『高校数学のロードマップ』A_4(関数編)2『ベクトルとベクトル空間』

(2019/11/27差し替え)

(※注:「理系に進学したいが数学が苦手な知人の高校生に、数学の良さを教える」というミッションのための草稿を、あらかじめWebに掲載して、ダメなところを指摘してもらおう、という趣旨の記事です)

(2020/3/11追記:本当はここで行列の話をしないとインチキだと思うのですが、それについては物理個人雑誌の際に追記したいと思います。ここでは追記で注意喚起するに留めます)

(2022/5/26追記)
このA_4の記事はことさら使用に堪えません。今ではベクトルと微分の順序がおかしいと思います。論点先取をやっている疑いが極めて強い。とはいえもう納品してしまったので(そしてこの高校生は今は国立大学に見事合格してしまったので)今更しょうがないんですよね…困ったな。

***

〇ベクトルとベクトル空間

●曲線をたくさんの直線の矢印の組み合わせで表せたら便利なのではないか

・それにしても、曲線はいろいろ面倒くさいので、面倒くさくないたくさんの直線の組み合わせで、似たものと見なして置き換えたら、その各点で値が簡単に求められるので、便利なんじゃないか。という発想があります。
 さっきの微分の話を思い出して欲しいのですが、各点で、それぞれの微分係数を持つ直線を、ものすごくたくさん並べていったら、実際にこれが出来るんですね。
 面倒を避けるために、直線は全部右向きの矢印とします。これを際限なく並べたら、右向きに進む曲線を置き換えられる。これはどうやらやり方としてちゃんと行けそうなのではないか。
・そんな訳で、向きを付けた直線を、いっぱいくっつけて、目を細めて曲線と同一視します。
あちこちで直線と直線が衝突する? じゃあその直線はそこで区切りましょう。そうなると線分になってしまいますが、まあいいでしょう。
要はこれで、折れ曲がった線分まみれの、疑似的な曲線が出来るという寸法です。
この、個々の線分の矢印を、ベクトル(vector)といいます。

●数と違ってベクトルはちょっとクセが強い

ベクトルは空間能力と演算能力を持つという特徴があります。たった今、空間能力の話はしましたが、要するに、演算能力もあるので、なんと足し算や掛け算ができます。(図形と同じく、普通の数ではないのに演算できるものの一つです。ぎょっとするかもしれませんが、慣れましょう。)
複数のベクトルが同じ向きだったら、向きが変わらないので、少なくとも足し算はものすごく簡単です。最終的にはそれはただの長い線分と変わりません。
・さてここから、面倒ですが当然避けがたい話として、「向きが違っていた時にどうなるのか」という問題が出て来ます。空間能力が演算能力に影響を及ぼしてしまうんですね。こうなると、ベクトルの足し算や掛け算には、ある種の工夫が必要になります。
逆に言えば、その工夫を適切にすれば、ベクトルの足し算や掛け算は正確に出来るという話でもあり、実はここも厳密に求める方法があります。授業で出てきたら頑張って覚えておきましょう。

●ベクトルが動き回った後の空間にはいくつかの特徴がある

・さっき書きました、空間能力と演算能力を持つベクトルと、その足し算や掛け算で記述できるような空間のことを、ベクトル空間、あるいは線形空間(せんけいくうかん)といいます。ベクトルが動き回った後の軌跡をかき集めた空間、という風に考えて下さい。
また、ベクトルやベクトル空間を研究する数学のジャンルを、線形代数学(せんけいだいすうがく)といいます。空間能力と演算能力のうち、演算に着目している場合、代数学の一種として考えられる、ということです。
(厳密な説明を飛ばして大雑把に言うと、「直線や線分っぽい真っすぐな」性質のことを、数学の用語で「線形の(linear)」と呼びます。ベクトルの代数学(algebra)では、数ではなく線分を演算するので、線形の代数学、線形代数学(linear algebra)と呼ばれるのです。)

・ベクトル空間は座標を持ち、また小学校算数でやるような平行が成り立ちます。便利ですね。
ということで、「これを使えば、面の上に直線を引いて、三角形や四角形などの「馴染み深い図形」が描けるんじゃないか?」と思ってしまいます。
しかし、そのためには、満たさなければならない条件がまだいくつかあるのです。その話をこれからします。

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