだこと

「なぜ宇宙は存在するのか」を読んだ

野村泰紀著「なぜ宇宙は存在するのか〜はじめての現代宇宙論」講談社ブルーバックス を読んだ。レビューというより、読んだことの覚書きとして書いておく(なので正確性は保証できない)。

科学は「どのようにして」を追求するもので、「なぜ」に答えるものは哲学や宗教では・・・と思ったが、実際の本書の内容は「どのようにして宇宙が始まって今に至っているのか」について、最近100年の宇宙論を紹介しているもの。なのでやはり「どのようにして」という科学の本である。このタイトルの方が手に取ってもらいやすいという、至って現実的な理由からだろう。

とにかく、「宇宙論」はこの宇宙の過去、現在、未来について総括的に考えるもので、そこには相対論、素粒子論、量子論、超ひも理論、マルチバース理論などが関係してくる(後に行くほど「わけわからん度」が高い)

ブルーバックスを読んでいるという時点で、僕が専門家ではなく「理系で、宇宙に興味がある」くらいのシロウトだというのはわかってもらえるだろうが、この本を読んで(なんとなく)わかったことがいくつかあって、非常に面白かった。

インフレーション

「インフレーション」は宇宙誕生のごく初期に起きた急激な膨張のことだが、これは僕はてっきりビッグバンの後に起きたものだと思っていた。昭和の生まれなので、宇宙の始まりといえばビッグバンというのが常識である。

ところが、どうもそうではないらしい。

インフレーションはビッグバンに先立って起きており、ビッグバンの原因になった現象だそうだ。つまり、ビッグバンは「超超高温高密度な1点から爆発的に宇宙が始まった」というものだが、なぜそんな「超超高温高密度な1点が存在したか」ということについては、それ以上探れないものだと思っていた。

インフレーションについて本書から理解したことは、この宇宙は、まず最初にインフレーションによって宇宙が急激に膨張し、ある状態に達してそのスピードががくんと落ちた時、ビッグバンが生じたということのようだ。これは新幹線が急ブレーキをかけたように(とイメージしているのだが)、膨張の運動エネルギーが膨大な熱エネルギーに変換され、その結果ビッグバンの種となる超超高温高密度が生じた、ということだ。

ほほう・・

そうなると当然、どうしてそのインフレーションは起きたのか、ということになるわけだが、そこでマルチバースの登場だ。

マルチバース

僕らの住むこの宇宙が「1つの」宇宙(ユニバース)であって、他にも無限と言えるほどの宇宙が泡のように生まれては消えている、これがマルチバース。

ほとんどSFだが、物理的な理論としては成り立っているというのでびっくり。なんでも、この「僕らの宇宙」を観測すると、宇宙に存在するエネルギーの総量が、100桁オーダーで計算結果と観測結果が違ってしまうという。これでは物理として説明がつかない。そこで、宇宙が100桁くらいたくさんあると考えると、計算と観測が合うという。石鹸の泡の一つ一つが宇宙で、それがブクブク生じては消えていくらしい。

そりゃ計算としてはそうなんだろうけど・・・どうしたらそんなにたくさんの泡宇宙が存在するなんて考えられるの?

宇宙は10次元

無数の泡宇宙がどうやってあり得るのかというと、宇宙は10次元あることで解決するんだそうだ。

なんと!!

「宇宙が10次元」という話は小説「三体」でも出てきた気がするが、完全にSFの話だと思っていた。人間が頭で認識できるのは4次元(空間3次元+時間1次元)だ。だから本書で10次元なんて出てきた日には、「物理で10次元って何よ?」「数学ならともかく、物理は実際のこの世の事象を記述するものなのに、そこまでSFでいいの?」「時間の外の次元て何よ?」と途方に暮れてしまった。

しかし本書で解説しているのは、素粒子が内部に6次元構造を持っているということだった。どういうことかというと、例えば3次元構造の物質でも、十分離れた距離から見るとただの点、つまり1次元に「見える」。逆に言えば、ただの点に「見えても」、十分に拡大すればその中に複雑な構造が見えると考えてもよい。素粒子という、この世の中の最も小さいものにも、人に見えないだけで、その中に構造がある。素粒子の中に3次元宇宙があって、その中のさらに素粒子にあたるものがもう一回り、3次元宇宙になっている。それが6次元ということだ。

ほほうー 面白い。時間の外にではなくて、素粒子の中に次元を持つのか。そういうことなら10次元でも許してやろう、という気になる。

人間原理

次元を持っているということは、次元ごとに別の座標を取れるということ(何が?わからん)。で、この宇宙では素粒子の中の構造は「たまたま」ある座標をとっている(何が?わからん)。この座標は様々な物理定数、光速とか、プランク定数とかの元となっている。他のそれぞれの泡宇宙ではまた別の座標をとっているので、違う光速とかプランク定数になる。そんないろんなバリエーションの宇宙が数限りなく存在する。

その中で、「たまたま」星や生命がするのに適した定数を持つこの宇宙が100桁に1つあって、そこに定数の必然として星や生命が生まれ、こうして自分たちの宇宙を観測しているというわけだ。生命が誕生するのに適した条件の宇宙で、生命が自分たちの宇宙を観測したら、観測したのは生命が誕生するのに適した宇宙だったということだ。

「なぜ宇宙はこんなに人間が存在するのに都合よくできているのか」を説明する原理を「人間原理」というが、この問いに対して本書で説明されているのは、こういう立場だ。

最先端で観測しているもの

で、結局そうだとしても、僕らの宇宙はそれで閉じちゃっているわけだから、隣の宇宙のことなんてわからないじゃん?じゃあ証明しようがないのでこれは永遠の謎。

・・と思いきや、これだけ密に宇宙同士が接触しているなら、隣の宇宙との相互作用が僕らの宇宙に影響を与えていることは十分考えられる(泡の形が歪むとか?)。つまり僕らの宇宙の中でその名残が観測できれば、隣に宇宙があることが証明できる。それを観測しようとしているのが現在の最先端だそう。

じゃあそれは何?というと、宇宙の曲率なんだって。三角形の内角の和は180度なんだけど、三角形が歪んでいれば180度より大きくなったり小さくなったりする。宇宙スケールのこの歪みを観測するには、それなりに宇宙サイズの三角形を見立てなければならない。そこで宇宙背景放射の中で三角形を作って内角の和を調べている。宇宙背景放射とは、宇宙が始まったときの名残。

・・・降参です。
なんかね、例えていえば、泳いでいたらクジラみたいなものに遭遇したけど、デカすぎて把握しきれない、みたいな感じだな。

とにかくこうして、SFだと思っていたものが、一つの物理的・合理的な理論であることが分かった。「すごいのに出会っちゃったぜ、あれはクジラだな」という、とてもお得な気分だ。ブルーバックス良きかな。