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Kabi 調理する、料理を語る、食べる、シアターレストラン

完全予約制、予約時間が決まっているので、食事の開始時間は全員同時になっている。遅刻厳禁、遅れたらせかされたり、メニューを全部食べられなくなる可能性もあるらしい。発酵をテーマにしたクロスオーバージャンルで評判のレストランなのだが、注文が多い。黴だなんて面白いねえという好奇心、面倒臭くて敷居が高いなあというわずかな嫌悪感、アンビバレントに交差する。とはいえ、自分の誕生日に自分で予約するというチリーな現実には相応しい緊張感あふれるお店だ。今時はこんな感じなのか?レストラン。

アペリティフを頼むけれど、値段はわからない。水で通すこともできるが、誕生日だし、みんな一杯ずつ注文する。発酵ジュース、コンブチャなど、ノンアルコールも含めて発酵した特別な飲み物がたくさん用意してある。ジュースは果物の味の他に旨味や風味があり、発泡しているらしくわずかに舌にあたる刺激もあっておいしい。クラフトビールやワイン、日本酒もあり、それぞれレアだったり、独特の製法だったりする。しかもグラスは木村硝子で、食器やカトラリーも……リビングモチーフが出張してきたみたい。

料理は6品、メニューを見ただけでは全貌を予想できない。メイン食材はわかるけれど、肝は付け合わせ野菜やソースにあるみたいだ。しかも味のアクセントが複数仕掛けてあり飽きずに食べられる設計。魚介やジビエなど厳選素材、この日は蝦夷鹿ローストもあった、それぞれ素材の味が濃くて明確だ。調理や調味は最低限で発酵食品と出汁がつなぐ。最終的にすべての食材が相乗的に口内調味されるようによ~くよく考えられた取り合わせ。デザインは繊細だが、目の前で作られ、熱々が作られ供じられる点がいい。一方で、普段作る名もなき家庭料理みたいな素朴な風情もある。

紅芯大根にコールラビが隠れてたり
ソースはアワアワ、帆立の↑にキャビア↓には芋!
ソースは何だか聞き逃したけどうまうま
鹿はレアな仕上がり、ソースは2種類
ローマ字のおじや
菊芋のチップがイカしたデザート

時間になると、おもむろにテーブルで本日の料理の流れが説明され、その後一皿ずつ、供されるごとにセリフのようにその日のその場面の料理が語られる。食材に込められたストーリーも味わえるように。そういえば皿ごとBGMが変わっていた、そこにいる全員が場面が前菜からメインにスイッチしたことを体で理解できるようにか。

すべての料理は目の前のオープンキッチンで、時には炎を上げながら行われ、調理もサーブも混然一体となって、お客に振舞われる、よどみなく、流れるように立ち働くスタッフはダンサーみたいだった。メインが終わったとき、焼き物の後始末が終わり、デザートの頃にはオープンキッチンはすっかり片付いてしまっていた。

幕開きと同時に調理が始まり、デザートが終わるころにはキッチンもピカピカ、終演というのが、すごく面白かった。ランチだったはずだけど、観客参加型パフォーマンス、その点をもっと先鋭化していっても面白いのかもなと。食事はライブ体験だもんな、演劇と同じ。