最弱奴隷の俺、ステータスの穴を見つけて成り上がる。『第四話 敗北者の責務』

「どうして……」

 職業最弱奴隷。
 俺がステータスの穴で変えたはずの憎き職業。
 それがまた、俺のステータスに表示されていた。
「職業変更」

 ……そう呟いても変更画面は現れない。

「職業のせいで負けたのか……」
 俺のせいで結局、一人の人生を救う事が出来なかった。

 救いたいとは思っていなかった。
 俺が生きて、家族や友達がまた俺と仲良くしてくれれば、他人の人生なんて二の次で、ついで程度だった。でも、俺はその人の人生どころか、関係性を取り戻す事も出来なかった。
 ……何も、できなかった。

 その責任は俺にある。

「あぁ……」
 いきなり、強くなったとか言い出して、そんでもって何の利益も出さないでいなくなる。
 村の中では俺を知らなかった人も相当の屑認定を俺にするだろう。

 もう村には帰れない、か。

 今は村の皆も俺に対する嫌悪感を持っているだろうから村には近づけないかもしれない。父さんや友達に認められることは一生ないだろう。
 俺のあの村での平和はもう訪れないかもしれないけど、いつの日か、時間が経ったら、村に住めなくとも、犯されたであろうその子に、謝罪したい。
 それだけは絶対にしなくちゃならない事だと思う。
 それが敗北者の責務だと思うから。

 だから、今はそのために生きるしかない。

「いっ――」
 俺は決闘で受けた傷を庇いながら、立ち上がる。

 取り敢えず、ステータスの穴に戻る事しか今の俺にできる事は無い。

 村は俺の目線の先にあるから、ステータスの穴はその裏側。俺が体重をかけていた岩の裏の先、森の奥深くにある。
 村に来た時の様に今回も魔獣に出会わなければいいが。

 ガサッ……

 突如、木の陰から物音が聞こえる。
「くそっ……」
 小声でつぶやいてから、こぶしを握り構える。

 そして、数体の猪の様な体つきの紫色の体毛を纏った魔獣が現れた。
「嘘だろ」
 その魔獣は俺を取り囲むように並んでおり、逃げ道になり得る隙間は、右側。つまりステータスとは別方向だった。
 逃げるのは決定事項だが逃げる途中、方向転換なんてしたら確実に追いつかれる。

 でも、今は生き残るのが先決。
 生き残ればまた戻ってこれる。

「走れーー‼」
 俺は唯一開いた隙間に走りこむ。
 止まることなく走りまくる。

 ざざざ

 後ろからついてくる音が聞こえる。

 走れ走れ走れ。
 どこまででもいい。走り抜け。

「はぁ、はぁ」
 もう息が切れ始めた。
 捕食者の時とは全然違う。

 ドンッ!
「うぐっ」
 その瞬間、背中に鈍痛が走った。
 体が思いっきり弾き飛ばされて、土の上を転がり、仰向けになる。
「「フゴ、フゴ」」
 何匹もの鳴き声と輪郭が目の前に来る。

「うぅ……」
 鳩尾に鼻が突き刺さる。
 しかし、なぜか痛みを感じない。

「『ホーリーアロー』」
 どこかから誰か女性の声が聞こえる。
 その声が聞こえた瞬間、目の前に閃光が瞬いた。
「『スリープ』」
 そしてその声と共に俺は意識を失った。