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浅井は軍服を脱ぐ。 濡らした布切れで身体をあちこち拭く。 銭湯へ向かう前の最低限のマ…
戦死したら公報が届く。 例え生きているのが確実と思っていても、その噂だけでも先に知り…
浅井の母・芳枝は、息子の帰りを待ち侘びて居た。 しかし、戦時中はその思いを外に出せな…
電車に乗る。 車内は案外空いていた。浅井はホッと一安心する。 この二年四ヶ月、同じ軍…
列車が東京に近づくに連れ、家屋や建物が増える。と同時に、空襲による被害状況が明らかに…
四人掛けの座席の窓側に腰を下ろす。向かいのホームを見ると、何人もの子供たちが窓際の復員…
博多駅に向かって歩く。 背広姿の男が待ち構えたように近寄って来る。 何事かと思う浅井。 「貴方が所属されていた聯隊はどこですか?」 そう言って来たので、聯隊名と中隊名を答えると、男は自分の持っている書類を覗き込んだ。 見ると、何らかの名簿らしい。そこに浅井の名前があり、見付けるや否や新しい拾円札二十枚と軍隊の白い靴下に入った米一升をくれた。そして、その上で、浅井の名前が記載された下士官適任証を渡してくれたのである。 背広を着ているものの男は軍人らしかった
倉庫は検疫所になっていた。 白い煙がもうもうと立ち籠めている。 白煙の中、高さ一米く…
乗船から二日経った。 船酔いは疾うに限界を超え、皆吐き出す物はすっかりなくなっている…
船底に落ち着くと、兵隊の間で反証のしようがない流言が広まった。 その噂によると、船は…
小屋に戻って軍服を着る。前釦が填らない。腕首も袖口から十竰は出ている。 浅井はここに…
聯隊は出発した。國府軍による武装解除を受けるために。 無理を強いた自責の念があるのか…
國府軍の方からなかなか仕事が来なかった。仕事がありすぎるのは困るが、無いのも困る。まし…
あれから八ヶ月――馬に吹き飛ばされた浅井は、無事相棒となった。 一応馬に認知されたのだ。浅井は馬が栗毛であることより、栗林と名付ける。 「栗林よ、貴君は支那で百戦百勝の浅井のらくろ一等兵に見つかった。いずれ天下一武道会に出る素質があるぞ」 そう話し掛けると「フンッ、それはわかってる」と不遜な態度をみせる。浅井は、あくまで格下扱いしてくる栗林に腹が立ったが、それでも共に、日々夕食の時間がくるまで、方々へ出掛けた。 古兵たちはその間麻雀をしていた。上海にあった旧日