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ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第30章

第30章 落合の計算通りのリーグ優勝~2010年~

 7月1日に首位巨人に8ゲーム差つけられ、貯金0の3位に沈んでいた中日。
 世間では巨人のセリーグ4連覇で決まり、といった雰囲気が漂っていた。

 しかし、そこから中日の追い上げは、見事だった。
 7月9日からの巨人戦3連勝。7月16日の広島戦からは5試合連続無失点勝利を含む7連勝。

 相変わらず、巨人と阪神が中日の上にはいた。だが、この2チームは、首位を争いながら、投手陣を酷使して徐々に疲弊の色が濃くなってきていた。

 個々人の才能と実力は、巨人や阪神の方が圧倒的ではある。しかし、中日は、投手や野手を適材適所で起用し、しかも、無理をして目先の1勝にこだわることは避けていた。
 落合がシーズンをトータルで考え、シーズン後半に力を発揮できるよう、疲労の蓄積を避けていたからである。まさに、我慢の采配だ。

 そして、落合は、質量ともに圧倒的に豊富な中日キャンプによって、他球団の選手よりシーズンを乗り切る体力をつけるようにしていた。
 その成果が表れたのは、シーズン後半戦である。

 中日は、しっかり腰を据えて戦えるよう、先発ローテーションを固定する。
 チェン、山井大介、ネルソン、吉見一起、山本昌、中田賢一。
 6人とも完投能力があって、勝てる投手を揃えたのである。

 しかも、7回には高橋聡文、8回には浅尾拓也、9回には岩瀬仁紀と、ほぼ確実に抑えられるリリーフが揃っていた。

 それだけの投手陣が揃った上に、森野将彦、和田一浩、ブランコといった中軸選手たちが安定した成績を残していた。

 盤石の投手陣で接戦に強い中日は、8月12日から再び7連勝で浮上していく。
 8月は、目先の優勝争いにこだわりを見せた巨人と阪神が粘りを見せ、混戦となった。
 8月末時点で1位阪神、2位が1ゲーム差で巨人、3位が2位と1.5ゲーム差で中日という混戦は続いた。とはいえ、中日は、8月17日からの巨人戦でまたしてもチェン・山井・吉見の3人で3タテを記録していた。

 もはや中日が首位に立つ日が近いのは明らかだった。私も、さすがにこの頃には中日のリーグ優勝を確信した。

 疲れの見える巨人、阪神を尻目に、中日は、8月31日から6連勝、1つ負けを挟んで9月8日から6連勝を記録して、一気に巨人、阪神を抜き去ることになる。

 シーズン前やシーズン序盤から見れば、まったく予想外の展開ではあった。
 だが、接戦になったことで、巨人や阪神の巨大戦力を、中日の体力と戦略が凌駕したのだ。

 3つ巴の接戦は、中日にとって理想的な展開でもあった。落合の我慢強い采配が勝負の9月に生きてくるからだ。まさに、落合の計算通りのシーズンとなった。

 9月3日からの巨人3連戦で、中日は、吉見・山本昌・中田を先発に立てた。
 エース吉見と、調子を上げてきたベテラン山本昌と中堅中田が期待に応えて3度目の巨人戦3タテに成功する。これで2位に上がった中日は、9月10日の横浜戦に勝ち、阪神を抜いて首位に浮上する。

 そうなると、もはや中日が首位の座を明け渡すことはなかった。9月末には2位阪神に2.5ゲーム差をつけて、10月1日には2位阪神が敗れたことにより、4年ぶりのリーグ優勝を決める。

 驚くべきことに、シーズン79勝という優勝ラインは、落合と森が想定していた優勝ラインとぴったりと一致していたという。打率はリーグ5位ながら、防御率は、他チームを圧倒して1位。
 広く守りやすいナゴヤドームを中心とするホームゲームで53勝18敗1分と圧倒的な強さを誇った。

 まさに落合が目指していた投手を中心とした守りのチームで勝ち取ったリーグ優勝だった。

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