最弱奴隷の俺、ステータスの穴を見つけて成り上がる。『第八話 村の動向』

 今は本心からアリスを守れるとは思わない。
 理由は簡単。
 俺よりアリスの方が強いからだ。アリスは魔法が使える。そして魔法適性は130あると言っていた。なら、俺は完全に守ってもらう側の人間だ。
 アリスを失うというのは、想像はできないが悲しい事だと思うし、きっと残酷だ。だから今回の試験のような事態には俺が対応したいし、守ってはやりたい。
 でも普段の生活の中で俺がアリスを守るなんてことがあり得るかと言われれば無いと断言できてしまう。
 そういう確信が脳内にあるから、守りたいとは思っていても、どこか本心でそうは思えない。

 ※※※

 俺らは穴をよじ登って外に出る。
 そこまで時間はたっていない様で、雲一つない空は木々など関係なく、その光を大地に届ける。
 いきなり目に日光が入り込んできて、俺は一瞬目を閉じる。
「ステータス、職業変更」
 相変わらず、ステータス画面しか現れない。
「はぁ、駄目だな」
 やはり何も変わらなかったか。

「いい天気だー」
 隣に来たアリスが呟く。
「そうだな」
 俺らは会話とも言えないような言葉のやり取りをして、歩き出す。

 五分くらい歩いた頃だろうか、近くから人の声が聞こえた。
 俺らは立ち止まって耳を澄ます。
「依頼料は用意できます」
「なら、了解した。その依頼請け負った」
「ありがとうございます」

 甲冑の男と布切れをかぶせただけの様な、村の一般的な服装をした男が会話をしている。
 農民が騎士に依頼できるほどの金を持っているとは思えないが。
「あれ、私の村の人だ」
 アリスが小声で言う。
「そうなのか。……あの騎士、見た事あるな」
 甲冑の上からだから見間違いかもしれないが、多分、俺の村に来ていた騎士と同一人物だ。
 村に来た後、女性を犯し、帰ったのではなかったのか。村人があの騎士に依頼する事なんてあるだろうか。俺に対するほどのものではなくとも多少なりとも恨みが生まれるはずだ。
 別の騎士である線は薄いだろう。
 王都はここから山を越えなければならない。専用のトンネルが開いてはいるがそれでも距離があるはずだ。ここは辺境と村で教わっている。
「私の村に試験しに来たのかな」
「ああ、そうだ。あいつ一度俺と戦っている」
「ん? 私とアルト君の村は違う村だよ」
「えっ?」
「知らなかったの?」
「ああ」
 そうだったのか。じゃあ、あの騎士は俺らの村が終わった後、アリスの村に向かって、そして村人から何らかの依頼を受けているという事か。
「あっ……」
 村人は騎士に対して頭を下げて、歩いて行った。
 騎士もそれから、少し時間をおいて村人の後を追いかける。

「何を依頼したんだろうな」
「さあ? でもうちの村に騎士に依頼できるお金なんてあったかな?」
「まあ、無関係だろうからな。俺が食べた分の食料を回収して帰ろう」
「そうだね」

 ※※※

 ツタで造られた部屋の中に入って、荷物を置いてベットに腰かける。

 数秒の沈黙が流れる。

「なあ、普段は何してるんだ?」
 俺はそんな沈黙を打破するため話題を振る。
「普段は~魔法の研究とかしてる」
「魔法の研究、か。なあ、魔法ってどうやって使うんだ?」
 強くなるためには必要な技術ではあると思う。
「えっとね、特定の言葉を言いながら魔法を出したい場所に意識を集中させるの。そうすれば結構簡単に出るんだ」
 そんなものなのか魔法とは。
「じゃあ、アリスが今使える魔法は何種類あるんだ?」
「シールドとホーリーアローとスピードの三種類だよ。言葉の意味は分からないけどね」
「やってみてもいいか」
「勿論」
 俺は腕を前に出し、目を瞑って掌に意識を集中する。
「『ホーリーアロー』」

 数秒が経過するが、ステータスの穴で見たような光は発動しない。
「魔法適性1じゃ無理だよな」
「まあ、130でも三種類しか使えないしね」
「そうだね」

 ドんッ‼‼

「はっ?」
 光の差し込みずらい筈だった部屋の中に、突如轟音と共に光が差し込む。
「さっきから話を聞いていたが、奴隷に魔法は使えないぞ」
 そして、目の前にいたのは、あの騎士だった。