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Writone(ライトーン)はVoice Bookの大衆プロダクトになり得るか

先日、Writoneというサービスが正式リリースされた。

かいつまんで言うと、作家が公開したネット小説作品を声優が朗読・演じてVoice Bookにし、売り出すサービスだ。
ここで重要なのは、作家も声優も、プロ・アマを問わないことだ。
面白いプロダクトだと思い、正式リリースと同時に作家として作品登録させていただいた。
今後の期待も込めて、この新しいプロダクトであるWritoneの未来について語りたいと思う。

INDEX
1. 現在におけるVoice Bookサービスと問題点
2. Writoneの立ち位置と未来にある問題
3. Writoneの現在の問題
4. 自分からのWritoneへの提案
5. 作家としてWritoneに対して出来ること

1. 現在におけるVoice Bookサービスと問題点

ITサービスで聞けるVoice Book、最近であればAmazonが提供しているAudibleが有名だろうか。

企業側で作成したVoice Bookを月額1,500円で聴き放題を提供しているトンデモプロダクトである。
ライトノベルに至っては、KADOKAWAがKADOKAWAパワーマネーを投入し、有名声優に一冊まるごと朗読させるという暴挙っぷりだ。
ゼロの使い魔一巻をくぎゅうに読ませるなど、狂気の沙汰でしかない。
しかし、普及に苦戦しているのかわからないが、Amazonが必死にキャンペーンを行っている。(無料期間で本を聞くとAmazonポイントを進呈とか)

普及していない原因はいろいろとあるだろう。
AmazonサービスなのにPrime会員ならこのVoice Bookは無料などのコンテンツが存在しないとか、一般層に魅力を伝え切れていないとか、音声朗読サービスなのに視覚障害者でも使えるようなコンテンツになっていないとか。

ただ、自分が試用して感じた問題点は、「エンターテイメントコンテンツとして長すぎる」だった。

ライトノベル一冊(10万字ぐらい)につき5時間ぐらい掛かるので、月10冊消費するのも一苦労だった覚えがある。

通勤時間に片道二時間ほどかかる環境であればかなりのヘビーユーザーになれそうだが(そもそもそんな職場は転職した方が良いだろうという話は置いておき)、ゲームやテレビ、音楽とは違って1コンテンツを終わらせるための占有時間が長いのだ。

さらに言えば、Voice Bookの問題として、音楽とは違い、何か作業しながら聞くということが難しい。
自分も運転や仕事をしながら聞いたのだが、本の内容を理解しつつ作業をすることは困難に思えた。音楽とは違い、本というモノは時系列で理解しなければ、エンターテイメントとして破綻するからだ。

結局、自分はAudibleは魅力的なコンテンツだったが、試用期間以上に使おうとは思わなかった。

つまり、Voice Bookサービスとは「読書体験を冗長にしたもの」なのだ。

時間がないニッポンの現代人において、この「時間を食う」サービスはよほどのバリューが無い限り、使われること自体が難しいのではないだろうか。
そういう意味では、KADOKAWAの戦略は正しいと言える。
だって聞きたくなるじゃん、くぎゅうのゼロの使い魔一巻とか。

2. Writoneの立ち位置と未来にある問題

Amazonでも苦労しているこのVoice Book界に切り込んでいこうというのが、Writoneというサービスの立ち位置だろう。
その発想がすでに面白く、それ故に大航海に出たばかりのサービスとも言える。開発をしているLyactも手探りの段階なのが触ってみても分かる。

Writoneの特徴は、通常なら面倒なVoice Book化をスマホで簡単に行え、発表から将来は収益化も可能な点だ。
声優として食べていける確率が0.1%と言う声優界において、スマホさえあれば、自らの声で収益を出せる機会が増えるのはとても魅力的だ。
さらに、より収益化が難しいアマチュア作家にも、原稿料名目で売上手数料が入るという嬉しい仕様である。
この手軽さがWritoneの重要な要素だと思う。

さて、WritoneもVoice Bookの根本的な問題「読書体験を冗長にしたもの」を孕んでいる。しかも、こちらはこの「手軽さ」がより顕著になるだろう。

なぜなら、朗読する声優さんは、聞く側よりも時間を消費するからだ。

今までは朗読する仕事に対してギャラが発生していたため、仕事としてのモチベーションが存在したが、WritoneでVoice Bookを作るには、声優のモチベ力依存となる。
長時間録音したのに売り上げがないということはざらにあるだろう。
もちろん、発表して感想を貰える環境ならば、無料でもモチベーションは続くだろう。
だが、時間をかけ、苦労したのに評価されないとなると、モチベーションは上がらない。
結果、声優ユーザが少なくなり、Voice Bookも作られないままとなりうる。

つまり、Writoneというサービスは、このVoice Bookの根本的な問題をなんらかの方法で解決しないかぎり、アクティブユーザを得られずにサービスが終わってしまう可能性があるのだ。

3. Writoneにある現在の問題

Writoneの現状は、正式サービスレベル未満だ。
声優のVoice Book作成機能に重点を置きすぎて、作家・聴者の実装が間に合っていない。実にあべこべである。
iOSAppはTestFlightでのテスト版配信で、WEB版も動作が不安定。
正直、正式サービスリリースをしたのは時期尚早と言わざるを得ない。
新しいコンテンツのお披露目が名目なのだろうが、それにしても「開発中」の文字が多いサービスだ。
自分もIT技術者の端くれとして、三ヶ月でここまで作ったのは評価したいが、一般的な消費者からいえば、Webサービスやアプリは第一印象で決定してしまう。使いづらいと思えば、そこでアンインストールする。
ユーザー頼みのサービスにおいて、この問題は致命的だ。今すぐにでも正式サービスリリースでなく、ベータ版(進捗的にアルファ版)に訂正したほうがいいだろう。
というか音声アプリなんだから、iOS版でBluetoothオーディオ接続ぐらい出来ないとヤバイと思う。

小説の取り込み方法もよろしくはない。
小説家になろうサイト、カクヨムサイトのAPIを使用しての取り込みは確かに作家側からは楽であるが、それはWritoneの首を絞めることになる。
小説家になろうでは、中国や韓国への転載や、転載後の広告による収益化が問題となった。
取り込みがID依存であれば、第三者が取り込むケースは必ず出るだろう。
今後の収益化機能実装において、この問題はいずれ発生する。
一応規約には、Writoneは作品に対する責任はユーザにあるとしているが、機能として実装してしまった以上、責任の所在を問われることは免れない。
他の小説サイトからの転載は、あくまで作家側の手作業でやらせるべきなのだ。

また、Writoneの執筆機能には、ルビ振り記法が明示されていない。
されていないのにこのアナウンスが入った。

さすがに作家側のコンテンツを蔑ろにしているのではないか。
せめて小説家になろうサイトのルビ振りをサポートするべきだ。何のための取り込み機能なのだろう。
これだけで作家側のモチベーションは下げ下げである。
なぜなら、ルビも作家にとって重要な表現の場なのだから。
固有名詞でない漢字の読み方は声優側で調べて欲しい。
(もちろん、固有名詞には読み仮名ルビは付けるべきだが)

現状の問題はこれくらいにしておこう。
今までの話は、開発途中のサービスによくある話だし。

4. 自分からのWritoneへの提案

建設的な話をしよう。

まず、現状のコンテンツが小説家になろう・カクヨムのラッパーコンテンツになっていることはまずい。今すぐにでも取り込み機能をやめるべきだ。
これは前述の権利関係以外にも、二つほど理由がある。
まず、上記の小説コンテンツで人気の長編はWritoneと非常に相性が悪い。
10巻に届くような長編小説のVoice Book化は無理と言っていいだろう。すでにその傾向は出ていて、短編小説のVoice Bookは多いが、長編になると途端に少なくなる。
後述するが、WritoneにはWritoneのコンテンツにあった小説を書くべきだろう。
また、カテゴリも小説家になろう・カクヨムのラッパーになっていることも問題だ。
あのカテゴリは各サイトに特化しているのであって、Writoneのためのカテゴリではない。
この問題は自分達のサービスを熟慮できていない証左になりかねない。コンテンツサービスとしては致命的だろう。
投稿型コンテンツのカテゴリというのは、サービス側が欲しい内容を示しているモノであり、むやみに他のサービスから持ってくるべきものではない。
小説家になろうのように、ユーザ側から発生したカテゴリを取り込むのは、自分達の欲しいものを示してからでも遅くはないだろう。

サービスについては継続的に改善をしてほしい。
ルビ振りは早めにお願い。
iOS版は早くBluetoothオーディオに対応して。切実。

後半は駆け足だったが、現状の要望は以上だ。

5. 作家としてWritoneに対して出来ること

さて、ここまでWritoneの文句ばかりを書いてしまった感があるので、作家として出来ることをまとめようと思う。

まず、Voice Book化を意識して作品を書くことが重要だと思う。
前述した、「Writoneのコンテンツにあった小説」の話だ。
大体の作品は、自作を朗読して確認する人でもない限り、朗読のしやすさを考慮していないだろう。
また、Voice Bookの冗長化を招いているのは「地の文」である。
小説は説明してもし足りないほど情報が欠落したメディアだ。
文字上で表現できうる限りの表現をしようとする。
しかし、Voice Bookでは声優さんが演じてくれると言う点で違う。
声と言うモノは、それだけで文字の何倍という情報を聴者に届けてくれるモノだ。その分だけ、地の文を減らせることが出来たら、冗長化問題が幾分減るかもしれない。Voice Bookもテンポがよくなり、聴者のストレスも少なくなる。
究極的には、ボイスドラマ脚本のアナウンス程度まで減ることになるだろうが、まずは脚本と小説の間を目指してみたい。
もちろん、声優側から作家へのフィードバックがあれば、より洗練されたメソッドになるだろう。
そして、作家と声優の試行錯誤の末にWritoneでしか聞けない作品群が増えれば、Writoneのコンテンツが確立出来たと言えるだろう。

まとめ
いろいろ偉そうに書いたけど、Writoneは走り始めたばかりなので、温かい気持ちで応援します。
Writone用の新作書くから待っててね。

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