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犬のピピの話 302 鬼の番になった犬

 ・・やがて、なにかの拍子に「鬼」が交替します。
こんどは、ピピがわたしを追いかける番です。

「いよおっしゃ!!」
 とは言いませんが、ピピは「いよおっしゃ」そのものの気合いと、やる気まんまんのヨロコビを全身にみなぎらせ、わたしに向かって走ってきます。
そして、このまんまん鬼ピピの四つ足は、ひとつひとつもとんでもなく速く動き、それに比べたら、まるでナマケモノのようにゆっくりとしか動かないたった二本足動物のわたしは、あっというまに追いつかれてしまうのです。

しょうがない、のろけりゃ、ズルくなりますか。
わたしは「安全地帯」に逃げ込みます。
この「安全地帯」というのは、ロープの網のおわんです。
ジャングルジムの前の、すべりだいの横に、四本の太い丸太を正方形になるように立て、その中に、ロープで編んだ粗い網が、おわんのように張ってあります。
おわんの底は、ちょうど地面につくほどの高さにしてあります。

前に一度、わたしがピピをここへ誘った時、ピピは素直にこの網のおわんの中に入ってきました。
でも、そのおわんは、ピピの四つもある、しかも短い足ではとても歩きにくいのです。
いいえ、歩きにくいというより、短い足がどうかすると宙に浮き、歩くどころではなく、まるでワナにかかったみたいにじたばたして、ピピの顔はひきつりました。
なんとかごそごそと出て行きましたが、それ以来、ピピはもう、このワナのおわんの中には決して入らないのです。

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