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フォーゲットミーノット



空はミルクを零して混ぜかけの水色。
体を揺らす風は砂混じりでぬるさを纏っている。
色付き始めた草木達はこれからさらに彩度を上げる。


一際強い風が地面を撫ぜると、合図されたかのように冬のあいだ雪と共に眠っていたあらゆるもの達が目を覚ます。その音は今の私にとっては不愉快でしかなかった。
真新しさを強要されている感覚が今の自分を否定されている気がしてならなかった。


一歩外に出ると至るところに新しい顔がある。
あの頃の私もきっと同じ顔をしていたのだろう。
今はもう春に追いつけない。
故郷は遠く、目新しいモノは刺激的に映っていた。
大嫌いだった喧騒は、気付けば当たり前になっていて寧ろ心地良くなっていた。
なのに好きだったものたちはどんどん嫌いになっていく。
そのまま流れに任せてここまできたら、気付けば背景と一体化していた。


綻びだらけで使い古されたタオルを好むように、肌に馴染んだものには安心感が宿る。
「心機一転」と切り替えるのは簡単だろうけど、私はどう切り替えてもこのタオルだけは捨てたくなかった。
地面と私を繋ぐ唯一の方法だった。


新しい場所で生まれ変わった気分になっていたけど、実際のところ、雪の季節から何も変わっていない。
季節が変わっただけで私はずっと私のままだ。
ダンジョンのような駅の構内、私は身を翻して人の流れに逆らって歩き出した。



活動のモチベーションになりますので良ければお願いします。