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この愛はエゴなのか?映画「エゴイスト」

私はLGBTQではない。普通に生きて、たまたま独身の、恋愛体質ではない今時の人間である。誰かと結婚すると思っていた20代も過ぎ、あっという間30代も終わりに差し掛かったいま、彼らが家族や"普通の人"たちからの純粋な質問を、濁して返すさまに少しだけ自分を重ねる。

彼らは、自分のセクシュアリティを肉親に明かしていない。地元から逃げるように東京に出てきた斉藤(鈴木亮平)と母のために働く中村龍太(宮沢氷魚)。

二人が知り合ってから、たんたんと当たり前のように恋が進む。斉藤は龍太の事情を知り、何かと世話を焼き始める。龍太は龍太で、自分が抱えているもの、自分はこうやっていくしかないと決め込んでいる。

映画は、生活音しかほぼなく、私が一人過ごしている日常に近い音しかしない。ふとした時にことばやシーンが心を刺してくる。周りを固める親たちにも家族というものを考えさせられる。

どんなに世間がありえないと言ったとしても、彼らは生きている。今日も生活をしている。彼らに結婚することは許されていない。

他人に説明できることを人々は求めている。わかりやすい存在でいて、自分達の当たり前を脅かさないで、これ以上頭を使わせないでと、おかしい、こどもに、だれかになんて説明すればいいの?安心させてと、多数派ではないその人たちがおかしいことにしようとする。

心を伴う恋は美しい。見栄や体裁やとりあえずをはじめに恋はたくさんあっても、意味のある温かい恋はそうあることではない。

それなのに彼らは静かに息をひそめて、仕方ないものとして生きてきた。映画でも、大事な時に彼らは「ごめんなさい」と自分の存在を謝り、詫びる。彼らは罪を犯していない。1人の人として生活しているのに、自分の存在を罪かのように話す。恋人や大切な人がいるだけなのに。誰かに危害を加えたり、誰かの幸せを踏み躙っているわけでもないのに。

この作品は、邦画の歴代に名を残す名作だと私は思う。個人的には「これ、パルムドール取ってないの?パルムドールだした?」と思うぐらい。

世の中にどこまで受け入れられるのか、まっすぐこの清い映画を受け止められる人がどれだけいるかわからない。

日本という、自己責任と思い込みと妄想でできた社会で、この映画を受け入れられるかどうかは、その人が、いかに人生の辛酸を理解しているか、世間や建前に洗脳されていないかによるかもしれない。まずは見てほしい、そんな名作でした。

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