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5月6日公開オススメ映画『死刑にいたる病』『マイスモールランド』『チェルノブイリ1986』

映画ライターの松 弥々子が、今週末、5月6日に公開されるオススメ映画3作品をご紹介します。
ぜひ、映画館へのお出かけ前の参考にしてみてください。

死刑にいたる病


櫛木理宇の原作小説を白石和彌監督が映画化した『死刑にいたる病』

阿部サダヲが24人の少年少女を殺したシリアルキラーを、岡田健史がそのシリアルキラーに魅入られる20歳の大学生を演じています。

なんといっても圧巻なのは、その阿部サダヲのサイコパスっぷりです。
昼間はやさしいパン屋のおじさん、夜は黒髪の高校生たちを拉致監禁して拷問、爪を剥がして殺害するという秩序型殺人犯。阿部サダヲはそんな恐ろしいキャラクターを見事に体現。やさしく魅力的なパン屋さん、思慮深く儚げな冤罪犯(とはいえ冤罪は1件のみ)、人を魅了して思いどおりに操るサイコパスという3つの顔を違和感なく一人のキャラクターに同居させているのです。

彼と対峙する岡田健史も、自己肯定感の低い若者らしい自信のなさと不安定さを見事に表現し、物語を彩っています。

『凶悪』『孤狼の血』などで人間の心の複雑さや弱さを描いてきた白石和彌監督、また一つ傑作をものしてくれました。

『死刑にいたる病』(129分/日本/2022年)
公開:2022年5月6日
配給:クロックワークス
劇場:全国にて
Official Website:https://siy-movie.com/
©2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

マイスモールランド

“国家を持たない世界最大の民族”と呼ばれるクルド人。1990年代に、トルコ政府の迫害から逃れて日本にやってきたクルド人を中心に、現在では約2000人のクルド人が日本に居住しているそうです。

この映画『マイスモールランド』は幼い頃にトルコからやってきた17歳の在日クルド人少女・サーリャの物語です。
日本で成長したサーリャは、普段は普通の女子高生として生活し、アルバイトをし、恋をしています。将来は日本で教師になりたいという夢もあります。
日本語・トルコ語などを流暢に話す彼女は、クルド人コミュニティの中でも通訳などボランティア的な役割を果たしたりも。

そんななか、一家の難民申請が却下されたことで、彼女と家族の生活はだんだん破綻していきます。
日本で育ち、日本で暮らしたいと思っているのに、国は彼女たち家族を難民と認めてくれない。周りの人たちも悪気のあるなしに関わらず、彼女たちを“外国人”として扱うのみ……。

彼女はそんな現実のなかで、懸命に生きていくしかありません。父親が入管に収容されてしまったため、サーリャは一家の年長者として妹と弟を食べさせていかなければならないのです。

彼女に恋をする日本人少年は「うまくいかないね」と言いました。そんなうまくいかない現実のなか、サーリャは自分の人生、そして家族の人生を切り拓いていかねばならないのです。
そして、サーリャのパパは、子どもたちの生き抜く力を信じて、ある大きな決断をします。その決断には、涙が止まりませんでした。誰だって、父親は子どもたちのことが心配なのでしょうに……。

この『マイスモールランド』は、この多様化の時代にも関わらず、まだまだ閉鎖的な日本という国の、一つの現実を教えてくれる物語です。
「うまくいかないね」と言って目を伏せているだけでは、世界は変わらないのです。

本作が長編映画デビューとなる1991年生まれの川和田恵真監督、そしてサーリャを演じて映画デビューを果たした嵐莉菜。彼女たちだからこそ作り上げることができた、深く、強く、そして見応えのある素晴らしい映画でした。

『マイスモールランド』(114分/日本/2022年)
公開:2022年5月6日
配給:バンダイナムコアーツ
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて
Official Website:https://mysmallland.jp/
©2022「マイスモールランド」製作委員会

チェルノブイリ1986

1986年4月26日に起こったチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故。
その後、チェルノブイリという地名は、何か恐ろしいものととらえられるようになり、チェルノブイリの地は草木も生えないゴーストタウンのようなイメージを持っていました。

この映画『チェルノブイリ1986』はそんなチェルノブイリ原発の事故、そしてその原発のさらなる水蒸気爆発を防ぐために戦った消防士ら、名もなき英雄たちの姿を描くロシア映画です。

当時のチェルノブイリ(チョルノービリ)は、ソビエト連邦内のウクライナ・ソビエト社会主義共和国にありました。ウクライナ州の首都・キエフ(キーウ)からも110kmという立地にあり、チェルノブイリ原発が水蒸気爆発を起こせばキエフは壊滅、ヨーロッパ全体に甚大な被害を与えかねませんでした。
そんな土地で起こった原発事故で、消防士や原発技師、軍のダイバーたちが、決死のミッションに挑んでいきます。それは、何よりも、愛する人たちを救うため……。

この映画はロシア映画ですが、ウクライナが舞台となっています。製作・監督・主演を務めたダニーラ・コズロフスキーはロシア人で、プロデューサーを務めたアレクサンドル・ロドニャンスキーはウクライナ人。
言わば、ウクライナの地で、ロシアやウクライナに重大な影響を与えた歴史的事件を、ロシア人とウクライナ人が共に描いた作品なのです。

ダニーラ・コズロフスキー監督は2月27日にInstagramでこのような投稿をしています。

今起こっていることは、大惨事だ。全ての意味においての大惨事、すなわち人間的、人道的、政治的、経済的といった、あらゆる意味において、である。僕は心の底から自分の国を愛している。
そして真の愛国主義とは、自分が本当に感じ経験している真実を語る断固たる姿勢だと常に考えている。
中略
兵士や民間人が亡くなり、ミサイルが住宅を攻撃している。
たとえ政治に通じていなくても、これにはいかなる正当性もないことははっきり分かる。
尊敬すべき大統領、直接呼びかける無礼をお許しください。ですが、この恐ろしい不幸を止められる力があるのは貴方だけなのです。
僕たちは、ある高官が表現しているような「反対者の国民」なんかではなく、世界の中で何よりもただ平和と平穏のみを愛し願う自国民なのです。
僕の名はダニーラ・コズロフスキーで、戦争に反対しています。このことを、ただ自分の名において心から述べています。

ロシアの地で、この声明をあげることは、それはとても覚悟のいることだと思います。それでも、平和と平穏を愛し願う、そして自分の国を愛する愛国者として、声明を発表せざるを得なかったのでしょう。

このロシア映画『チェルノブイリ1986』の日本での収益の一部は、ユニセフなどウクライナの方々への人道支援活動を行う団体に寄付されるそうです。
ロシアやウクライナの歴史的事件を描いたこの映画、今、この時だからこそ観ておくべきなのかもしれません。

事故前のチェルノブイリは、美しい街だったこと、チェルノブイリに暮らしていたのは、私たちと同じように幸せを願って生きる、普通の人々だったのだという、ごく当たり前のことを、改めて教えてくれる一作でした。

『チェルノブイリ1986』(136分/ロシア/2020年)
原題:ЧЕРНОБЫЛЬ
英題:Chernobyl
公開:2022年5月6日
配給:ツイン
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて
Official Website:https://chernobyl1986-movie.com/
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