最弱奴隷の俺、ステータスの穴を見つけて成り上がる。『第十話 休息』

 家を失った俺たちは、その後、騎士から甲冑、剣を盗み、穴へと潜った。
「ステータス」
 最弱奴隷に変わり反逆者と書かれた画面が表示される。
 身体能力30、魔法適性11、守護騎士と同等のステータスが表示されるのは、反逆者の特殊能力、最近のステータスに固定化されるというもののおかげだろう。
 これで外にもステータスを持ち込めるようになったのだ。
 しかし、すべてを持っていける訳では無い。それぞれの職業の特殊能力は外では効果を発揮しない。結局、外では反逆者以外の職業に変更する事はできずただ最近のステータスに変わるだけなのだ。
 それでも強くなる方法は分かった。

「それで、これから私たちはどうするの?」
 そこらの葉っぱで胸元を隠したアリスが聞いてくる。
「取り敢えず、王都に向かおうと思う。そこから世界を変える」
 世界を変える。そのための始まりを王都としよう。
 ステータスに支配された世界を変えるとは言うが俺はまだステータスの正体を知らない。だからステータスを消し去ることはできない。俺もまたステータスを変化させることはできるが、ステータス外の行動はとれない。
 でも、世界の人々から職業と言う偏見を取り除くことはできない事は無い筈だ。
 だからまずは王都でそれを実行する。
 成功したら、ここに戻ってきて、村人に謝ろう。

 それが今の俺の目的だ。

「でも、王都に行くにはこの森を抜けなくちゃいけない。森の奥には山があるし、山には森竜もいるし、危険だよね」
「ああ、そうだな」
 森竜と人間は互いに不干渉を守っている。
 人間は山の奥地には入らないように森竜は人の街を襲わないようにと。でも人は時に山を越える。越えなければ、防衛状況の確認が行えないからだ。
 故に森竜は山に一本のトンネルを作り、人はそれを騎士以上の職業の者のみが通れるようにと法を作った。
 つまり、俺らは通る事が出来ない道だ。
「危険なのはわかっている。だから、この穴の限界まで突き進む」
「それで強くなるの? ……でも、それじゃ私はどうすればいいかな」
 アリスはこの穴で職業を変える事はできない。
「なら、魔法の研究をやってくれないか。俺よりもはるかに強いし、それにあの騎士はアリスの魔法を荒いと言った。まだ強くなる余地があるんだと思う」
「そっか、分かった」

「そう俺たちは強くならないといけない」
「うん……!」
 でも、
「でも……今は疲れたから、休もう!」
「おおー」

 ※※※

 穴から出た、すぐ隣で俺は星が輝く姿をぼおっと眺める。
 アリスは近くの川で水浴びをしている。
「濃密な一日だった」
 今日に一日でアリスと出会い、一つ試験をクリアして、騎士と戦って、反逆者になって、それでアリスに告白された。
 キスされたって事は恋愛感情なのだろうが、恋に落ちやすい子なのだろうか。
「はあ……」
 大きくため息をつく。

 どうしようかな。
 守るし、守ろうと思うが恋愛感情かと言われれば、何とも言えないな。
「よし、いったん、保留しよう」

「何故だろうか」
 俺は考える。
 俺は反逆者になった。そのおかげで騎士に勝つ事が出来た。でも、何故、魔法が使えたのだろうか。
 守護騎士の特殊能力は守りたいと思う人が視界内にいた場合対象のステータスにプラス10されるというものだった。でも、あの時アリスは視界内にいなかった。
 そもそも外では反逆者の職業しか使えないから、守護騎士の特殊能力は使えない。
「分からない、か」

「キャーー―‼‼」
 突如、アリスの叫び声が聞こえる。
「どうした!」
 やらかした。
 まさか、何か起こるとは。
「今行く!」
 アリスに聞こえるように叫んで走り始める。

 ※※※

「大丈夫か!」
「キャーー!」
 茂みを掻い潜り、川の水面に立っているアリスに、声を掛けた瞬間、帰ってきた反応は叫び声だった。
「何かあったのか」
 俺は聞く。周りに問題があるようには見えない。
「アルト君が入ってきたこと以外ないよ!」
 アリスはすぐさま後ろを向き、局部を隠す。
 しかし俺は見てしまった。
 然程高くないが確かにそこにある事を主張する丘と、その頂上に咲く桜。驚くほど白い肌に、美しく、月の光が反射して、幻想的な、一種の奇跡を映し出す。

 ……なにを考えているんだ?

「まあ、なにもなかったんならそれでいい。じゃあ、なんで叫んだんだ?」
 俺も後ろを向いて、話を進める。
「胸を隠してた葉っぱに変な虫がいっぱいついてたの」
「ん? アリスって結構な期間ここに住んでいるよな。今更か?」
「普通の虫なら大丈夫だけど、ちっちゃい魔獣の虫は無理!」
 そんな魔獣いるのか。知らなかった。
「じゃあ、俺は戻るよ」
 そう言って俺は歩き出す
「ねえ……」
 その瞬間、アリスの声がかかる。
 でも、今回はいつもの様な元気な様子ではなく、少し低い、緊張したような声だった。
「森を越えて王都に行くのは良い事だと思う。それで王都の奴隷も救われるなら私も嬉しい」
「ああ」
「そのために自分を鍛えるのもいいと思う。……でも……」
「どうした?」
「私はやっぱりアルト君が好きだから、アルト君には危険な事してほしくない。だから、ここで二人で一生を過ごすのもいいじゃないかなって……」

「……確かに、森を越えるのも、穴で鍛えるのも、王都で差別をなくすのも、危険が伴う。多少の力じゃ、どうしようもないときも来ると思う」
「じゃあ、一緒に、」
「でも、危険かどうかは関係ないんだ。正義感で動いている訳じゃない。アリスもあるだろう。差別された事」
「そうれはそうだけど……」
「俺は俺とアリスが生きやすい世界を創りたい。責任感はあるけど正義感はない。……俺はアリスと一緒に普通の生活がしたいんだ。欲を言えば父さんや友達ともそうだ」
「でも、死んでしまったら意味ないじゃん」
「……死ぬわけないじゃないか。危険は伴うけど、だからって目的も果たさずに死ねるわけがない。……俺はアリスとの生活が手に入るまで死なない」
「精神論じゃダメなんだよ……もう、誰かに見捨てられるのは、嫌なんだよ」
「なら、安心しろ。俺は世界に反逆するんだ。

 死にも反逆するからさ」

「……そんなの信じられない」

「なら、アリスが俺を守ってくれ。俺より強いんだ。きっと俺が死ぬのを阻止してくれそうだ」

「……」

 そして数秒の沈黙が過ぎて、

「……分かった。私がアルト君を守る」

「ああ、頼んだ。俺はアリスを守ってやる」

 アリスの表情を見る事はできないけど、それでも、苦しんでいない事だけは分かる。

 今はそれだけでいい。