見出し画像

シーシャバーの空に

久々に丸一日暇な休みができたので、友達と昼から遊んだ。

転職や副業的にやっている競馬AI予想など、このところなんだかんだと忙しく、昼間から誰かと遊ぶというのは、結構久しぶり。気づくと朝の8時には布団を出ていた。

朝から向かったのは阪神競馬場。夜の飲み会がメインのイベントだったが、昼から時間があるメンバーとは、競馬でもして飲み代を稼ごうと話をしていたのだった。

仁川にあるラーメン屋で腹ごしらえをして、いざ競馬場へ。初めて競馬をする友達もいたので、僕は意気揚々と競馬のシステムと魅力を解説した。

「ここがパドック。初めのうちは、名前と雰囲気で買っとけばええ。」

「この走ってるのが、返し馬。重視する必要はないが、ビビット来るかを感じろ!」

「お前その馬かよwふーんw」


そして最終レース。

スタンドには、3000円勝ちの初心者と、「助けてくれー!!」と叫ぶ僕が並んでいた。

その数秒後、ひざから崩れおち、天を仰ぎながら泣くことになるというのに。

こんな悲しいショーシャンク、見たくなかった。



「んで、犬井は勝ったん?AIとか作ってるんやろ?」

3時間後、飲み会から合流してきた友達に、僕は「いちまんえん!!!」と叫び続けていた。

大負けして未亡人のような顔をしてる僕を見かねた初心者が、勝った金で串カツをおごってくれたなんて、口が裂けても言えない。

ましてや僕は、自作で競馬AI迄作るような、漫画でハッキングをするタイプのオタク。そんな人間が、しっかり負けたなんて、言えるわけがない。でも嘘も付けないので、とりあえず金額を叫ぶにとどまっていた。

20種類のレモンチューハイが売りの店で、普通のレモンチューハイを5杯ほど注文したところで、次の店の話になった。

「なんか最近面白い事無いんよなぁ…なんか面白い事したいなぁ…」

僕が言った。

気づかないうちに、片腕が吹き飛んでるんじゃないかと思うくらい、僕を見る周りの目は、哀れみに満ちていた。そんな中で、競馬でちょっと勝った初心者の友達が、言った。

シーシャバーとか、どう?」

正直僕はどんなところかよくわからなかった。僕が持っているシーシャの知識は、タバコではない、煙を吐くくらいのもので、あとは多分日本語ではないことくらいは知っているが、それ以上引き出しには何も入っていなかった。

ただ僕もアラサーも超えた、いい年の男。この年になって新しい事というのも珍しいので、二つ返事でいくことになった。今思えば、彼からすれば勝者のテンションだったのかもしれない。


早速友達が見つけてくれたシーシャバーに行くと、うす暗い店内に、青や紫の間接照明がおしゃれな、とてもいい感じのバーだった。どうやらそこはゲームバーのような場所らしく、シーシャもあるが、お酒を飲みながらボードゲームやダーツをしている、20代前半くらいの若者が多かった。大声ではしゃぐわけでもなく、それぞれのテーブルで、若者が品よく楽しんでいるというような店。すぐにわかった。完全にアラサーの店ではない。

とりあえずシーシャを注文し、初めてのシーシャを吸った。ボコボコとフラスコがなると、すぐに口に甘い香りが広がった。吐き出すと大量の煙があたりに充満し、テーブルの真ん中の光が煙を照らして綺麗に光っている。

そんな中で僕たちは大声ではしゃぎまわった。すぐにタバコに火をつけてシーシャをそっちのけにして爆笑。シーシャをしこたま吸って、煙を一切出さずに真顔になって爆笑。おしゃれでシックな店内で、そこだけ鳥貴族の様だった。

渋谷のハロウィン問題の縮図のようなテーブルを作り出し、周りから白い目をされながら盛り上がっていると、突然隣から声を掛けられた。

「あの…お兄さん…」

見ると、20になったばかりのような男の子グループが、全員で僕たちの方を見ている。どうしよう。全裸で「申し訳ございませんでした!」とか言ったら、許してもらえるだろうか。

「よかったら…」

差し出される先を見ると、手にはデンモクがある。どうやらカラオケもできるらしく、カラオケを進めてきているようだった。

どうしてこんなアラサーグループと飲もうと思ったのかもわからないが、彼らは終始「僕らなんでも歌えるんで!」と言って、デンモクを進めてくる。僕たちも狼狽しながらも、何か歌わないと終われない空気が広がっている。

あまり時間をかけても盛り下がるだけだし、とりあえず世代問わず盛り上がれるような曲を歌うしかない。とりあえず僕は、B'zのウルトラソウルを入れた。

マツケンサンバのような老若男女感もなく、若者に合わせて無理している感もない、国民的アーティストのB'zで、中でも盛り上がるウルトラソウルだ。

わざわざ僕らに声をかけてきたということは、盛り上がりに欠けたということだろう。とりあえず「ウルトラソウッ!」と言って「ハイッ!」と言ってもらえれば、大盛り上がりする。そう思っていた。


初めて知った。

今の若者は、ウルトラソウルを、知らない。


苦笑いするデンモク兄ちゃん、「サビしか知らないんですよねぇ」と苦い顔をする金髪男子、携帯を取り出すパーマの男の子。店内には「ウルトラソウッ!」の後のいやな沈黙だけが漂っていた。まさか「一刻も早くシーシャを吸いたい」という日が来るなんて、思ってもいなかった。



「じゃ…じゃあ次はお兄さんの好きな曲歌ってよー」

蜂の巣のような僕らからデンモクを受け取ったお兄ちゃんは、「えぇー…」とひきつったような顔をして、静かにデンモクをたたいて曲を入れてくれました。入れた曲は、丸の内サディスティック。

2001年発売のウルトラソウルは知らなくて、1999年発売の丸の内サディスティックでは盛り上がる彼ら。そろそろ演歌でも聞き始めようかと思った、週末の夜でございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?