カヤックで帰省するツアー(前編)
私の地元は吉野川市というところで,名前の通り町のすぐそばに吉野川が通っている。
吉野川市の北側を流れる大きな川が吉野川。
徳島県を東西にぶった切り,紀伊水道に流れ注ぐ。
ある時ふとした拍子に気付いた。
もしかしたら鳴門から地元まで水路で繋がっているのでは?
鳴門は今私が住んでいるところ。
もし繋がればカヤックで帰省が可能ということだ。
Googleマップで川を辿ってみた。
繋がった。
距離は54km。
これまで1日に漕いだ最長距離は大毛島一周の18kmなので,計算上はちょうど3日で辿り着ける。
水路で繋がっていることがわかり,漕げることも分かっているのでもはやこの旅に挑戦的な要素は無い。
そうすると,もはやこれを行うことの何が面白いのか自分でも分からなくなった。
まぁでも,せっかく思い付いたのだから。
とりあえずやってみよう。
沢木耕太郎の言葉を借りるならば「まるで何の意味もなく,誰にでも可能で,しかしおよそ酔狂な奴でなくてはしそうにないこと」がしてみたかったのかもしれない。
酔狂という言葉には何かロマンを感じるのだ。
ただ,水路で繋がってるとはいえカヤックのみで通れるわけではない。計画しているルートだと地元までに堰が2つあり,こればかりは陸路で迂回する必要がある。
吉野川の代表的な堰の1つ,第十堰。
(もう1つは柿原堰)
地図で確認してみるがどこから迂回できるのかよくわからない。これはもう現場で考えることにした。勢いだ勢い。
どうでもいい話だが,今回のツアーは自分の中で「カヤックで帰省するツアー」というタイトルをつけた。したがって「鳴門の家から実家までカヤックと徒歩で帰ること」をルールとした。
持物はキャンプ用具一式と以下の食料と水。
気が付けばカップ麺がうどんばかりになってしまった。隣接するうどん県の影響だろうか。
さて当日。
家を出てしばらく歩き,子鳴門海峡の適当なところでカヤックを下ろす。
これから何が楽しくて54kmも漕がなければいけないのかと憂鬱になる。皮肉なことに天気は快晴で絶好のカヤック日和だった。
いよいよ出発。
まずは子鳴門橋をくぐり抜け,撫養川を目指す。
事前に調べた通り,この時間は引潮で潮流は進行方向だった。
子鳴門海峡は流れが速いので逆向きだと少々骨が折れたかもしれない。
なんなく子鳴門筋から撫養川に入ったあとは
ひたすら南下すると,旧吉野川に入ることが出来る。
順調に思えたがここで早速問題が生じた。
旧吉野川には旧吉野川河口堰があったのだ。完全に見逃していた。私の人生は見逃してばかりだ。
まぁ事前に知っていようがいまいがここで諦める訳にもいかないし,堰の越え方もノープランである。
適当に上がれそうなところを探す。
あまりよい場所が見つからず,結局近くのカキだらけの岩場から上がることにした。カキで船体布を傷付けないよう注意を払う。
しかし,この時事故が。
船から降りた際,うっかり足を滑らせてしまった。
転んだ瞬間分かる。あぁどこかケガしてるなと。
案の定,足の裏を切った。
こんな序盤でケガをしてしまいげんなりする。
カヤックが切り裂かれるのに比べたら足の裏をちょっと切るくらい,と自分に言い聞かせるしかなかった。
陸に上がったものの堰の先にカヤックを下ろせる所がなく,500m歩く羽目になってしまった。
カヤックは15kg程度で,荷物も10kgはなく運べない距離ではないが,足のケガもあったためなかなかに疲れた。
そこから吉野川までは漕いでいけるはずなのでぼちぼち休憩しながら進んでいく。
旧吉野川から鍋川という小さな川を抜けると,今切川に出る。
今切川から榎瀬江湖川というこれまた小さな川を抜けるとようやく吉野川。
これまで通ってきた川に比べると圧倒的に広い。
吉野川は幼少期からさんざん見てきているが
この時ばかりはいつもと見え方が異なり,感動すら覚えた。
この時点でスタートから約20km。
1日の目標は既に達成しているがまだ時刻は14:00。
体力的にはまだ漕げる。
さすがにここで止めては時間が余ってしまうので
体力の持つ限り漕ぐことにした。
結局18:00まで漕ぎ,上述の第十堰前に到着。
キリも良いのでここで夕飯。
飲料水は貴重なので川の水を使ってカップうどんを食う。
知ってる人は知ってるだろうが,第十堰下流は見た目にはあまり綺麗でない。
しかし水は水。加熱すれば一緒だ。
京うどん第十堰味を食っていると周りの陸が徐々に浸水していることに気付いた。
潮が上がっているのだ。
このチャンスを逃してはいけない。
水位が高くなれば楽に堰を越えられるかもしれないのだ。
慌てて荷物を片付け,魚道横にカヤックをつけると楽に堰に上がることができた。
堰の真ん中を突っ切るかたちでいとも簡単に突破。
たったの60mの徒歩で通過。
これはでかい!
しばらく進んだ河原で野宿することに。
パイナップルがうまい。沁みる。
体感でHPが130回復した。
さて,この日の漕行距離はというと,
丁度30km!
勢いで半分を超えてしまった。
1日18kmしか漕いだことのない初心者カヤッカーの私でも意外と漕げるものなんだなぁと感慨に耽る。
因みに私はテントを持ってきていなかったので
カヤックのなかで寝た。通報されなくて良かった。
後半へ続く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?