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闘う全ての人へ ~宇海「ファイト!」(原曲:中島みゆき)カバー~

名曲は、歌い継がれ、何度も生まれ変わる。

そう思わざるを得ない歌を聴いた。

宇海さんがカバーする「ファイト!」である。

「ファイト!」と言えば、中島みゆきさんが1983年に発表したアルバム『予感』の1曲。
1994年に「空と君のあいだに」とともに両A面シングルとして収録となり、ミリオンセラーになって世間に広く浸透した。

この歌は、J-POPの中ではかなり特殊だ。
何せ1番から4番まである。

そして、登場人物が多い。
中卒のせいで、まともに仕事をさせてもらえない女の子。
体罰を受ける少年。
子供を階段から突き落とした女を傍観した女。
田舎の町を捨てきれず上京をあきらめた若者。
男の思うままにされ続けて、男に生まれたかった女。

そして、そんな不条理や自己嫌悪に苦悩する人々と対比するように描く、傷つきながらも川を必死にのぼり続ける魚。

それらすべてを包み込むように、励まし、鼓舞する主人公。

苦悩する人々は、中島みゆきさんがDJを務めたラジオ番組オールナイトニッポンに寄せられた数々の手紙がモチーフになっているそうだ。

数々の手紙を1人で受け止め続けてきた中島みゆきさんにとって、手紙を書いてくる人々は、傷つきながら川をのぼり続ける魚と重なっていたのだろう。

人生を前に進めるためには、逆流の中を闘いながら、傷つきながら、のぼり続けなければならない。諦めずに。

サビで人々を鼓舞する主人公は、中島みゆきさん自身なのだと思う。
中島みゆきさんは、物語のような作品を多数制作していて、自らとはかけ離れた主人公を描いたりすることも多いが、この作品の主人公には、等身大の中島みゆきさんが浮かび上がる。

「闘う君の唄」と歌うところに、あの中島みゆきさんですら、駆け出しの頃は、唄を笑われてきたんだ、という光景が垣間見える。

報われない時期を諦めずに、必死に前進し続けよう。勝敗は、どうなるか分からないけど、闘う姿は美しい。

応援歌と呼ぶのが陳腐になるほど、この楽曲に込められた想いは熱い。

そんな楽曲を宇海さんは、澤近泰輔さんのピアノ演奏をバックに、情熱的に歌い上げる。

きっと宇海さんも、これまで報われない時期を長く過ごしてきたのだろう。
だからこそ、ここまで楽曲に込められた想いを的確に表現できる。

苦悩する人々を極めて繊細に表現し、サビではそういった人々を温かく、そして、力強く鼓舞していく。

特に、ラストのサビの絶唱は、圧巻だ。メロディーをさらに高揚させ、すさまじい声量で想いを伝える。太さと芯を備えたロングトーンは、まさに心の叫びだ。

聴き終わった後は、まるでミュージカル女優の完璧な演技を観たかのような感覚だった。

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