『高校数学のロードマップ』A_2(数編)1『自然数と整数と有理数』
(2019/11/27差し替え)
(※注:「理系に進学したいが数学が苦手な知人の高校生に、数学の良さを教える」というミッションのための草稿を、あらかじめWebに掲載して、ダメなところを指摘してもらおう、という趣旨の記事です)
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〇自然数と整数と有理数
●集合ベースから数ベースへ
・集合と写像と演算と数のことは、高校数学では何もかもこれらを使って考えることになるので、忘れないようにして、ときどき読み返すようにしておいてください。
・しかし、ここから出て来る話の主役は、集合から、小学校算数でもお馴染みの、数にバトンタッチします。
●数から線までのロードマップと重要な中間生成物
・小学校算数では、数と図形を主に扱ったのでした。
この教材でも、今しばらくは数が主役になりますが、後で線が主役になる場面になります。
だいたい
!自然数(等)→(自然数等の)数列→総和→極限→実数(等)→線
というロードマップだと思ってください。(それぞれのキーワードが何を意味しているかは、後で説明します。)
●数を扱うジャンル・数論
・以前も書きましたが、数を扱うジャンルを数論(すうろん)と言います。もちろんこれで数を扱えます。数論は代数学の一部門として扱われることが多いですね。(もっと限定的な意味で使う人もいますが、この教材ではこの意味で使います。ご理解ください。)
●全ての基本の自然数
・数のレベルは、どんどんでかくレベルアップすることができます。
高校数学では、数のレベルは5レベル覚えておけば便利です。自然数(しぜんすう)、整数(せいすう)、有理数(ゆうりすう)、実数(じっすう)、複素数(ふくそすう)です。
羅列すると、
数レベル0.順序数
数レベル1.自然数
数レベル2.整数
数レベル3.有理数
数レベル4.実数
数レベル5.複素数
となります。
(順序数についてはI.集合編の自然数の章でごく簡単に説明しましたが、高校数学では出て来ませんので、この教材では順序数についての説明を飛ばします。)
・自然数についてはI.集合編の自然数の章でごく簡単に説明しましたが、もう少し詳しい話をします。(具体的には、なぜ自然数よりレベルの高い数が必要かの話をします。)
・自然数の何が困るというと、自然数は足し算と掛け算では悩むことがありませんが、引き算と割り算において部分的に問題を抱えています。
(本当はもっとたくさん問題を抱えているのですが、それらについてはまた実数や複素数の章で説明します。)
例えば、引き算の話をすると、自然数のレベルの中で”1-2=?”みたいな演算を考えると、そんな数は自然数のレベルの中にはない、ということがわかってきます。
そう考えると、「自由に引き算ができるようにしたいな」というニーズが出てきます。そのため、自由に引き算ができるような、次の数のレベルが仮にあると考えたくなります。その数のレベルが整数です。
・もう一つ、念のために書いておきます。
自然数は、演算能力(代数的構造)の他に、順序能力(順序的構造)も持っています。
自然数の順序的構造とは、具体的には大小関係(だいしょうかんけい)のことです。
大小関係を持つものとしては、自然数以上実数以下のレベルの数があります。(ぎょっとしますが、レベル5の複素数以上のレベルの数になると、大小関係は部分的に機能しなくなります。後で説明します。)
例えば、自然数においては、大小関係のある自然数同士で、大きい自然数から小さい自然数の引き算が出来ます。2<3で、3-2=1ですね。
●引き算で悩まない整数
・整数とは…,-2,-1,0,1,2,…などの数です。整数とは、自然数を、引き算で悩まないように強化したレベルの数であると考えて下さい。例えば、”1-2=-1”です。
・なお、自然数で出来る、ありとあらゆる演算は、引き算で作った整数でも常に出来ます。不思議な話ではあるのですが、そこは安心して下さい。
逆に、整数で出来る引き算の一部は、自然数では出来ません。具体的には、数の前にマイナスの符号が出て来るものが入っていると、それはもう自然数の演算ではなくなるのでした。
・整数は、割り算においては、いまだに部分的に問題を抱えています。例えば、整数のレベルで”4÷7=?”みたいな計算を考えると、そんな数は(自然数や)整数のレベルの中にはない、ということがわかってきます。
割り算で悩まないようにしたレベルが欲しくなりますね。その数のレベルが有理数です。
・なお、引き算で作った整数で出来る、ありとあらゆる演算は、割り算で作った有理数でも常に出来ます。不思議な話ではあるのですが、そこは安心して下さい。
逆に、有理数で出来る割り算の一部は、整数では出来ない、というのは説明した通りです。
・もう一つ、念のために書いておきます。
0は整数で初めて出てきますが、”÷0”という割り算は、整数以上のレベルでも、例えば有理数になったとしても、常に出来ません。
それにはちゃんとした理由があります。(が、長くなるので、参考編で説明します。)
●割り算で悩まない有理数
・有理数とは、-2/7, -1/5. 3/10, 1.25 などの数です。(通常の文書では、書き方として、分数はスラッシュ”/”で書いてよいことになっています。これを見たら分数のことかもしれません。慣れて下さい。)
有理数とは、整数を、割り算で悩まないように強化したレベルの数だと考えて下さい。
・全ての有理数は分数で表せます。分数を何のために勉強したのかというと、実は有理数を扱うためです。分数としては、例えば、-1/5は有理数です。
・また、有限小数は、10進法に慣れている私たちが、有理数の一部を扱うために使えます。有限小数としては、例えば、1.25=1+(1/10×2)+(1/100×5)です。これは有理数の一部です。
(ただし、有限小数は、1/100…0で割り切れる数を扱うには向いていますが、そうでない数は扱えません。)
・じゃあ有限小数ではない無限小数はいったいどのようなものなのかという話ですが、循環小数である無限小数と、循環小数でない無限小数で、話が違ってきます。
・とある理由により、循環小数は有理数です。(理由については、大学でやることなので、ここでは説明しません。)
循環小数とは、例えば、1/7=0142857142857…ですね。
・有限小数でも循環小数でない無限小数は、有理数のレベルにおいては居場所がありません。
・さて、有理数ではない無限小数も、もちろん数です。しかし、自然数でも整数でも有理数でもない、ということになります。無限小数による不十分な記述に頼らざるを得ない、そういう有理数ではない数を無理数(むりすう)と言います。
・有理数を四則演算しても、無理数ができることはありません。有理数を四則演算したら必ず何かの有理数になります。非常に整った性質であり、もちろん演算の時に非常に便利です。
・しかし、無理数は、四則演算の五つ目とも呼ばれるほど重要な演算である冪乗(べきじょう)で出てきてしまうことがあります。(この呼び方自体は高校数学ではやらないかもしれませんが、一応書きます。)
冪乗とは、ある数a自身をn回掛けて作るaのn乗、正式には累乗(るいじょう)を作る演算です。中学数学で習っているのではないでしょうか。あれです。
また、同じ要領で、累乗根(るいじょうこん。英語のrootという呼び方で習っているかと思います。n=2のときは平方根(へいほうこん)と呼びます。これもやはり中学数学で習っていると思います)自身をn回かけて数aを作る演算があります。これも同じく冪乗と呼びます。
累乗根は、ほとんどが有理数ではありません。無理数です。例としては、√2は有理数じゃないんです。分数だけで書くことができないんですね。
(ちなみに√9=3です。単純ですね。
これは、単純な数である3の2乗が9であり、先に書いた累乗根はこのような形で累乗と表裏一体の関係にありますので、ひっくり返した演算をした時に単純な形になるのです。
普通は、累乗と累乗根の演算を、統一的に冪乗として扱います。)
・無限小数による不十分な記述に頼らざるを得ないような数学のキーワードの例として、今書いた累乗根のほとんどや、円周率、三角関数、指数関数(しすうかんすう)、対数関数(たいすうかんすう)等があります。(指数関数と対数関数については実数の章で、円周率と三角関数はV.積分編で説明します。)これらは無理数ですが、今後使うことが多いはずです。
有理数の、次のレベルである実数は、有理数も無理数も扱えます。こうして、実数というレベルが必要になってくる、という訳です。
・実数と複素数の話は、後で説明します。II.数編の中ですが、後半になるので、しばらくお待ち下さい。
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