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ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第46章

荒木の8年間の奮闘を救った落合の言葉

落合博満が監督8年間を総括して、野手の中で最も高く評価していたのが荒木雅博だ。

打者としてなら荒木より優れた選手は、数多くいる。
1番打者としての働きは素晴らしいが、早打ちやポップフライの多さを批判されることも少なくなかった。

2010年には二塁手から遊撃手にコンバートされ、広い守備範囲を生かしたプレーを見せてはいたものの、肩の不調に悩まされ、エラーが増えていた。

なのに、なぜ?

落合が2010年のオフに『サンデードラゴンズ』若狭アナのインタビューで語った内容がそのすべてを語っていると言っても過言ではない。

落合「7年間で1人しか規定打席達した奴いないからね」
若狭「荒木だけですか・・・」
落合「そうだよ。だからもっと評価しなさい。周りは。
 とりあえず出続けたのは、あいつ1人だからね」
若狭「そうですねぇ・・・」
落合「この世界っていうのは、出続けてる奴やゲーム出てる奴はやいのやいの言われるの。
 それ、本当は逆。
 ファームで遊んでいる奴がやいのやいの言われなきゃいけないの。
 出てる奴は頑張ってるんだもん。考え方変えないといけない。
 最前線にいる奴はしっかり仕事してるんだよ、それなりに。
 後方で待機している奴がぬるま湯状態だったらこの世界は駄目になる。
 考え方変えないと駄目だ」                 

CBC『サンデードラゴンズ』インタビュー

荒木は、このインタビュー時、落合監督の下で7年間連続規定打席に到達しており、翌年も規定打席に到達して、落合監督の8年間すべてで規定打席に到達した唯一の選手となった。

日本には『無事是名馬(ぶじこれめいば)』という格言がある。
「故障をせずに、いつも無事に走る馬こそ名馬」という意味だ。

落合は、荒木が8年間ずっと無事に出場し続けたことと共に、すばらしい脚の動きがずっと8年間変わらなかったことを称賛している。

荒木が2010年から遊撃手にコンバートされて、エラーの数が増えながらも中日が2年連続リーグ優勝したのは、荒木の脚力がエラーをカバーして余りある働きをしたからだろう。

そして、8年間で積み重ねた安打は1217安打。1年あたり152安打だ。
盗塁数は、8年間で249盗塁。1年あたり31盗塁である。

荒木は、二塁手、遊撃手という激務の守備位置を圧倒的な守備範囲でこなしながら、主に1番打者として1年平均152安打、31盗塁という高いレベルの成績を残し続けたのだ。

こうして、数字を分析すれば、落合が荒木だけをなぜここまで高評価したかが理解できる。

私は、要領良く生きるタイプではないので、会社ではいろんな仕事を押し付けられて、ときに激務に悩まされる。

働く気力が衰えた50代やなかなか成長してくれない30代以下に挟まれ、40代半ばを過ぎても、顧客対応の最前線で奮闘してへとへとになる毎日だ。
しかも、それが報われているとは言いがたい境遇である。

そんなとき、私の心の拠り所となっているのは、上記のインタビューで語った落合の言葉だ。

『考え方変えないといけない。最前線にいる奴はしっかり仕事してるんだよ』

荒木の8年間の奮闘を救ったこの言葉は、今の私をも救ってくれている。

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