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だいぶ、日本はあたたかくなってきたよ。もうあつい。花はとっくに咲き終わって、ただの木になっている。ビールだよ。酒がのめないから、いつもアルコールフリーのビールをのんでいる。あたらしい家で一緒に住むともだちに、これおいしくね?といってアルコールのないビールを渡した。まじい、っていっているけど。それでもなぜかいつのまにか全部飲み干している。いちいちひっかかってくるなよ。ひっかかりたいくらいがちょうどいいんだ。みんな意味のわからない話ばかりしていたから、鳥でも見るかと思った。もう真っ暗なのに、人間も起きているし、みなが灯りをともしているしで、鳥は寝られない。うるさいと苦情を言ってきたけれども、けいさつもこなかったし。だからいいか、と思ってそのままにしていた。いちいちひっかかる。かなしいおもいでばかり話すともだちに、もう1年間会っていない。べつにあいたくもないからよいのだけれど、このあいだは美術館の中でばったりそうぐうした。しらない日本という国の、しらない東京という町の、町いちばんの美術館だったらしい。しらない町にいるわけなんかないから、おそらくしらない人だとそっとしておいた。何度もたがいを見る目。どちらからも何も言い出さず、閉館時間がくる。閉館の間際のしずかな部屋、うるさいロッカールーム。ロッカーが隣同士で、ともだちのにおいがした。ともだちだとたがいに思っている。ロッカーのドアに反射して目が合っている。合う。どうする?おまえ、わたしに話しかける?そう聞いた。いや、いい。たぶん人違いだから。ともだちはリュックサックを背負って、ゆっくり、振り返りながら階段を登っていった。ついていっていいの?いや、だめでしょう。話しかけてないから。そうだよね。じゃあまたそのうちね。うん。こんどは上野で飲もうよ。酒飲めない。まあしかたないでしょう。酒でものみなよ。

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