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MINDSCAPES TOKYO

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マインドスケープス(Mindscapes)は、アート・文化的な視点と実践から、ウェルカム・トラストが掲げる3つの健康課題の1つ「メンタルヘルス」に関する理解や対処、議論を根本的に… もっと読む
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【アーティスト・イン・レジデンス報告書】クリスティン・ウォン・ヤップ@大きな台所と診療所のあるところ ほっちのロッヂ

こころのウェルビーイング、帰属・つながり(belonging)、レジリエンスを探求してきたアーティスト/社会実践家(social practitioner)のクリスティン・ウォン・ヤップは、マインドスケープスを開催する各都市(ニューヨーク、ベルリン、ベンガルール、東京)を訪れ、「つながり」や「よろこび」をテーマにしたワークショップを行いました。 滞在期間:2022年9月11日〜18日 受入先:大きな台所と診療所のあるところ ほっちのロッヂ(長野県北佐久郡軽井沢町) ウォン

「雑感」を記す —コンビーニングに参加して/ウェルビーイングを生成する時間

ドミニク・チェン(情報学研究者・起業家) 撮影:冨田了平 2022年の夏からconveningの枠組みの中で、アーティスト、編集者、キュレーター、プロデューサー、研究者、法律家や社会活動家といった多様なメンバーと一緒に、森美術館の企画展や福島県富岡町の被災地復興の現場を巡ってきました。ここでは「ミュージアムやアートプロジェクトがメンタルヘルスクリニックになりえるのか」というconveningが掲げる問いについて、現時点での自分なりの考えを、専門とする情報技術の観点を交えなが

「雑感」を記す —コンビーニングに参加して/メンタルヘルスについて考える/生きて在ることについて考える

篠原 史生(看護師・日本学術振興会特別研究員) 撮影:冨田了平 他者との関係としての私と「こころ」 メンタルヘルスとは何か? メンタルヘルスクリニックとは? その言葉で、私/わたしたちは何について語ろうとしているのか? コンビーニングのテーマ「ミュージアムやアートプロジェクトは、メンタルヘルスクリニックになりえるのか?」について考えはじめると、そんな疑問が浮かんできます。コンビーニングの最初にわたしたち参加者へ投げかけられたのが、「あなたにとってメンタルヘルスとは?」と

「雑感」を記す —コンビーニングに参加して/失った原風景を紡ぎ直すアートとストーリーテリング

よしおか ゆうみ(思春期相談員・家族カウンセラー) 撮影:冨田了平 行き場のない喪失感 中学3年生の秋、わたしは父の転勤で茨城から東京に引っ越した。友達との別れ、幼い頃から親しんできた海や馴染み深い街並を離れる際のえも言われぬ寂しさ。そして新しい都会の学校や都会の景色への戸惑いと不快感。しばらく喪失感が拭えない不安定な心のまま新しい日常に慣れようと必死だったと思う。それでも「いつでも温かく迎えてくれる故郷の人や友達」「自然の中で心楽しく過ごした原風景」の存在は、心の中に温

「雑感」を記す —コンビーニングに参加して/診療所的

飯山 由貴(美術作家) 撮影:冨田了平 《会話》 2022年12月10日、関西の精神病院で数十年看護助手をしている女性の話を聞く機会があった。彼女は自分の勤務時間外に入院患者を対象にした造形表現の制作活動の時間を主催し、現在も継続している。下記はその際の書き起こしの一部だ。Mは看護助手の女性、Yは筆者である。 M:私がいる病院なんかは、やっぱり…私はいつも思うんですけれどね。 権力的に、患者さんはすごく弱いんです。そこの自覚がないと、私のやっていることも、クラフトの時

「雑感」を記す —コンビーニングに参加して/ミュージアムやアートプロジェクトがメンタルヘルスクリニックになりえるのか

菊池 綾子(精神保健福祉士) 撮影:冨田了平 精神疾患を抱えている人の多くは、定期的に精神科やクリニックに通院し、服薬をしながら生活をしている。クリニックでは、診断を下し、症状を抑えるための薬を処方する。当たり前のことだが、クリニックは基本的に「治療」をする。ミュージアムやアートプロジェクトは、鑑賞する人の心理的状況にかかわらず、「何らかのエネルギーが伝わってほしい」という信念の下にコンテンツを提供している。極端なことを言えば、作品によっては、メンタル不調者の症状を悪化させ

「雑感」を記す —コンビーニングに参加して/現代美術館はメンタルヘルスクリニックになり得るか?

白木 栄世(森美術館アソシエイト・ラーニング・キュレーター) 撮影:冨田了平 2020年4月に発令された緊急事態宣言にともなう5カ月間の森美術館の閉館は、当たり前のようにそこにあった「アートを見る場」を、観客から、そして働く美術館スタッフからその機会を奪った。美術館はアート作品がそこにあるだけではない。美術館は社会教育機関として、社会のなかでその役割を担い、美術館を訪れる人たちの身体的にも、精神的にも大きな影響を与え、その役割を果たしてきた。インターネットを駆使してデジタル

アーティストと高校生が「映像」「建築」「食」を通じてメンタルヘルスに取り組む「UI都市調査プロジェクト」

取材・文:白坂由里(アートライター) 都市における「メンタルヘルス」のあり方について、アーティストと高校生を中心としたユースが、クリエイティブな視点で調査・共創する「UI都市調査プロジェクト」。初の試みとなる今回は、上野千蔵(撮影監督・映像作家)が「映像」チーム、林敬庸(大工・建築家)が「日本建築」チーム、yoyo.(料理人)が「食」チームのリード調査員となり、各チーム6〜8名のユース調査員とともに、対話を重視した体験型の学びに取り組んだ。併せて、美術家・映像ディレクターの

思春期のメンタルヘルスとUI都市調査プロジェクト カウンセラー、よしおかゆうみインタビュー

取材・文:白坂由里(アートライター) 高校生を中心としたユースが調査員となり、3人のアーティストをリード調査員として、都市における「メンタルヘルス」のあり方をクリエイティブな視点で調査・共創した「UI都市調査プロジェクト」(以下、UIプロジェクト)。2022年夏から約半年にわたり、その主な拠点としてメンバーが集っていたのは、東京都荒川区東日暮里にある「東京ガレージ」だ。「東京ガレージ」とは、家族や思春期を対象とするカウンセラーのよしおかゆうみさんが、教育・心理、アートの専門

UI都市調査プロジェクトは何を生み出したのか「MINDSCAPES TOKYO WEEK」レポート

取材・文:白坂由里(アートライター) 2023年2月20日〜28日、「YAU STUDIO」*で「MINDSCAPES TOKYO WEEK ―アートと文化的な視点から考えるメンタルヘルスとは?―」が開催された。都市における「メンタルヘルス」のあり方について、アーティストと高校生中心のユースがクリエイティブな視点で調査・共創してきた「UI都市調査プロジェクト」(以下、UIプロジェクト)。2022年夏から約半年にわたり、アーティストがリード調査員となり、各チーム6〜8名のユー

メンタルヘルスとアートの関わりをめぐるプロジェクト「マインドスケープス東京」を振り返って

取材・文:杉原環樹(ライター、インタビュアー) 2022年に活動をスタートした「マインドスケープス東京」は、2つのプロジェクト「UI都市調査プロジェクト」と「コンビーニング」を軸に、様々なバックグラウンドを持つ人々が参加し、メンタルヘルスについて対話を重ね、そのあり方について議論を深めてきた。その集大成として、2023年2月には「MINDSCAPES TOKYO WEEK」と題したイベントを開催。文化芸術の視点から考えるメンタルヘルスとは?――マインドスケープス東京の活動を