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ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第28章

第28章 評論家15人中14人が巨人の優勝を予想した2010年、だが落合は……

 落合の監督としての力が最も発揮できた年を聞かれたら、私は、2010年を挙げる。他の年には、様々な外部要因があって、大きな騒ぎで野球どころではなくなるような出来事も多かった。

 2004年は、ストライキ。2005年は、交流戦創設。2006年は、WBC。2007年は、クライマックスシリーズ導入。2008年は、北京五輪。2009年は、WBC。2011年は、東日本大震災。

 しかし、2010年は、無風だった。制度が大きく変わるでもなく、五輪やWBCがあるわけでもなく、ストライキや大震災もなかった。

 すべての球団が平等にペナントレースに集中できる環境が整っていた。

 戦力の図式は、2009年までと変わらない。大型補強で得た膨大な戦力を保持する巨人や阪神。

 自前の戦力と安価な補強でそれに対抗する4球団。

 2009年は、巨人が圧倒的な強さで日本一に登り詰めたこともあって、2010年に対する世間の見方は、巨人が他の5球団を圧倒してセリーグ4連覇だった。

 2010年のシーズン前、プロ野球ニュースでは解説者15人が順位予想をした。

当たり前のように15人中14人が巨人の優勝を予想。谷沢健一が1人だけ中日の優勝を予想した。谷沢は、中日OBであり、2004年から落合をインタビューをしており、落合の実力を認めていたようだ。

 逆に、中日OBでスター選手だった田尾安志が中日を3位予想にしているのも面白い。田尾は、かつて選手会でFA制度導入を進めた際、落合が協力しなかったくせに、FA制度導入後、真っ先にFA宣言して移籍したのを快く思っていなかったからだ。

 プロ野球を代表する評論家が予想したとおり、2007年から3連覇中の巨人の戦力は、圧倒的だった。

 2010年を迎える巨人に不安があったと言うならば、わずかに原監督が優勝手記で見せた有頂天なうぬぼれくらいである。

 とはいえ、少なくとも2010年は、巨人が優勝するだろう。私も、そう高を括っていた。

 2010年のシーズン前、落合は、巨人圧勝の前評判の中、リーグ優勝奪還だけを目標に掲げた。クライマックスシリーズも、日本シリーズも捨てる。ペナントレースに全精力を注いで燃え尽きる。

 すべては、リーグ優勝のためだけに。

 そんな強い決意がにじみ出ていた。

 しかし、中日は、これといった補強をしたわけでもなかった。新人以外では、ソフトバンクで鳴かず飛ばずとなった三瀬幸司を獲得し、ドミニカから未知数のセサルとバルデスを安価で獲得したにとどまった。セサルは、抜けた李炳圭の穴埋め、バルデスと三瀬は、抜けたパヤノの穴埋めである。

 巨人は、大リーガーのエドガー、小林雅英を獲得し、シーズン途中には楽天の朝井秀樹も補強してさらなる強化を図った。さすがに2009年に万全の戦力を保持しただけに、例年に比べると補強は小さかった。なぜなら、巨人は、育成選手を大量保有しての補強方針へ転換しようとしていた。

 一方、阪神は、大リーガーの城島健司、マートン、メッセンジャー、フォッサッムを獲得、それ以外にも、元ソフトバンクの投手だったスタンリッジと、海外から大型補強をしてきた。

 戦力を見る限り、中日が巨人や阪神に勝てる見込みはなかった。

 しかし、落合は、就任7年目にして初めてヘッドコーチを新設した。そして、その任に森繁和を指名。
 総合コーチも新設し、辻発彦を指名した。
 さらには、2軍監督に川相昌弘を指名する。

 常勝西武と巨人で選手として経験を重ね、コーチとしても確かな手腕を発揮する3人を重要なポストに据えた落合。

 彼らが育成・指導した選手たちが確かな実力を発揮するようになってきた中日。

 とはいえ、柔よく剛を制す野球がここから2年間見られるとは、私も、このときは予想だにしなかった……。


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