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2021年映画ZAKKIちょ~ 3本目 『映画大好きポンポさん』

2022年製作/上映時間:90分/日本
英題:Pompo:The Cinephile
劇場公開日:6月4日
鑑賞劇場および鑑賞日:TOHOシネマズ上野(1回目 6月4日)、グランドシネマサンシャイン池袋(2回目 6月11日)



狂った心で夢を見てるんだよ!!!映画製作の現場を極上のエンタメとして活写する狂気の青春ドラマ

【あらすじ】
大物映画プロデューサーの孫で、自身もその才能を受け継いで活躍するポンポさんのもとで、製作アシスタントを務めることになった青年ジーン。映画を撮ることに憧れながら無理だと諦めかけていたところ、ポンポさんに新作映画の15秒予告編の制作を依頼されるのだった。

 杉谷庄吾【人間プラモ】による2017年発表のネット漫画が原作の劇場アニメ化。原作については未読であったものの、映画を取り扱った作品として正直、美少女アニメには普段まったくそそられない自分としても、キービジュアルに「コレは何かある」と、ピンとくるものを感じ、公開されるのを密かに期待していたのであった。

昨年2020年は、「魔女見習いをさがして」「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」など、これからも一生観続けていきたいと思うほどの大傑作アニメ映画が公開され、その他も続々と良作のアニメ作品が公開される豊作の年であった。

年が明けて2021年は、例のロボットアニメの完結編が度重なる延期を経て、ようやくの3月公開。
観客のそれぞれの想いを胸に、26年の歴史に潔く幕を閉じた事は印象深く記憶に残るだろう。興行収入的にも100億円に迫る勢いで、一般的にも社会現象とも呼べる潮流を生み出し、その内容は今でも筆者の心にグサリと刺さり続けたまんまである。

以降、そんな状況下で、このアニメ映画は筆者に何をもたらしてくれるのか、期待に胸を躍らせながら劇場へ足を向けた。


○良かった点

良かった点は下記3点。

1.日本アニメでしか成立しえない奇跡のバランスで作られた作品
2.
「映画を撮るか、死ぬか」狂気と熱に呑み込まれる映画業界内幕モノとしての面白さ
3.フレッシュな声優陣と新進気鋭の歌手たちによる楽曲の数々


1.日本アニメでしか成立しえない奇跡のバランスで作られた作品

 本作は果たして映画業界の内幕モノでありながら、しっかりと多くの観客に共感され、気持ちを押される極上のエンタメ作品であり、若気の至りの衝動が凝縮された青春ドラマであり、美少女アニメでもあった。

まさしくこれは世界広しといえども、日本のアニメーションでしか成しえないクリエイティブが炸裂した奇跡のバランスで作られた、観る者の心に残る作品だった!

架空の街であり映画の都でもあるニャリウッドを舞台にした本作。
一見すると、これまでの長い映画史において、何度も観てきたような創作に対する映画監督の成長、苦悩、葛藤を描くドラマのようにも見える。

しかし本作が、そうした過去の作品と一線を画したスペシャルな出来となっているのは、若者の成長譚でありながらも、ワイプ、カットバック、巻き戻しなど数々の変幻自在の映像技法を軽快なテンポによるアニメーション演出で見せる事により、そうした映像表現の快楽に魅入られ酔いしれながらも、映画製作中の監督の意識下の世界に迷い込んだような、物語以上にその曖昧な感覚を楽しめる、何重にも緻密にレイヤーが積み重ねられた作品に仕上がっている点である。とても一回観ただけでは味わい尽せない。

“伝説的映画プロデューサーの孫で、幼女のような外見でありながら、熟練したスキルや経験を感じさせる映画プロデューサー、ポンポさん”の周りに集まってくる、”ずっと映画しか無かった青年ジーン”、“幼い頃から映画俳優を夢見てバイトとオーディションに勤しむ若き女性ナタリー”、“充実した学生時代を送りつつも社会人になって夢を見失ってしまった青年アラン”の3人が成長していく姿を、わずか90分で描く。

 本作の上映時間は90分。
この「上映時間90分」というのは、本編を観ていると判明する、ちゃんと意味のある尺。
作品内容の奇跡的なバランス感の出来に加えてこの誰にでも分かるはっきりと意図的な上映時間は、完璧なまでに作品として完成されているという印象を強く与える。
内容だけでなく、そうした配慮も含め、観終わって唸らせられ、スッキリとした気分で劇場を出る事が出来た。


2.狂気と熱に呑み込まれる映画業界内幕モノとしての面白さ

 「ようこそ!夢と狂気の世界へ!!」
そんな、劇中のポンポさんの台詞が物語るように、本作は「映画制作(製作)」という夢、希望、闇、現実、幻想、欲望、狂気、絶望など人々の想いすべてを内包した世界を描く。

もちろん本作は創作なので、90分間の物語を進行する為に、偶然や奇跡のようなタイミングなどの演出が加えられているので、リアルな世界をなぞったファンタジーである。
それでいて、誰でも楽しめるエンタメとして映画業界を描いている。

昨今では、クエンティン・タランティーノ最新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」がハリウッド映画業界をエンタメとして描いていたのも記憶に新しい。
本作をタランティーノがどう観るのか、リアクション動画がアップされて欲しい。

 本作の主人公は、”幼女のような見た目の映画プロデューサー、ポンポさん”ではなく、”青春時代、ずっと映画しか無かった青年ジーン”である。
ジーンが映画監督として作品世界を作り出していく姿を主軸に物語は進む。

 「幸福は創造の敵」
まさしくこの言葉を体現していくかのように、人生のすべての時間、一瞬一秒を映画に捧げていくジーンの姿は、人間的な幸福を完全に捨て去り犠牲にする事によって持続し得る初期衝動、まさしく純粋な想いだけでの映像制作に命を燃やす姿が描かれる。
ジーンにとっては自分が作りたい理想の作品、同時に“ポンポさん”が観たいと思う作品を作り上げる事こそが幸福で、それ以外は何も無いという突き抜けた狂気。

極上のエンタメでもありファンタジーでありながら、単純に観る者に「果たしてあなた達がここまで熱中するモノがあるか?」と突きつけてきているようにも見える。

 特にそうしたグツグツコトコトと長年煮え滾らせてきた映画への想いや知識を爆発させたジーンの狂気が感じられるのは、キャストやスタッフなど大勢の人たちが関わり撮り上げてきた何十時間分もの撮影素材を、一本の作品へと完成させていく編集作業のシーンだろう。

 「映画を撮るか、死ぬか」
そんな究極の二者択一の覚悟と決意のジーンが、自身の脳内世界において巨大な刃物を持って疾走する。
そこでは、たくさんの人たちの苦労と共に撮影してきた思い出の記録映像でもある無数の撮影フィルムをただただ一本の映画として、作品の精度を上げて完成させる為に、気持ちを押し殺すように「切れ!切れ!切れ!」と、もの凄い速さでカットを切って繋げていく。

編集作業は、自分が目指す作品の完成型を目指して、自分以外のキャストや色々な役割を担ったスタッフたちの想いや苦労を断ち切っていくとも同義。

作品を作り上げていく中で、最善の正解は誰にも分からないからこその、霧の中で綱渡りをするかのような危うさを観ていて感じた。
危険の中でこれまでの知識をフル回転させて最善の形を取っていき、作品の質を上げていく為には無茶な選択もしなければならなくなる。

ジーンが初監督する劇中作「MEISTER」の映像編集を続けていくうちに、作品の主人公とジーンがやがて重合し、ここでもまた境界線が曖昧になることで、観客は映画制作という狂気と熱に飲み込まれていく。

現実の映画編集というと、どうしてもずっと机に座ってデスクトップPCをいじっているという、大変地味な画になることは、素人でも容易に想像できる。

だが、そうした編集作業という行為を本作最大の目玉シーンとして、観ていて身体の総毛だつ鳥肌と高揚感とカタルシスで打ち震えあがらせたことは、アニメ作品としても、映画としても、あまりに衝撃で画期的だった。
2021年が終わるまでに、これを超える衝撃に出会えるだろうか。

 「下ばっかり見てないで前も見ろよ。じゃなきゃ大事なもの落としちまうぞ」
そうした映画制作という、作品を作り上げていく行程を描くだけで終わらないのが本作がより深みを与えてくれるところでもある。

つまり、製作費、お金。
映画制作完遂の為の資金集めである。
そうした視点で、また別な共感を呼ぶのは銀行員アランの姿だろう。

青春を謳歌し、充実していた学生時代から社会人となり、大きく環境が変わる事で、自分の思い描いていた世界への失望や、未来への展望の喪失感などを味わっている人からすると、自分の状況と重ね合わせて感情移入できてしまうかと思われる。

ひょんなことから学生時代以来に再会したジーンが監督する映画の追加撮影の資金集めの為に、銀行の役員へのプレゼンを行い、知恵を凝らしたアランの想いや仕事の成果が結実される瞬間のカタルシスには筆者も泣けてしまった。

なので、現実の映画制作(製作)に於いても、そうした作り手の想いやその想いを実現する人、物、金が集結して出来て、一本の作品が仕上がっていくという行程自体に、思いを巡らせてみる楽しみ方を与えてくれたという点も
本作の功績と言える。

そんな最高の映画制作の為に、3人の若者の才能を見出し、活かしていく「ポンポさん」とは一体何者なのか…?

見た目こそ幼女の姿ではあるものの、もはや彼女の存在は、人間というよりも、映画の都ニャリウッドに棲みつく、映画制作の才能の嗅覚が異様に際立った、妖精や座敷童のような妖怪またはスピリットアニマルが擬人化した姿なのかもしれない。
これに関しては、観終えて議論の余地があるだろう。

ちなみに、ポンポさんがデスクにかかってきた電話を、ワンコールが鳴り終わる前に瞬時に取る所作を見逃してはならない。
あの貪欲さは見習わなければならない。


3.フレッシュな声優陣と新進気鋭の歌手たちによる楽曲の数々

 本作の主人公である、映画狂の青年ジーンを演じるのは、若手俳優の清水尋也。
役者として記憶に残っているのは、実写版「ちはやふる」シリーズでの、ライバル高校の部員の姿である。
首が長いな~とビジュアル的にインパクトを残すフォトジェニックな俳優さんでもあった。

そんな彼が演じるジーンは、正直本編を観ている間、男性声優が演じているのかと錯覚するぐらい完全に役にマッチしていた。
それほど何の違和感も無く、作品世界に溶け込み、没頭して観る事が出来た。
声優の仕事が初めてでありながら、声の演技だけで惹き込ませられるのは凄い。

女優を夢見て田舎から映画の都へ出てきたナタリーを演じるのは、ファッションモデルや女優の大谷凜香。一聴すると、声の張り方などで素人感を感じなくもないが、やはり作品の没入度を邪魔するものではなく、ナタリーというキャラクターの特性をしっかり掴んだ上での、かっぺ臭さを演じていたと思う。

 また、本作の最大の見どころである、ジーンの映像編集シーンでかかるのが、人気VTuberである花譜が歌う「例えば」である。

例えばその
光があれば
揺れる瞳も
爪の色も
あの人の手の温もりも

全部を捨ててもいい
どうでも良いんだよ
君が笑ってくれれば
僕は溺れたままでいい


この曲のサビの歌詞とジーンの狂気がシンクロすることで、よりカタルシスが生まれる。
本作は積極的に新進気鋭の俳優および若手の歌手を採用しているのも、よりフレッシュな印象を与えている。


◆結論

 本作が凄いのは純粋にエンタメやファンタジーとしても観る事は出来るが、テーマとしては「人間としての幸福を捨ててまで創造する気持ちを保ち続けられるか?」という純粋なクリエイティヴィに対する衝動と覚悟を突き付けてくる点である。
これは、何らかの制作に携わっている人ならば、必ずぶち当たる壁のようなもの。
本作を観終わって、色々なモノを持ち帰って貰いたい。

そのクオリティの高さから評判を呼び、7月から全国拡大ロードショーが決定。これから観られる機会がますます増えていく本作。

そんなわけで、ことあるごとに今後も観続けていくであろう作品がまた1本増えてしまったという感じ。

ちなみに本作のパンフでは、キャストやスタッフそれぞれが、好きな映画3本を挙げていたので、ここまで本作の感想を書き上げた筆者の好きな映画3本も書き記しておく。

好きな映画
◆ マッドマックス 怒りのデス・ロード
◆ 愛のむきだし
◆ ミッドナイト・ラン

それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。

©2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

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