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『某』を読んだ。

名前も性別も記憶も持たない、何者でもない存在である主人公は様々な人物に変化することができる。そして、周囲の人々との関わりの中で「自分が何者か」を知ろうとする。

章ごとに主人公の性格が変わり、登場人物と舞台が変わる。リセットされるわけではなく、じわりじわりと主人公が何かを得て(あるいは手放し)自分を形作っていく。

主人公が変化した様々な人物を通して語られる出会いや別れは淡々としていて、どこかよそよそしさすら感じさせる。それでも読み進めるごとに、少しずつ寂しさが満たされていくような不思議な温もりを感じさせる物語だった。

「某」のように違う人間になることはないが、私もこれまでの人生で少なからず変化を試みてきた。その変化を定着させ、今日の自分を形作ってきたのは、その時その時の周りの人々との繋がりや隔たりだったのだろうと思う。

私は私でいられることを精一杯大切にしたいと思った。

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