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ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第45章

 キャンプ初日紅白戦の意図は、選手を見極めるためではなかった

ここのところ、『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(鈴木忠平著)に出てくる落合発言の所感を記してきた。

これまで明らかにされてこなかった落合の真意が多く語られていて、いくつもの驚きがあった。

今回、その最後として、監督退任前に落合がホテルの食事会場で荒木雅博に語った言葉を取り上げたい。

「俺が監督になったとき、キャンプ初日に紅白戦をやるって言ったよな?あれ、何でだかわかるか?」(中略)
 選手を見極めるためではないだろうか。
 荒木はそう考えていた。(中略)
 八年前の謎を持ち出した落合は、グラスを片手にこう言った。
「お前、あのとき、紅白戦の日まで何をしていた?」
 にやりとした笑みを浮かべていた。
「ひとりで考えて練習しなかったか?誰も教えてくれない時期に、どうやったらいきなり試合のできる身体をつくれるのか。今までで一番考えて練習しなかったか?」

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(鈴木忠平著)

落合が選手に求めたのは、試合のできる身体を作る練習メニューを自分自身で考えることだった。

現役時代、自ら様々な練習方法を生み出し、自分の体に最も適合した調整を行って、結果を残し続けた落合。

監督やコーチが課した練習メニューを言われたとおりにこなすだけの選手では大成しない。これだけは誰にも負けないと胸を張れる能力を身に着けることもできない。

それを身をもって知っていたからこそ、落合は、選手たちに自らの頭を使って考え続ける主体性を植え付けようとしたのだ。
選手たちが厳しいプロの世界で生き残っていくために必要な知恵。それを自分自身で生み出せ、と。

もはや、落合にとって、キャンプ初日の紅白戦で出る成績は、二の次だったに違いない。

落合は、何も教えない期間でありながら、選手たちに自ら考えることの重要性を教えていたのだ。

選手個人による決断、実行、継続ができるプロフェッショナルな集団。
落合がキャンプ初日の紅白戦から植え付けた、選手自身の考える力は、その後8年間かけて熟成していき、中日は、どんどん隙のない玄人集団へと変貌していく。

最後に球団史上初のリーグ2連覇を果たしたのは、もはや必然だったと言えるだろう。

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