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ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第48章

荒木・井端のコンバートの真意は、ヒットを防ぐためではなかった

落合野球の象徴とも言える荒木・井端のアライバコンビ。
二塁手荒木、遊撃手井端だった守備位置を落合は、2010年~2011年の2年間入れ替えた。

このコンバートは、物議を醸した。
なぜなら、肩に不調を抱えていた荒木が二塁手よりも一塁から遠い遊撃手になったことで、遊撃のエラー数が増えたからだ。

遊撃手
2008年 井端 106試合 8失策
2009年 井端 144試合 8失策
2010年 荒木 134試合 20失策
2011年 荒木 127試合 17失策

二塁手
2008年 荒木 130試合 11失策
2009年 荒木 140試合 11失策
2010年 井端 45試合  1失策(堂上82試合 2失策)
2011年 井端 102試合 5失策

俊足を飛ばして果敢に打球を追うため、元々、エラーは少なくなかった荒木。遊撃手になってエラーはさらに増えた。
2010年~2011年の2年間は、荒木がエラーする度、ファンからコンバートが批判の的となっていた記憶がある。

しかし、中日は、それまで3年間果たせなかったリーグ優勝を2010年~2011年にかけて2連覇で成し遂げた。

つまり落合のコンバートによって、遊撃手のエラーが倍以上に増えたのに、中日の成績は上がったのだ。

落合は、このコンバートの意図を自らのYouTubeチャンネルで明かしている。

「あれは井端の動きが悪くなってきたっていうのと、亜細亜大学の監督に会った時に『元々井端はセカンドをやってたよ』という話を聞いたので。
それで荒木は、元々ショートだったっていう(事情があって)ね。それだったら、できるだろうということで(コンバートした)。
井端の動きが悪くなければ、替える必要はなかったんだけど、三遊間、二遊間で抜けるやつ(打球)を飛び込んで止めてくれれば、セカンドランナーがサードで止まる。もう一勝負できるかなっていう、その発想からだよ。あの二人を入れ替えたっていうのは」

『【公式】落合博満のオレ流チャンネル(YouTube)』

私は、この話を聞くまで、荒木を遊撃手にコンバートした理由は、広い守備範囲でヒットを減らせるからだと思っていた。

しかし、落合が見ていたのは、そこではなかったのだ。

ランナー二塁で三遊間や二遊間をゴロで抜けてしまえば、高い確率で1点が入ってしまう。
しかし、荒木が飛び込んだり、追いついたりして打球を止めさえしてくれれば、たとえヒットになったとしてもランナーが三塁で止まる。

つまり1点を失わなくて済むのだ。

もしランナーが二、三塁であったとしても、外野に抜ければ2点を失うところを1点で済む。
スコアが1-0なら1-2になるところを1-1で食い止められるのだ。そうなれば、もう一勝負が可能だ。

落合は、ヒットを防ぐためではなく、セカンドランナーがホームに還って1点を失うのを防ぐために荒木を遊撃手にコンバートしたのだ。

このコンバートによって、セカンドランナーをホームへ還す確率を大きく下げた中日は、2010年、2011年と2年連続でリーグ最高のチーム防御率を叩き出す。

セカンドランナーをホームに還さないために荒木を遊撃手にコンバートした落合の発想。

それが、かつて誰もが成しえなかった球団史上初のリーグ2連覇をもたらしたのである。

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