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UXはデザインなのか

こんにちわINVITROの小蔵です。

UXはデザイン?

UXデザインという言葉は困難な定義上の問題を孕んでいて、本当に「UX」をデザインできているのかを測るのが難しいという課題があります。モノの形や機能をデザインするのはわかりやすいですが、コトのデザイン、しかも個人の体験をデザインするとなると良し悪しの判断が難しそうな雰囲気が立ち込めてきますよね。
しかし端的に言えばUXはデザインですで良いと思われます。

UXのデザインは作るものが体験なので、どのユーザーがどのメディアを通してどういった体験をするかを時系列で設計する情報設計が作業の大部分を占めます。UIやポスターなどをデザインする際にもUIの目的やアクションの優先度、ポスターのメッセージやメインビジュアルに含まれる雰囲気(視覚的コンテクスト)などは情報設計なしには表現できないと言えますよね。
明文化されていないだけで、どの分野にも調査・情報設計のフェーズが存在しており、UXも同じように、UX調査の段階とUXデザインの段階が存在します。
調査ー情報設計(IA)ーデザインー実施このすべてのフェーズを通してUXをデザインできたといえるでしょう。


個人的な体験は取り出すことができるのか?

通常のデザインは何らかの媒体を必要に応じて設計し、スタイリングを整えたり、使い勝手のために形状や色を変更する等のモノベースのアウトプットですが、UXではある時系列で個人が製品やサービスから得た体験を統合した結果生じるエモーション=表象※がデザインの対象となります。

※表象は認知科学に親しい哲学の流れで出てくる用語で、個々人の体験する主観的な「感じ」のことでこれはどうやっても他人にそのまま受け渡すことができないという特徴を持っています。有名な言葉だと「クオリア」という言葉が最も近いかなと思います。

個人的な意見となりますが、まるでUXをデザインするとある体験がそのデザインの結果として取り出せるような(もちろん本気でそう思っている人は少ない気はします)暗黙的な前提を生み出してしまいそうである、という懸念を感じています。

アフォーダンスという認知科学者が使っていた概念を間違った形でデザインに取り込んでしまった歴史があり、なんとなくそれににているのかなという趣があります。(アフォーダンスはデザイナーが期待している「デザイナーがデザインしたとおりに」ユーザー行動を引き起こす特定の記号として誤用されてしまいました。本当はもっと広い概念で、人や動物が環境から受け取る刺激に対して起こしうる行動のチャンス一覧みたいな概念です)

このように、原因と結果が一致しないけどなんらかの結果をランダムに引き起こしうる要因のことを「引き金要因」と言います。UXもそのような引き金の連続によって個人の主観世界にたちあらわれる表象の可能性についてアプローチする技術であると言えます。
このことが(Webや周囲のUX関連の人の話を見聞する限り)一般的にはだいぶ分かりにくいのかなという印象を持っています。


UXは個人の体験にフォーカスしているのか

本文の上のほうで便宜的に個人の体験をデザインすると書いていますが、ある特定のユーザーの主観的な体験である“表象の総体”にフォーカスすべきかと言うと、そうではなく(UXインタヴューではまさに、この個別の体験と事実類から洞察を得る作業ですが、複数人から得られた情報を綜合する必要があります)製品開発である以上はあるターゲットの範疇におさまる効果を体験として提供できる枠組みにフォーカスすべきでしょう。(個人的なサプライズを検討すると行った場合には個人対象で良いと思います)


UI/UXデザインという併記の危うさ

UIデザインはある画面シーケンスのユーザーゴールに応じたユーザーインターフェースを最適に提供する、更には使い勝手やレイアウトの法則を統一的に設計する技術です。
ソフトウェアの要素単位(インプットやボタン等のコントロール要素、カラー、選択状態 ディセーブル状態などのステートメント)の意味と表現を定義し継続的な開発やユーザーニーズに答えながら制御していきます。(ブランド戦略やターゲット層とのコミュニケーションの為にスタイリングで特徴付を行う作業も役割として大きいですが割愛します)

一方UXは先述の表象の総体、顧客体験がどのようであれば顧客にとって良いのか、ブランドエクイティ(ブランドが持つ知名度やイメージ、信頼性などの無形の価値)となってビジネス的に実りの大きい価値提供となるかを調査立案するような作業プロセスです。したがってUIとUXは全く別のデザイン技術領域であると言えます。
UXはソフトウェアデザイン領域に止まらない、サービスの包括的な戦略策定とリサーチのプログラムであり、UIデザインはその一部を実装するための手段であると言えます。
ソフトウェアが中心となるサービスの場合、UXを実現する手段、文字通りインターフェースとしてUIを位置づけるのが妥当でしょう。
UI/UXを併記する事自体は問題ないですが、両者の範疇をよく理解した上で運用したほうが良いでしょう。特に両者ともまともな専門領域ですので、習得度に関係なく都合よく切り替えて使う場合、誤った顧客期待値とミスマッチなアウトプットによって業界水準に問題が出るのかなという所感です。


とはいえUX-IA-UIは連動していないと価値が発揮できない

前述の項は定義上の難しさと業界で流布しているイメージと実質のギャップのお話でした。
さらにUXの価値を発揮するためにはIA(Information Architecture)との連動の課題があります。
広義のIAは言語学のセマンティクス(意味論)を含む学術的な分野ですが、ここではソフトウェアやビジネス文書、デザインなどで扱うコンセプトや仕様、画面の情報などをある切り口で構造化する作業に限定してIA(Information Achitecuture)と呼びます。

筆者が過去にUX系の方法論を学習するワークショップを行った際に、企業内部のUX系のマネージャーの方からUIデザイナーがUXをUIにできない(UIをUX化できない?)という相談をうけたことがありました。
軽くヒアリングすると、UIデザインに必要な形にUXリサーチなり戦略のアウトプット形式がなっておらずまた、UXのアウトプットをメンバーに伝達する丁寧なウォークスルーがなされなかったナレッジマネジメント上の問題と、UX戦略に基づいたIAプロセスの欠如であると推測できました。
チームの中で、UXの調査から得られた中間成果物類を適切な形で受渡せていない例は見聞する限りではかなりあり、補完能力の高いデザイナーが属人的に画面設計を行うためのIAを同時にこなすなど場当たり的になっているようです。

個人的な見解では、すべてデザイナーがIAを行い最終的に生み出したい効果に対する根拠と優先順位を理解した上でUIの設計、スタイリングを行うことが望ましいと考えています。


IAとユーザーゴール

IAは基本的にロジックツリーの構造を持っており、マーケティングのセグメンテーションなどであるグループを切り分けるための切り口が重要であるのと同じように、ロジックツリーもどのような視点でグルーピングを行うかが重要となります。UXにとって重要な情報グルーピングの単位はユーザーゴールであると言えます。
ユーザーゴールはあるタッチポイント内(アプリの場合は画面)でユーザー(の大多数)が一番優先度高く行いたいことです。だいたいのユーザーゴールは複数の小さなユーザーゴールの積み重ねで達成することとなり、小さなユーザーゴールの塊をEpic※と呼んだりします。往々にしてUXで定義しているユーザーゴールは大まかなためブレイクダウンしていく必要があります。それではLineなどのコミュニケーションツールを例に見ていきましょう。

Lineアプリの主たるUXは「エモーショナルなコミュニケーションで楽しくなる」であると定義してみます。UX自体が大きなゴールなので、小さなゴールにブレイクダウンしていく必要があります。

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エモーショナルなコミュニケーションで楽しくなる
   -テキストでメッセージを書く
   -返信を受け取る
   -エモートや絵文字で表現する
   -写真で思い出を共有する
繰り返すことで相手やグループとの関係が醸成され楽しくなる

一段粒度の細かいユーザーゴールが得られました。
更にユーザーゴールを実施する際に必要なActionとinformationに分けて記述してみましょう

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-テキストでメッセージを書く
-Action
 -タイピングして文章を作成する
   -タイピングする
   -キーボードを切り替える
   -文字を消す
   -文字を変換する
   -改行する
 -送信する
-Information 
 -プレースホルダー
 -変換候補
 -入力文字列
 -入力位置
 -キーボード
 -これまでの会話内容

こういった具合に、ゴールのために必要な行動と情報をブレイクダウンし、優先順位をつけていくことで画面設計を行うわけです。

ユーザーゴールの考え方は、スクラムのワークショップ、ユーザーストーリーマッピングを参考にすると良いでしょう。UX調査をすっとばしてLEANに実施される印象ですがそのまま開発単位であるプロダクトバックログやリリース粒度の目安を同時に作成できるので効率的です。
UX戦略をベースにしたユーザーストーリーマッピングをサービス全体へ広げ、Epic-Storyと呼ばれるサービスデザイン上のワークフローを洗い出すことも可能となります。
一度の情報設計によってビジネスの意思決定ーUXーUIー開発ーテストーデリバリーという一連の流れを網羅できるためスマートに運用できると理想的だと思います。

話がそれましたが、UXをデザインする際に、IAをアウトプットとしそのアウトプットを受け取るロールの人がどの粒度であれば次のタスクを行うことができるのかをプロジェクトで明示化することが肝要となります。


まとめ

UXはデザイン領域だが、IAとして定義することで次のプロセスに引き渡すことができる

UXは定義が難しく、他の概念と混同する例が散見されるので、しっかりとスコープを捉えておく

UXとUIは別の領域だがデジタルプロダクトのデザインではIAを通して連動することが必須である

より良いユーザー体験でビジネスを達成できるかどうかという点を訓練するにはだいぶ大掛かりなしくみが必要になりそうです。次回は身近な方法でUXデザインのトライアル方法について書こうかなと思います。

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