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サンダルを買いに行こうとした日の話

毎日朝7時くらいにセミの鳴き声と暑さで目を覚ますようになってきて、本格的に夏の到来を意識し始めたので、今年履くサンダルでも買うかと思い立った。

ナイキにしようか、アディダスにしようか、スポーツメーカー以外にも良いデザインの気に入るものがあれば買いたいなと思って、財布とスマホだけを持って家を出た。

少しだけ歩いて、何かがおかしいことに気がついた。風景がいつもと違う。違うというかなんというか、同じ建物が延々と続いている。道路を挟んだ両脇に、見渡す限り同じ建物が並んでいるのだ。

それらの建物は何かの店のようで、看板を見ると「シャトレーゼ」と書いていた。地元にいた時によくアイスやケーキを買いに行ったあのシャトレーゼだ。何十件というシャトレーゼが立ち並んでいて、シャトレーゼ以外の建物は見えなかった。その内の一件に立ち寄り店内を覗いてみると、様々なケーキが並んでいたが、店員も客も、人は一人もいないようだった。

夢を見ているのかもしれない、と思った。とりあえず引き返して家に帰った方が良い。そう思って、来た道を逆に辿っていった。しかし、いつまで歩いても家には着かなかった。景色は全く変わらない。どこまでも続いている一本道の両脇に、地平線のあたりまでシャトレーゼが何件も立ち並んでいる。

さすがに不安と焦りを感じた僕は、とりあえずGoogleマップを開こうと思ってスマホを手に取った。しかし、Googleマップのアイコンが無い。というか、アプリのアイコンが全然無い。唯一あったのは、カレンダーアプリのアイコンだけだった。どういうことなのかは理解できなかったが、とりあえずそのカレンダーアプリのアイコンをタップした。

画面には、こう表示されていた。



31月68425709580541139841日 淵曜日



なんだこの日付は。訳が分からない。それに淵曜日ってなんなんだ。もしかすると、みんなは今日普通に土曜日の朝に目覚めたのに、自分だけが淵曜日に目覚めてしまったのかもしれない。目の前の不可解な現象に、思わず眉をひそめてしまった。

しばらくして、画面に何かの影がかかって暗くなった。視線を上げると、恐ろしいものがそこにいた。




ヤギである。

身長が3.5メートルはあろうかという、巨大なヤギがそこにいた。

円柱のように太く縦に伸びた胴体から、虫のように細長い手足が不規則に10本から15本くらい生えていて、それぞれが独立した意思を持っているかのように関節を曲げたり伸ばしたりしていた。

見上げると、ヤギと目が合った。縦に伸びた虹彩が何とも不気味で、背筋を寒気が伝うのが分かった。ヤギはニタァと気味の悪い笑みを浮かべると、こう言った。



「evil......」



その瞬間、視界がぐるぐると高速で回転し始めた。どちらが上でどちらが下なのか、もう分からない。ただ、得体の知れない巨大なヤギだけが視界の中で回転していた。どこで間違ってしまったんだろうか。何がこの結果を招いてしまったのだろうか。何も分からない。僕は全てを諦めて、目を閉じることにした。暗闇だけが、いつまでもいつまでも続いていた。














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