中村いぬ

大阪大学3回生 大学では情報工学を勉強していると見せかけて、大根を育てています。

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とんでもなく賢そうなエッセイを書く方法

今日はこちらの文章を賢そうにしていきたいと思います。 1. 難しい言葉を使う太陽が私たちをやさしく包む麗かな春の昼下がり、私の親友であるたかしとザリガニ採取に足を運んだ。彼らは、隙間を好む。岩と岩の間の、急流でさえその流れが届かないような僅かな隙間に、彼らは潜んでいる。私たちは、心の赴くまま、捕縛活動を行なった。 2. 話を脱線させる暗赤色のザリガニのハサミが、春の日差しにぬらぬらと照らされ、生命の鮮やかな躍動を感じさせた。その禍々しいハサミには、無数の粟粒があった。手に

    • 日常の習作

      公園の横を通り過ぎるとき、何も書いていない看板が見えた。その看板の下には白い花がたくさん咲いてあった。僕は墓のようだと思った。周りでは子供がいっぱい遊んでいた。 ある女の後ろ姿を見た。後ろ姿だけで、幼い性格であることがわかった。覚えているのはショートカットの襟足が乱れていたこと、ズボンを履いていたこと、その色がライトブルーだったこと。 ハンバーグを作った。ラップを剥がし、中に入っているひき肉を取り出す。プラスチックの容器に肉片が一つ残っているのが見えた。僕はそれを摘んで、

      • 【短歌】街のアボカド

        • 【短歌】朝ごはん暴走族

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          大学生、介護中

          関西空港から飛行機で一時間半。僕は新千歳空港に降り立った。大阪よりも一段と乾いて冷え込んだ空気が、山積みにされた白い恋人とともに僕を迎えてくれた。十月、北海道はもう冬だ。これからバスを乗り継ぎ乗り継ぎ、四時間かけて北海道の南端、浦河町へと向かう。 浦河町にある「べてるの家」は統合失調症の患者たちが共同で暮らしている施設である。そこでは患者自信が自分の症状を研究し、発表する「当事者研究」が行われている。「三度の飯よりミーティング」「安心して絶望できる人生」などの言葉とともに行

          大学生、介護中

          人生の守り方がわからない

          これやらん?って言われて、その場の勢いでやります!って言ってしまい、めちゃくちゃやりたくないという現象が毎回発生している。なんとかしたい。これは信頼問題にも関わってくるのだ。めちゃくちゃやりたくないことなんか、力入れてやれるわけがない。そのため、テキトーにやってしまい(または全くやらない)、あいつは物事に対してテキトーなやつだ、とか真剣に取り組んでいないとかいう評価を下されるのである。もちろんその評価は全く間違っていないが、最初の段階で断ることさえできたなら、僕はもっと幸福な

          人生の守り方がわからない

          ザリガニをまき散らす

          突然だが、あなたはザリガニを食べたことがあるだろうか。あのまずさといったらない。どこを食べてもドロの味がするし、醤油をかけてもポン酢をかけてもソースをかけてもドロの味がする。ドブ川のドロというドロをかき集めて5時間ぐらい煮込んだ上、隠し味に砂利と錆びた鉄を入れたものがザリガニという食べ物のレシピである。カレー味のうんことうんこ味のカレーどちらを食べるかという議論があるが、僕は第三候補にザリガニを追加したい。追加したとしても食べない。ザリガニを食べてみようぜと言い出したのは、あ

          ザリガニをまき散らす

          10年後、やりたいことはまだあるかな

          やりたいことが多過ぎて時間が足りない。Googleカレンダーの予定はとっくにパンパンだが、これの3倍ぐらいやりたいことがある。21歳の自分は今何がやりたいのか、できる限りここに残しておこうと思う。10年後、腹のたるみを気にするようになってきた僕はこれを楽しく読めるだろうか。 文章を書きたい。解像度が高くて美しい文学的な文章も書きたいし、くだらなすぎて笑えてくる文章も書きたい。本を読み出したのはいつだったか。中学校の夏休み、肌寒いほど冷房の効いた本屋で村上春樹の「海辺のカフカ

          10年後、やりたいことはまだあるかな

          筒井と青春

          「500円」 「いや、200円だ」 「商売を馬鹿にしているのか。500円は出してもらうぞ」 「なら間をとって400円だ、400円ならすぐ買う」 熱を帯びた口調で値段交渉をする2人の男がある。 どちらも一歩も引けを取らない、熾烈な争いである。 男たちの手元に焦点を当ててみる。みるとスマホが一人の男の手に握られている。画面は真っ黒だが、2人の男はそれを見つめている。どうやら取引の対象は、このスマホの中にあるようだ。 「わかった、400円だ。400円で手を打とう。」

          筒井と青春

          自己啓発と僕とおかん

          これはかの有名な詩人、谷川俊太郎の一作から抜粋したものではなく、僕がある特定の人々についてささげた詩である。 この世には「意識高い系」と呼ばれる人たちがいる。 とにかく自己顕示欲がとんでもなく高い奴らの集まりである。SNSで個人が発信できる時代になり、その数は次第に増えていった。前なんか、あるひとのSNSのプロフィールを読んで「どひゃあ」と言って尻もちをついてしまった。大体こんな感じだった。 ごちゃごちゃうるせえ。そしてスタミナ太郎の肉のように薄っぺらい。あの肉は最初食

          自己啓発と僕とおかん

          ナナメの夕暮れをつくろう

          オードリー若林「ナナメの夕暮れ」を読んだ。 半年前に一回読んだことがあるが、もう一回読んでもやっぱりいい本だった。 この本が面白い理由は2つあると思う。1つめ、自分の弱点を開示し、それが自分の弱みであると認めている点。2つめ、好き、嫌いという自分の感情を大切にしている点。 思えば自分に足りないのはその2つかもしれない。 「お前、誰かに言われたことをそのまま流されてやってて、自分の好き嫌いの感情わかってないで。ほんでそれで周りに迷惑かけてるで」 自分のケツに3mぐらいの

          ナナメの夕暮れをつくろう

          【絵本】ながいねこ

          【絵本】ながいねこ

          主婦はネギだけを買わない

          買い物帰りのおばさんが颯爽と自転車で駆けていく。 電動自転車にまたがり、待つ子供のために家路を急ぐ。 取り付けられた2つのチャイルドシートは城の如し、その自転車の大きさが母親の偉大さである。 見ると、前カゴにははみ出した2つの長ネギ。俺はまだ生えているんだと言わんばかりに、買い物袋から夕暮れの景色へと顔を覗かせている。私たちが見えるのは、この2本のネギだけである。落ちかけた太陽の光を、今日最後に浴びるのはこの2本のネギだけである。同じ買い物袋の中には、2割引きの豚こま肉、ち

          主婦はネギだけを買わない

          影が大きいので

          ぼくは強い光を手に入れた それは蝋燭のように頼りなく しかし強い光だった どうぞどうぞ 杖をつくあの人を照らしてあげよう 足元がよく見える はげの人も照らしてあげよう 発電できるかもしれない 冷たい北風が吹いて 光ははげの足もとにぽとりと落ちた するとそれは 強くなったり弱くなったりしながら 揺れて みるみるうちに影に変わった 影はもうひとりのはげになった 真っ黒で輪郭も掴めないが 頭を見るとはげだとわかった 「なんで俺は照らしてくれないんだ」 彼はそういった ぼくが

          影が大きいので

          私はおこている

          私はおこている。 1時間後に、テストがある。 私はそれをほったらかして、この文章を書いている。 なぜなら、私はおこているからだ。 テスト勉強の最中、人間に対する冒涜を垣間見た。 本来、幸福であるはずの人間の生を、脅かす代物が発見されたのだ。 それは、授業資料の中で見つけられた。 以下に画像を添付するが、何しろ危険な文書なので注意してみてほしい。 キレそう なんでこんなことをしなくてはならないのか、こんなことをして何になるのか。 自分が怒っているのは、この数式を変

          私はおこている

          【小説】卵の殻から生まれたい

          もし人間が卵の殻を突き破って生まれてくるのであれば、こんなに孤独は感じないのではないか。 最初からお母さんの温もり、体を触れ合わせることの幸福を知ってしまったから、人はこんなことになるんだろうなとか思いながら、私は運ばれてきた卵かけごはん用の卵を、テーブルでこんこんと叩く。 もし、殻に包まれて生まれてくるんやったら、幸せだろうか。お母さんの温もりはとうに卒業して、殻に包まれている間に、よっしゃ自分一人で生きなあかん、ほんならひとつがんばってみよかと覚悟できるのだろうか。

          【小説】卵の殻から生まれたい